最終局面
今、俺の目の前には1頭の犬がお座りをしている。
犬。うん、まぁ、犬なんだろう。正確には犬っぽいロボット、じゃねぇや、ゴーレムな訳だが。
「えっと?」
『【紹介】コレが、今回私達が制作した、個体名【オファニム】キャリア用ゴーレム、つまりは“聖犬”です』
うん? うん。え?
「じゃ、じゃあ、この中にオファニムが入ってるのか?」
『【肯定】イエス、マスター』
そう言ってファティマが指を鳴らすと、聖犬の首から上と背がパカリと開き、中にオファニムが体育座りで入っていた。
いや、構わんのだが、体育座りて。
『【補足】因みに聖犬は、“彼”の転生した姿です』
彼? え、誰だ? ……あ、偽装鎧の事か!!
ファティマが彼なんて言う相手は、アレしかない。
最近使ってなかったからな。リサイクルされちまっまたか。そうか。
『【肯定】はい、聖犬を生成しようとした時に「僕を使っておくれよ」……と』
何そのスピリチュアル!!
てか、態々公都まで行ったのか!!
『【肯定】一時念話が繋がらなかった時に、もしかしたら、そちらに向かったかと思い……』
ああ、うん。それでオファニムを持って歩くのもどうかと思ったのか。オファニム、鎧型だけど、鎧みたいに分割できないからなぁ。
それでキャリアの聖犬を作ったのか。自走するキャリアか、便利だよな、うん。
しかし、聖犬か、メカドックだといかんかったんかね? よろしく! メカド……うん。これ以上は止めておこう。良いな、聖犬。良いよ。
てか、偶然だよな? 聖剣と聖犬を掛けてるとか無いよな? 流石にそれはイジメだと思うのよ。
まぁ、前世の世界だと同音だけど、今は違うしな。なら、偶然だ偶然。前も似た様な事あったしな。
良かった、イジメは無かった。
体育座りのまま、オファニムの胸部が開く。そこに乗り込み、俺は立ち上がった。
『【御願】あ、そのままの状態で止まってください。マスター』
「はい?」
『【命令】聖犬! 高速機動モード!!』
ファティマがそう言うと、聖犬の頭部が背面部に収納され、オファニムの腰辺りに聖犬の胸部が接続される。
その形状は正にケンタウルス!! 腰から下、犬だけどな!!
『【自慢】これで、高速での突破ができます。マスター!!』
あ、うん。
これで突撃してこいと。確かに多少の被弾程度なら、オファニムで凌げるしな。
「良し、じゃぁジャンヌ!! 来い!!」
『【歓喜】了解デス!! オーナー!!』
『【驚愕】な、何故ですか!! マスター!! 私に何か至らぬ点が!?』
いや、突っ込んでくなら槍の方が良いだろう? それにジャンヌなら、穂先から魔法撃てるし。今回は突破力重視で。
別にファティマに不満なんてある訳無いだろう? 俺の相棒はお前だけだと思ってるよ。
『【了解】そ、そう言う事であれば……』
渋々と言う感じでファティマが引いてくれた。聖槍状態になったジャンヌを持ち、構える。
出て来ていた多脚多砲塔戦車の群れは、仲間達が抑えてくれている。犬達はかき回し、同士討ちをさせ、イブが高火力の魔法を放っている。
聖弓は支援魔法を使い、仲間が攻撃を受ければ即座に回復し、ファティマも、連れて行って貰えない鬱憤を晴らすかのように、モップを振り回し、大立ち回りを演じていた。
エリスは……ガーディアンの張った結界の中で、リティシアとなんか話し合ってる。いやホントおまい、なんで来たし。
まぁ良いか。
「ジャンヌ!!」
『【了解】デス!!』
ジャンヌを構え、プラーナを注ぐ。体内循環を加速させ、オファニムと聖犬にもプラーナを循環させる。
速度が乗り、加速して行く。
俺の突撃に気が付いた戦車が、止めようと動き出すが、それを仲間達が押し止める。
まったく、頼もしい奴等だよ!!
一人の時とは違う、安心感を感じながら、宝物庫の空間穴に飛び込もうとした寸前に、戦車の追加が空間穴守ろうと飛び出す。
「読んでたよ、そう来るって事はな!!」
なんでファティマじゃなくジャンヌを選んだと思うんだ!!
ジャンヌが待機させておいた【ファイアランス】を即座に解放。俺のプラーナを注いだおかげか、何時もより威力を増したそれが、出て来た戦車を瞬殺した。
『【歓喜】これが、オーナーとボクの愛の力デス!!』
「ちょっと黙ろうか」
おまい、後でファティマに折檻されても知らんかんな?
空間穴から、宝物庫内へと躍り出てみれば、そこに散らばっているのは、使われなかった多脚多砲塔戦車の余った部品と、サーバールームの様に整然と並んだ、おそらく戦車の戦術思考ユニット。
それらが、自己修復用のアームで分解されつつ、戦車を組み立てていると言う光景だった。
周囲は未だに部品の為の素材を切り出しているのか、あちこちが、まるで鉱山の露店掘りの様に掘り進められ、虫食いの様な有様に成っていた。
なる程、“暴走”か。自己修復の定義を拡張し、自らを直しながら分解して、改良と言うていで、“別の”自身を組み立て直している訳か。
自らの勝利の為に、自分すらその材料として使う。確かにこれは“暴走”しているな。
だからこそ、終わらせる!!
ジャンヌを構える。体内循環を加速させ、プラーナをより濃密に成る様、濃度を上げて行く。オファニムがそれを増幅し、ジャンヌに注ぎ込む。
『【恍惚】ふぁっ!! オ、オーナー!! 濃いデス!! 熱いデス!!!!』
「言い方!!」
急遽組み上げられたらしい戦車が、戦術思考ユニットを守ろうと襲い掛かって来る、が……
「遅せぇよ!! ジャアアアアァァァァァァァンヌ!!!!」
『【了解】デエェェェェェス!! 【詠唱破棄】魔法名【エクス・プローーーーーージョン!!!!】』
極限にまで圧縮された魔力が、戦術思考ユニットに到達した瞬間、全ての暴威を解き放った。
俺は、左手を前に突き出し、エクステンドを発動する。
解放された爆発が、宝物庫の全てを飲み込んだ。




