一進一退
遅くなりました。
申し訳ない。
剣が砕けた事での拮抗の崩れ、その刹那に俺は更に踏み込み、槍を繰り出す。
ここで呆けるのは三流しか居ない。流石は魔族と言った所か、フォルネウスは、即座に剣を捨て、徒手空拳で構えると、その切っ先を両手で挟み込もうとする。
俺は、咄嗟に槍の軌道を下方へとずらすと、一歩横に踏み込み、槍を回転させ、柄での打撃へと切り替える。
が、フォルネウスも挟み込もう著していた両手をスカし、そのままクロスガードへと移行した。
「ぐおっ!!」
フォルネウスの足元が沈み込む程の打撃ではあったが、それでもそれを耐えきったフォルネウスは、しかし、両足両腕共に咄嗟に動かす事の出来ない状況に成る。
俺は、受け止められた反動を利用し、槍をくるりと回し、がら空きになった胴体に石突での打突を入れた。
「……!!」
「うぬぅ!!」
が、しかしそれは弾き返される結果となった。てか、ゴムボールに突きを入れたみてぇな感触だわ。鎧には穴が穿たれてるってのに、本体にはダメージが通ってないって感じ。
「オレの言った通り、キサマが吹っ飛ばされたな」
フォルネウスがドヤ声でそう言った。
……むかつく。てか、吹っ飛ばされるって程飛んでないし。
とは言え、フォルネウスが魔族だって事も勘定に含めたとしても、思ってたよりも強いな。
取り敢えず、パズス軍が劣勢になってた戦場で、それをひっくり返してた魔族はコイツで間違い無いだろう。
そう言う意味では、コイツを俺が引き付けているってのは意味が有る。まぁ、この戦争に参加してる魔族がコイツだけってぇ事は無いだろうが、強者を一人でも減らせるのなら、大いに意味は有るんよね。こっちは数的には少ないからなぁ。それでも個人個人の戦闘力的には、か~な~り~、強い、けどな?
それは兎も角、間合いが開いたんで仕切り直し。俺の手には槍。フォルネウスは無手だぞ、と。別にここで『正々堂々、俺も武器は使わないぃ』とかって阿保はやらん。
戦争してて、フェアプレイの精神なんて寝言ほざく奴は、死んでオケ。ってかどうもフォルネウスは打撃耐性有るっぽいし、そもそも全身鎧ってぇ時点で、徒手空拳でなんざやってられねぇし。
少なくとも何らかの刃物が無きゃ、まともに攻撃が届かないからなぁ。
右半身で槍を構える。と、フォルネウスの方に兵士の内の一人が槍を投げ渡す。
うへぇ、せっかく武器を破壊したのに、これでまたイーブンに戻っちまった。




