されど彼は戦車と踊る
「あ・ほ・かああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
弾幕、と言うか絨毯爆撃じみた砲弾の群れを必死に避けながら、俺は叫んでいた。
暴走気味の兵器って、多脚多砲塔戦車じゃねぇんか!?
「暴走しかかってた兵器ってなんじゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺の余波の流れ弾を必死で受け流していたガーディアンが、それに答えた。
『戦略型思考指令戦闘多脚多砲塔戦車……のハズだ。恐らく、宝物庫の中で増殖したのだろう』
属性多すぎいいいいぃぃぃぃぃぃ!!!!!!
古代文明人!! 一つの物に属性つぎ込むの、本っ当に好きだよな!!
「てか戦車が増殖ってなんなんじゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
『恐らくは、自己修復プログラムの暴走で……』
「暴走って言えば、何でも許されるとか思ってんじゃねぇぞ!!」
自己修復と自己増殖は別もんだからな!?
仮にも最初の1体を追い詰めたからか、戦車達のヘイトは完全に俺に集まってる状態だ。
下手にリティシア達の方に向かわなくて良かったと言うべきなんだろうが、それはそれで、こっちが避けるので精一杯な上、流れ弾だけでもガーディアンの結界が、景気よく破壊され続けているわ。
ガーディアンはガーディアンで、その都度結界を張り直してはいるが、それだって決して無限に張り続けられるって訳じゃ無いだろう。
だが、こっちにしたって、連携し、一定距離を保ち続ける多脚多砲塔戦車達に対し、攻略の糸口を見付けられてないんよ。
本当に、遠距離攻撃手段を開発して無かった事が悔やまれる。俺の攻撃手段が、基本懐に潜ってのインファイトだったし、身体強化系で遠距離への攻撃って何するんやって話だったからな!
だが、こうやって、近付く事ができない状態になると、その均衡を打ち破る為にも遠距離からでも攻撃できるって所を見せられなきゃ話に成らん。
畜生!! そっち方面を後回しにしてたツケが、こんな所で仇になるとは!!
ファティマが居れば弾丸を打ち返す事も、オファニムが居れば、多少強引でも弾幕を突破する事も出来たのに!!
ああ、分かってる。そんな事は言い訳にもならん。闘いや狩りが、全て万全の準備が揃った状態でできる訳なんざない。
つまりは、こういった状態でも戦える手段の模索をしてなかった俺がこの窮地を招いたんだ。
多脚多砲塔戦車の弾が実質無制限な関係上、このまま避けていたってジリ貧だ。
どうする? 何ができる?
そんな風に考えている間にも、床も壁も砲弾でボコボコになり、普通に走る事すら困難な状態に。
…………
「!!」
俺は、近くにあった瓦礫を思いっ切り蹴っ飛ばした。
瓦礫は飛んで行き、壁にぶつかって凹ませる。
「トール殿!?」
『錯乱でもしたんですか!?』と言う様な表情でリティシアが叫んだ。
大丈夫。まだ大丈夫。
こうじゃなかったか? いや、インサイドだったか?
走りながら手頃な瓦礫に目星をつける。
蹴り方を変え、もう一度。
瓦礫が飛んで行き、壁に穴を開けた。
「良し!」
砲弾を回避しながらニヤリと笑う。そして三度目の瓦礫蹴り。
ドゴォッ!!
「!!」
『!!』
リティシアやガーディアン達が息を飲むのが聞こえる。今俺が蹴った瓦礫は、狙い違わず戦車にブチ当たると、その砲台を破壊したのだ。
良し! これで、遠距離攻撃手段は手に入れた!!
さぁて、仕切り直しと行こうか!!
******
戦車は、自分が放った砲弾で出来た瓦礫が、俺の武器に成ると理解すると、すぐにレーザーに切り替えて来た。
だがな、お前、自分がどんだけ砲弾ばら撒いたと思ってんだよ。
当分無くなる訳がない量だぞ?
次々と瓦礫を蹴り、砲塔やら銃塔やら多脚やらを狙撃する。
お互いに事実上の無限弾薬。一方的だった攻撃の均衡も、次第に盛り返しては来た。だが、細かい制御と連続性はレーザーの方が上か。
砲身冷却の為に、全く撃ち続けられるって訳じゃないのが救いだな。
クソっだんだん膠着状態に成ってきやがったか。俺のキックの命中率が低いのもあるが一撃で倒せる訳でもないんで、中々数が減らない。
今はエクステンドを防御に割り振ってるんで、俺の方もそれ程ダメージには成らない。なんで、どちらにも決定打がない状態だ。
何か、もう1手、もう1手が……
「は?」
思わず声が漏れる。
俺の気の所為でなければ、これは……!!
宝物庫の空間穴から聞こえてくるのは、ガション、ガションと言う足音。
いや、ちょっと待て。マジで!?
そして出てきたのは……多脚多砲塔戦車の群れ。
「ここへ来て、向こうの増援、だとっ!!」
ようやっと五分に成ったばかりなのに!!
こっち方面へ均衡を崩したかった訳じゃなかったんやぁ!!
宝物庫の方に牽制をかけたいが、現状、今いる戦車達相手で手一杯なのも事実。
『おい! 大丈夫なのか!?』
「トール殿!!」
……まいったね? そんなに心配される程不甲斐なかったか?
腹ぁ括る!! 出し惜しみなしだ!! 俺がこの後どうなろうとコイツ等殲滅して、お前らは守ってやる!!
だから、そんな心配そうな顔をするな、リティシア! ガーディアン!!
増援の戦車は、既に情報共有を終えているらしく、その姿は、砲塔少なめ銃塔多め、装甲バリ堅。つまりは俺特効。
増援を含めた戦車達が、レーザーをランダム乱射する。ステップワークを繰り返す俺にとっては、偶発的な直撃が起こり得るこっちの方が怖い。
だが、それがどうした!! 頭に直撃して即死さえしなければ動いて居られるってのは、さっき確認できた!! 例え、体中に穴が開いたとしても、お前らはぶっ潰す!!!!
魔力庫のプラーナを全放出し、空気中のプラーナも濾し取る。体内循環を濃く、そして速く。
頭だけを守り、身体を貫通するレーザーはそのままに。どうせ傷口は焼かれ、血なんざ出ないんだから、それは無視だ!!
あの時の感覚をトレースしながら、エクステンドも高速循環させる。スリットが開き、プラーナが噴出する。
視界が狭く、暗くなってゆく。これなら!!
俺はそのまま飛び出し、目の前の一台を殴りつけた。
ボゴッ!!!!
鈍い音がして戦車が壁に叩き付けられる。先ずは1台!!
そこから横っ飛びで、接敵し、肘を突き入れる。同じく吹き飛んで転がる戦車。これで2台!!
増援の戦車からの一斉射撃を、頭だけを守りつつ、致命傷に成らない物は無視し、そのまま三台目に。
喉の奥から鉄の味がせり上がって口内一杯に、そしてそれを吐き出しながらも四台目を潰した。
口内の鉄の味に咽る。
まだだ、まだ終わらんよ!!!!
と、俺が5台目に飛び掛ろうとした時だった。
『【停止】そこまでです!! マスター!!!!』
え?
その声が脳内に響き、俺の後ろから赤い閃光が飛び出して行った。




