第3ラウンド
アレゴロウが、組み付かれ、投げられる寸前にまで追い詰められる場面が増えてきた。
それでも“増えてきた”だけで収まってるのは、アレゴロウの反応速度故であり、スターリンが組み付いた後からの行動よりも、早く迎撃出来て居るからだろう。
もっともそれは、アレゴロウの反応速度が優って居るからだけ、と言うよりも、スターリンが組み付いた後投げると言う事にこだわっているからでもある。それも『魅せる』事前提で。
プロレスラーとして過ごして来た日々故に、“見られる”と言う事を前提に技を選択する癖が付いているスターリンは、見え辛く成っているが故に、兎に角組み付く事に意識が行きがちに成っている現状、組み付いた後で、『どう投げるか?』を意識しているのだろう。
とは言え、そんな思考は、刹那に満たない時間では有るが、戦闘中の、それも超近距離で相対している場合には、致命的な隙に成る。
投技ってのは、相手を投げようとした場合に、どうしても一瞬の溜めが必要で、その時に突き離されてしまえば、投げる事自体が困難に成る訳だ。
『柔よく剛を制す』なんて言葉は有れど、7、80kg有る成人男性を投げようと思えば、相応に筋力は必要だし、梃子の原理云々で力を最小にしたとしても、それを支えるだけの支点の力が無けれは、そもそも梃子の原理そのものが成立しないからな。
全く筋力って物が必要と成らない程の投げ技を成立させる為には、かなりシビアなタイミングと勢いが必要になるんだわ。
実際、柔道やら相撲でポンポン相手選手を投げてる様に見えても、その実、投げ技に入るまでは、タイミングを窺いながら投げ易い様に、相手の体勢を崩してる訳だし、そもそも組み合う時点で、自分の得意な投げ技に有利な場所を選択して掴んでいるんよね。
だから、本当に組んでから『どう投げようか?』なんて考える事なんざ殆ど無い。もっとも。ソレが出来るほどに多彩な技を有してる選手ってのも居るっちゃ居るんだが、結局、その手の人間ってのは、ある種の天才だし、その域にまで至らなければ器用貧乏って事で終わるんだがね。
まぁ、それは置いておいて。当初こそアレゴロウ有利で進んでいた異種格闘技戦だったが、地力の差で、スターリンが盛り返してきてはいる。ラウンドは3ラウンドも終盤。アレゴロウが投げられかかる場面が多くなって来て居る。
天性のバランス感覚で凌いではいるが、すでに息は荒く。動きもかなり鈍って来ている。とは言え、スターリンの方もダメージは大きい。
既に、クリンチ状態に入ったら拙いってのは理解できたらしく、アレゴロウも、組み付かれた後は、必死に拳で、肘で、スターリンを叩き、膝を入れ、蹴りを放って、逃げ延びると言う行動を繰り返している。
カーーーン!!
第3ラウンドの終了。
お互いにコーナーへと戻り、呼吸を整える。てか、アレゴロウの方はセコンドも居ない。まぁ、単身この街に乗り込んで来ているから、当たり前っちゃぁ当たり前なんだけんどもさ。




