袖振り会わずに多生の奇縁
会場を出るのであれば、テラスで一服か、サロンで休憩かと言った所なんだろうが、取り敢えず第二夫人がお友達と一緒にサロンへと向かうのを見送って、敢えて下位貴族の集まってるビュッフェの所に、この世界、何だかんだ言っても、それ程食事事情は悪くないんよね。
俺がってか、エクスシーア商会が、冷蔵で色んな所の食材を新鮮さを保ったまま運べる様にしたって事もあって、異世界モノに良く有るメシマズ展開とかってのが、あまり無いからなぁ。
まぁ、その辺の改善も、俺のやったチートだと言えない事も無いんだが、結局、その素材をどう生かすかは、各料理人さん次第って部分があって、その辺りの研鑽は彼等の努力の賜物な訳だ。
むしろ、改善された流通事情に良く適応してくれたもんだと思うよな。
その割には、お菓子が未だにフルーツの砂糖漬け、砂糖まぶしなのは何でなんじゃろか?
そんな疑問を抱きつつも、用意されているカナッペやらマリネやら一口ステーキやらをパク付く。
上位貴族の所の料理は、口にされない前提の物が多くて、時間が経った後でも平気な物ばかりなんで、むしろ後でも良いかって感じ。
口にされないってのは、まぁ、あまり食べられる事が無いって事で、そもそも、上位貴族の中には食べながら歩き回る事が『はしたない』ともされるから、本当に隠れる様にササッとは食べるけど、あまり大っぴらに食べ歩いたりしないんよね。
基本はお酒を飲みながらの談笑と言うか。
小腹がすいたら、サロンに行って軽食を出してもらうって感じか。
下位貴族の方が、その辺はおおらかなんよね。それに、基本貴族ってのは、爵位が上の人間が許さない限り、声を掛けるって事をするのはマナー違反。だから俺は、辺境伯って立場を利用して、誰にも声を掛けられない事を良い事に、食べ歩きに勤しむとです。まぁ、グレーゾーン、グレーゾーン。
本当は、イブ達の方を見に行きたくは有るんだけど、流石に、基本平民であろう付き添い人達しか居ない、第二会場の方には行けないやね。混乱の元に成るだろうし。
何かトラブルがあっても、ファティマやイブならどうとでもするハズだ。多分。
食事を摘んている俺の事を遠巻きにしてヒソヒソと話している者も多い中、ジッと俺を見つめる視線も感じる。
目だけで確認するが、面識は無いな。
ただ、少し顔つきに見覚えが……あぁ、もしかしてあれ、カンツァレラ子爵の長男か?




