それもまた悪評では有る
遅くなりました。
申し訳無い。
「あの、失礼ですが! オーサキ辺境伯様であらさられますかっ?」
うーん、惜しい。そこは『あらせられますか?』であって『あらさられますか?』では無い。
そして俺は荒さない。
まぁ、そんな揚げ足取りは良いだろう。カンツァレラ子爵の長男くんと思しき青年が、遂にと言うか、とうとうと言うか、声を掛けて来た。
緊張をしてるように見えるのは、上位貴族に声を掛けると言うマナー違反に対するソレか、それとも実家が一悶着起こした相手に声を掛けていると言う恐れに対するソレか。
「そうだが、君は?」
敢えて慇懃に返す。もし、報復を考えて近付いたのだとすれば、カチンと来そうなものだが、むしろ緊張感を増したかの様に、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「はい、わたしはマルコ·カンツァレラ。カンツァレラ子爵が第一子です」
予想通りカンツァレラ子爵の所の長男か。これ、もしかして、報復と言うより、むしろ俺の事を恐れてるってぇ感じじゃね?
「大変、失礼かと存じますが、わたしに少し閣下の時間を頂けませんでしょうか?」
随分と謙った感じだけど、あの、カンツァレラの人間であれば、アザゼルに【ドラゴンスレイヤー】についての悪意ある風評を吹き込まれて居ないんかね?
ご当主は、アレに対応した時間が短かったらしく、洗脳の掛かりが浅かった様だけど、下の兄弟は、結構キてた感じだったよね?
基本的に夫人のお付きだったってぇ話だし、もしかして、この長男くんも、あまりアザゼルとは、相対して無かったって事か?
まぁ、現状、腹の底は見えては居ないが……取り敢えず、話に乗って、出方を見とくか。
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「本っ当にっ!! 申し訳御座いませんでしたあああぁぁぁぁ!!!!」
あまり、人に聞かせたくはない話でもあったからだろう。空いていたサロンに入り、キッチリとドアを閉めた状態で、カンツァレラ子爵の長男くんは、腰を90度曲げて、俺に謝罪をしてきた。
「……何の為の謝罪か聞いても?」
一応にでも、あの件は、ご当主との間で話は着いている。
だから、ここで謝られたとしても決定は覆らないし、温情も無い。
「わたしの家族が、閣下にご迷惑をおかけした事を!」
「それは、貴方個人の、と言う認識で構わないのかな?」
「……はい」
つまりは、長男くんの心情的なものでしか無く、決定に手心を加えて欲しいとか、そう言った事では無いって事か。
何か、かなり緊張してる様に見えるけど、まぁ、そういう事なら、俺の方から言うべき事とかって別に無いんよね。
「謝罪は受け取った。なら、もう良いかな?」
「お手数をお掛けしました」
もう用事もないんで、俺はサロンから退出する。
『うおぉ!! 許された!! これで宙を舞ったり、人格崩壊したり、市中引き回しの刑に処されたりしない!! 生き残ったオレ! ヨッシャァァァ!!!!』
……扉空いてると、結構、中の声聞こえるんな。てか、俺、そんな風に思われてるんか……いや半分は事実だけんども!! 自覚も有るけんども!!




