取り敢えず面倒臭い事には成った
王都のオーサキ邸。その俺の部屋で、俺はふて寝しながら大きく溜め息を吐いた。原因は国王陛下に聞いた話。まぁ、パズスの事でだよな。
ふて寝している俺の周囲にはミカとバラキ、イブとティネッツエちゃん。それとラミアーとセフィ。
ウリとラファは床でゴロゴロ。ファティマとジャンヌは俺がふて寝してるベッドの側に侍っている。
さてさて、半精神生命体と成った所で、思考速度は人外のソレに成ったとしても、別段、思考能力まで、元の人間のソレを凌駕できる訳では無いらしい。
人間が年食って思慮深くなるのは、教育と経験。つまりは蓄積された情報による、スキップできるが故の結果の算出速度と、望んだ回答へと導けるだけの計算精度が高くなるが故であり、思考速度が常人のソレを凌駕するってだけでも、要するに教育と経験を繰り返せる時間が早くなるってぇ事で、逆説的に長期間必要となるそれらを短縮出来るってぇ事な訳で、何を言いたいかと言えば、魔族と言うだけでも、常人よりも思慮深くなれる筈なんだわ。普通なら。
ただ、どれ程思考速度が速くなったとしても、読み込んでる情報そのものが浅い物の繰り返しだったとしたら、結局は深い思慮には成らんのよね。
深く読み込んで思考する能力が思考能力だとするなら、それが出来ない奴は結局思考能力を高くするって事は出来ない訳だ。
そう言う意味では、一見した所のパズスは思考能力的に高くないのかね? と思える訳だ。
『【嘆息】だとしても、脅威に成らないと言う訳ではないのが、悩ましい所です』
「それな」
そもそもの話、魔族ってぇ輩は、その生態故に人類ってか生物に対しての不俱戴天の敵ではあるのだけれど、それ以上に単体でも国を亡ぼせるだけの能力を持って居るのが厄介なんよね。
【魔王】パズスは万魔殿と言う国を興して、その上で各国に対して宣戦布告……『さぁ、戦争を始めよう』と宣言して見せた訳だな。
単一で国を亡ぼせる怪物が、国を持って周囲に戦争を吹っ掛ける。その恐ろしさは、言うに及ばずだろう。
だってこれ、下手すりゃ殆どの国は、手も足も出ずに滅亡するの確定してる様なもんだし。それこそ、人類滅亡待ったなしってぇ感じな訳だ。
まぁ、その辺は国王陛下も危惧して居る所な訳で、『同盟国に危機が迫れば、援軍を送らんと言う訳にはいくまい? だが、半端な実力の者を送っても犠牲者の数を増やす事にしか成らんだろう?』って感じで言われてしまった訳だ。
「とは言え『No!』とは言えんのよね」
だって、その危機って最早国の滅亡な訳だし。俺が断って国が滅亡なんてすれば、それこそ屍山血河となり果てるだろうからなぁ。
例えそれが、パズスの言葉通り『人類を一段上のステージに押し上げる為』の行為だったとしても、その所為で幾千幾万の不幸が訪れる事に成るか。
挙句、その後に大災厄とやらも待ち構えてるらしいし? パズスによれば。てか、そう言う神託は無いのかよ光の神さんよぉ。
「脳内お花畑だからさぁ」
『ぽんこつなのだぁ』
「うん、まぁ、そんな気はしてる」
少なくとも、ヘンリエッタ王女が、そう言った神託を受け取って無いって事は、大災厄に関しては眉唾なんだろうけど……ちょいちょい聞いてる神託が、結構なポンコツっっぷりを醸し出してやがるのがさあ。光の神。光教会の主神なのになぁ?
俺自身の課題が出て来て、そっちの方でも忙しくなるなぁとか思ってたってのに、更に要らん厄介事迄増えちまった。全てをどうにか出来るって思う程傲慢じゃぁ無いつもりだけんども、手の届く範囲位は頑張るしかないよなぁ。
「トール、様、に、付い、てく、よ?」
「アオン!!」
「ワン! ワオン!!」
「ワンワン!!」
「わおんっ!!」
「わたしも! 頑張ります!」
苦笑してた俺に、イブとティネッツアちゃん、犬達が『一緒に戦うよ』と声を掛けてくれる。
「とーるんはわたしが守るよぉ」
『まもりますぞぉ~』
魔物'Sも一緒に戦ってくれるらしい。聖武器’Sは、当然と言わんばかりに側に寄って来る。
うん。頑張ろう。




