思惑は分かる
今日到着した街は、カンツァレラとか言う子爵領の領都で、家の領地とは三軒向かい位の遠さの領地。
特に関係性の無いお貴族様なんで、普通に宿を借りて宿泊する予定だった訳なんだが、何か、その宿の方に領主さんからの晩餐のお招きの手紙が届いていた。
「てか、ここの領主、まだ王都に向かって無いんか」
「新年祭は、その領地の代表が参加すれば良いのだから、必ずしも当主が参加しなければならないって言う訳じゃないの」
俺の疑問に、第二夫人が答えてくれる。
成る程、まぁ分からなくもない。例えば、社交が苦手な当主当人よりも、社交が得意な身内が出た方が、周囲の貴族の覚え的には目出度いって事なんだろうしな。
てか、俺も代理とかで良くないかな? 呼び出されて度々王都まで行ってるんだから、今さら新年だからって、国王陛下の所に顔出さなくてもさぁ。
「トールちゃんは当主だし、社交界も馴染が薄いんだから、なおの事、他の貴族との顔繫ぎは大切に成るのよ?」
「……分っては居るのですがね」
俺が新年の宴に行きたくないってぇのが顔に出てたのか、第二夫人が俺を窘める。貴族にとって、社交ってのが重要なファクターだってのは理解してるんだ。理解はしてるんだが……
この世界、情報ってのは、よっぽどちゃんと収集する手段を持って居ないと、それこそ噂話と言った程度の物しか集まらないからな。そしてその噂話って奴は、その話をした人間の主観ってヤツがどうしたって混入しちまう。
その過程で、憶測だったものが確定的であろうって話に、そして確定的だろうってなだけだった話が、事実だってぇ事にされる事もまま有る。
俺も【赤銅のゴブリンライダー】の話だとか、【ドラゴンスレイヤー】の話だとか、結構好き勝手に噂されまくって、良い迷惑だったってぇ事例がごまんと有る。
もっとも、俺の方の噂話に関しては、魔族が関わってる可能性も結構高いんだがね。
主に、俺が偶々では有るんだが、ある魔族の計画を潰して回ってるてぇ様に見える感じに成っちまってる事も有って、その魔族に目ぇ付けられてるみたいなんでなぁ。
それは兎も角、招待状だ。向こうは子爵で、俺は辺境伯。別に断ったとしても問題はないんだがね。そもそも、王都に向かってる最中ではあるし、俺とカンツァレラ子爵とやらが、同じ派閥であるだとか、仲が良いんだとかってぇ訳でも無いからな。まぁ敵対もしても居ないし、敵対したいってぇ訳でも無いが。
ただ、招待状には『エスパーデル公爵夫人と、ゲンゼルキアの王女殿下及び、サウペスタの王女殿下様方も、是非に』とかって書いて有るんよね。その事も考えると、恐らく、狙いは俺と言うより、むしろ第二夫人や王女さん達とのコネクションと言うか、顔を繋いで縁を作りたいってぇ所なんだろうなぁ。
まぁ、良いけど。




