そしてその報酬
真っ白だった視界が、次第に色を取り戻す。
防御モードのエクステンドは、何とか身を守る事に成功したらしい。プラーナが枯渇寸前で頭がクラクラするけどな。
いや、行けるとは思ったが、やっぱりオファニムからでもエクステンド出来たわ。うん、成功して良かった。
元に戻った視界は、見事な爆心地状態。結構な面積だったし、戦術思考ユニットを一基でも残したら拙いだろうと思ったんで、広範囲魔法を選択したんだが、見事なまでに何もなくなったわ。
いや、一応俺と、俺の後ろに庇った空間穴は無事ではあるがね。神殿の時の二の舞はごめんだ。
空間穴が“扉”と同種の物なら、ここはまた、世界のどこかなんだろうからな。流石に完全密封されてる場所からの帰還とかぞっとしねえわ。
俺はガーディアン程、この兵器に思い入れは無いが、何百年と狂い続けた“彼”に哀悼の意を示した後、ガラス化したこの地を後にした。
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「ひゃんひゃん!!」
「トール、さま!!」
宝物庫から戻ると、既に多脚多砲塔戦車は機能を停止していて、俺の帰還に気が付いたバラキとイブがすぐに飛んできた。
俺はオファニムから出ると、二人を受け止め、イブの頭とバラキの顔を撫でる。
『感謝をする』
二人の後から来たガーディアンがそう言って頭を下げた。
コイツも色々と思うところはあるだろう。何せ数百年連れ添った仲だったんだからな。そしてそれは、狂気へと堕ちて行くあの戦車を見続けた数百年と言う事でもある。
「お前は、これからどうするんだ?」
そうは言っても、すぐには決められないだろうし、そもそも、この遺跡を発見したのが聖王国である事を考えれば、国の上層部が彼を放って置くとも思えんがね。
『良ければ、君に同行したい』
「は?」
ちょっと予想外だったな。そもそも俺に同行した所で大して意味なんかない。別に俺の所にガーディアンを必要とする程のお宝なんて……
いや、元宝物庫収蔵品が居るっちゃいるんだが、聖武器達は自身の身は自分で守れるしなぁ。
「いや、自意識の有るお前に言うのも何だが、一応お前の発見者はこの国って事になってるから、俺の一存で如何こうは……」
「構いませんよ? そう言えば、報酬のハズの一部は払えなく成りそうですし、そもそも、トール殿に対する報酬は、少なすぎた訳ですから」
難色を示した俺に、リティシアがそう言った。
「良いのか?」
「はい、ここにある多脚たほー何とかでしたか? それだけでも十分な成果ですし、そもそも、ガーディアン殿に関しては討伐すると言う方針だった訳ですから、『その素材』を協力して下さった冒険者に与えると言うのは間違った話ではありませんから……それに、あの古狸共の腹をこれ以上膨れさせてやるのも業腹でしたので」
おおう、ちょっと黒い何かが……
「それに、これ位で、魔人族国の女王の婚約者候補と良い関係が築けるのなら、むしろ安い位だと思いますわ」
それを聞き、俺がエリスの方を見ると、彼女はサッと視線を逸らした。こいつ、外堀から埋めてく心算だな。候補である事は事実だが、俺は断ったよな? まぁ、それでもあきらめない宣言はされたから、未だに候補であり続けてるんだが。
まあ、聖王国に問題ないんならそれで構わんのだが、しかし、それ以前の問題が。
「ガーディアンを連れ歩くとなると、随分目立つよなぁ」
全長100mはあるよな? 顔だけで2m近くあるし。デカいんだよな単純に。コイツを連れ歩くってだけでも随分と目立つと思うんだが?
そうなると、いくらリティシアがOKを出したとしても『何だあれは!!』って事に成ると思うんよ。
飛空艇には、何とか乗るか? だが、家の教会の敷地内はともかく、中には入れんだろう。
「多分そのままだと、俺の家には入らんぞ? 何とかできるのか? 出来ないならスマンが無理だ」
体よく追い返したいとかそう言う事では無くマジな話。
『【拒否】それ以前に、そんな簡単にマスターの元に下れると思わない事です』
『【拒絶】そうデス!! ぽっと出のダンジョンガーディアンが、そうそうボク達と同じ立場に成れると思わない事デス!!』
『【非難】わたくしですら、個体名【トール】の元には行けないと言うのに……』
何言ってんの? おまいら。てか、元々職務放棄を持ち掛けたのは俺なんだから、最低限の責任は取るべきだとは思ってるんよ?
ただ、コイツをこのまま連れて行くのが現実的じゃ無いってだけの話で。
『ふむ、成程、確かにそうだな』
『【優越】分かったのであれば、高望みは……』
『つまりは、人間サイズに成れれば良いと言う事だな』
ガーディアンは、そう言うと、突然バタンと倒れた。
って、えぇ!! 何が起こった!?
と、頭部がもぞもぞと動いたかと思うと、その頭髪の中から縮小コピーしたかの様なガーディアンそっくりの上半身が現れ、そしてぴょんと、その頭部から飛び降りた。全裸で。
って、何が起きた!?
そこに居たのは身長こそ2m近いが、確かに普通の人間に見える男である。フリチンの。
「ガーディアン、なのか?」
「うむ、不必要な物を全て捨て“脱皮”したのだ。これで問題無かろう?」
脱皮!? 確かに普通の人間にしか見えなくは成ったが……別の意味で問題だらけだっちゅうの!!
「阿呆ぅ!! そのキングコブラとっとと仕舞えや!!」
俺は慌ててイブの目を塞ぎながらそう、叫んだのだった。




