ああ、そう言う
「所で……」
ひとしきり、俺を持ち上げ続けてたラボラス侯爵だったが、声のトーンを落として、そう、話題を変えて来た。
これは、コレが本命かな? 俺は、どんな状況でも対応出来る様に、少っしばかり、【プラーナ】を循環させる。
「【ドラゴンスレイヤー】殿の街には、ドワーフが居るとか?」
「え、ええ」
あれ? 思ってた話題とちょっと違う、か?
「実は、我が領地では、質の高い鉱石が産出されて居まして……」
あ、これ、営業だ。
******
ラボラス領は鉱山が有り、そこから質の良い鉱石が取れるのだが、しかし、それをインゴットに加工できる技術者がゴッソリと辞めてしまった事も有って、鉱石と言う形でしか他領に売る事が出来なくなっているのだとか。
「先代侯爵がやらかしましてね」
まぁ、ラボラス領の先代侯爵ってのが、典型的な「お貴族様」で、肉体労働者が詰める鉱山になんて寄り付きもしなければ、技術者である鍛冶師なんかも『学の足りない下等民』と言ってはばからず、見下していたんだそうな。
「家のメインの産業をなんだと思っているのかと」
「ぶっちゃけ、アホじゃ無いかと」
かなり失礼な事言ってると思うんだが、ラボラス侯爵、苦笑するしかない位には俺と同じ様に思ってるらしい。
で、そんな先代、自領のメイン産業を馬鹿にしながら、じゃぁ、何を名誉だと思ってたかと言えば、所謂、装飾品やら絵画やら、要は美術の方に傾倒し、まぁ、絵具に使う鉱石やら宝石何かの方を重要視して居たんだそうな。
「それでも、見る目が有ればまだマシだったんですが、どう見たってセンスのない、ギラギラした物ばかりをありがたがる有様で」
「ああ」
居るよね、やったらめったら金やら宝石で飾り立ててれば良いって感じの人。つまりは先代ってのはそう言った方向の人だった訳だ。
「つまり、同じ鉱石でも宝石なんかは優遇するけど、鍛冶に関する方向の人間は冷遇していた、と」
「お恥ずかしながら」
で、その不満が積もりに積もって、鉄関係の人間がゴッソリ辞めてしまったってぇ事ね。
例え、宝石、装飾関係や美術品が高価で取引されるんだとしても、産出量で言えば鉄鉱石のソレとは比べ物にならない上に、鉄ってのは人が生活して行く上で、結構な必需品に成ってるからなぁ。
それでも宝石の原石の産出量が多ければ、何とでもなったんだろうけど。ラボラス侯爵曰く、『領地を支えられる程ではない』んだそうな。
そんな事があったことも有って、半ば強引に先代を引退させ、自分が正式に侯爵を継いだは良いが、今度は先代の悪評が広がり過ぎてて領地に来てくれる関係者が居なかったらしい。
あぁ、俺んとこ、鉱石の産出は専門家と言って良い2種族が居るから、それ程熱心に情報集めて無かったからなぁ。コレが輸出って事なら兎も角、基本、自分のとこの領地で使うから、他の鉱山の事とか気にして無かったわ。
「で、家の領地にドワーフが居るって事で、話をしたかったと」
「はい、ドワーフの移住を融通して欲しいとまでは言いませんが、その技術の一端でも伝授して頂ければ、と。襲われて居た所を助けていただいておいてこんな話をするのも何ですが、噂に聞くオーサキ辺境伯と縁が出来たのは、もう、天の采配かと思いました」
……もう、天に祈る位しか出来ない程、追い詰められてたってぇ事か?
あれ? もしかしたら、ここで俺が助けてなければ、侯爵がそのまま魔族に成るフラグに成ってたんじゃね?




