フラグ通りですから
この場は問題無くとも、果たして子爵の手がどこまで伸びてるかが問題やね。
ただ、少なくとも、ファティマ達から連絡が入って無いことを考えると、そっちの方に手は回って無いってぇ事だろう。
そもそも宿には騎士団も居るし、犬達も居るし、大概過剰戦力では有るんだが。
そう成ると、むしろ問題に成って来るのは、従者の控えに待機している筈のジョアンナさんとマリエルか。
それでも騎士であるマリエルは兎も角、ジョアンナさんの方は、普通の侍女でしかない。家事や身の回りのお世話ってぇ意味では万能だけんども、決して荒事に強いってぇ訳じゃぁ無い。あの公爵家の中で、たった一人で第二夫人を守り抜いた精神的強さは、称賛に値するがね。
連絡の取り様が無いんで、無事かどうかも不明だけど、そこはクッ殺女騎士に期待するしか無い。彼女だって、別に弱いって訳じゃぁ無い。ただちょっと『クッ殺』されたがるってぇだけで。
「まぁ、座して待つってぇ心算も無いが」
今の所、ネフェル王女が次男くんを完封している上で、どうにか無力化する為の隙を窺ってるってぇ所なんで、そっちはネフェル王女に任せて構わんだろう。そうすると、俺が相手せにゃ成らんのは、三男と末っ子と夫人の三人ってぇ事だな。
ご当主? 自分の奥さんが執事と懇ろになってたらしいって事と、息子等が自分の事を『腰抜け』だとか『腑抜け』だとかって罵ってた事で意気消沈しちまってるわ。まぁ、同情はしないが。
例え、アザゼルに思考を誘導されてたとしても、やると決めたのは自分で、実際、やっちまってるんだから、そこに同情してやる謂れなんざ無い。
もしかすると、このご当主の方が、思考誘導に掛り難いんだったり、何らかの意思の力で打ち破ったりしたのかもしれない……うん。有りえんな、言動を見てる限りの意志薄弱さだと。
結局の所、この家族は乗っかった時点で五十歩百歩の目くそ鼻くそなんだからさ。取り敢えず邪魔をしないってか、邪魔が出来ない状態だってんなら、そっちに割く労力は温存させて貰う。魔法を使う末っ子君は兎も角、三男君が手を出さないってのが一寸意味が分からない。何か奥の手とか切り札的な物が有るのかも知れんし。
「何をしてるの!! オーサキ伯が取り残されてるでしょ!! 狙いなさい!!」
「え!? で、でもぉ、ママァ」
「いえ、母上の言う通りです!! 戦争は弱い所から叩くのがセオリー!! 仲間が痛い目を見るとなれば、こちらの言う事も聞くはずです!!」
言ってる事は間違ってなさそうなのに、根本的に間違ってる感。そもそも、俺を指して弱い所と来たもんだ。
あと、別に俺は、ヘンリエッタ王女の【結界】に入れずに取り残された訳じゃ無いからな?
オロオロとしながらも、母と兄の二人から言われ、俺の方にタクトを向ける末っ子君は、それでも【ファイアボール】の呪文を唱えると、俺の方へと火球を飛ばして来た。
俺は軽く呼吸を整え、【プラーナ】を循環させると、身体を巡って居るソレを拳に集中させ、その火球に叩き付けた。
「なっ!!」
俺の拳と接触した火球が爆発し、辺りが煙で包まれる。
「やったか!?」
三男君がそんな事を口にする。うん、自分で言うのも何だけど、それ、相手が無傷だって言うフラグだかんな?




