こっちはこっちの仕事をする
「回復させる。触れるぞ!」
「えっ!」
トリアージが出来る程、医学に精通しちゃ居ないが、体内で燃える【プラーナ】の大きさで、どの程度生命力的な余力が有るかは感じ取れる。
なんで、【プラーナ】の弱っている相手から次々に回復させて行く。
その度に、当初は戦闘を犬達に丸投げで、倒れている騎士達に向かって行く俺に、目を白黒させたり、『待ってくれ、まだ、息が!!』とかって悲痛な叫び声を上げていた彼等は、今度は驚きの声を上げていた。
これはあれだな、本来なら神官しか出来ないとされてる【治癒】を俺がやってるからだな。無詠唱で。詰りは最初は、慈悲の一撃を下そうとしてると、勘違いされてたってぇ事だろうな。まぁさもありなんって感じだが。
とは言え、実際は【治癒】とは全く別の物なんだがね、俺、魔法使えないし、うん、使えないし。
神官なんかの使う【治癒】は、魔力を変換する事によって、『傷の無い肉体』って物を作り出してる“魔法”であり、それは『炎』やら『水』を作り出しているのと変わりはない。ただ、燃焼ってぇ現象やら水ってぇ物質を一緒くたにしている辺り、この辺は人の中で認識できるものを作り出しているってぇ意味では同じな訳で、それは要するに、『魔力を変換して作り出す』って事が魔法の本質なんだろう。
この辺、詳しく検証した事は無いけど、それらは飽くまで魔力によって創り出された“物”であり、実際のソレとはまた違うんじゃなかろうかと思ってる。要するに、区別がつかない程に同じ、代替品なんだと思うんよね。
俺の【プラーナ】での回復ってのは、要は生命力の底上げであり、本人の回復力をブーストしてるってぇ感じだろう。つまりは根本的に違う。まぁ、傍から見てて違いなんざ分かろう筈も無いが。
それは兎も角、俺が重篤な怪我をしていた騎士を回復させ終わったのと、ほぼ同時に、馬を喰らってたバイコーンが、こちらに視線を向けた。まぁ、新たにロックオンされたとも言う。
これ、あれか? もしかして生命力的な何かを感じ取って攻撃してるんか? 何か、元気そうな相手を優先的に攻撃してるみたいだし。
つまりバイコーンにとって“敵”足り得るのは生命力に満ちた相手であり、瀕死の輩は“もうすぐ食料に成る生物”でしかないってぇ事か。そして死んだら食い物、と。
こちらをロックオンしたバイコーンが、鼻息を荒くして、土を蹴る。
「辺境伯様!! こちらは引き受けます!! どうか治療を優先してください!!」
覚悟を決めたっぽい騎士が、そう言って俺とバイコーンの間に割って入った。そう言う心意気、嫌いじゃぁ無いやね。
「けど、まぁ」
その瞬間、バイコーンが突進しようとし、騎士が体を張ってでも、そのバイコーンを止めようと悲壮な覚悟をした。だが、それのどちらもが実現する事は無かった。
何故なら。
「首を斬られた後、5秒程は残ってるらしいな? 意識ってのは」
俺がそんな事を口にした後、バイコーンは駆け出し、自らの頭を置き去りにして次の瞬間には膝をつき、前方に宙返りをうって滑り進んで倒れ伏し、そして、自身の身体が倒れたのを確認したかの様に、地面に落ちたバイコーンの首は、そのままグルリッと白目を剥いたからだ。
「遅すぎなんだよ、行動が、な」




