地の底で蠢く
石造りの階段の最上段、ラファはそこで天井部分をカリカリと引っ掻いていた。
よ、良かった。無事だった。
おそらく、地面が崩れ坑道に落ちてしまった後、見た事のない場所に興奮して、好奇心のまま走り回っていたのだろう。
後に残されたガブリの心労を考えると、どれ程のものだったか。
俺達の事に気が付いたラファは、「ヒャンヒャン!」と嬉しそうに吠え、階段を駆け降りてくる。
流石にこれはダメだと思ったのか、ミカが彼の鼻っ面に噛みつき、ラファは「キャイ~ン」と悲鳴をあげた。
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落ち込むラファを抱きかかえながら、俺は階段を上がる。微かに空気の動きを感じるって事は、外に繋がっているんだろう。
石で塞がれた階段上部は、押して見ると若干ガタついた。
思いっきり押して見ると、僅かに隙間が空く。そこから見えるのは、倉庫っポイどこか。うん、これ以上は拙いな。
振り返って見ると、階段下の坑道部分の左右には、何やら出入口らしき穴も開いている。
中を覗いてみるが、明かりが無いせいもあって、ほとんど見えない。
各部屋の形状は大体同じ。ほぼ正方形の部屋で、さらに奥に扉がついている。
う~ん、いくら俺が夜目が効く方だと言っても、流石に暗すぎるな。
ちゃんと調べようと思ったら、光源を持って出直した方が良さそうだ。
ついでだし、逆側がどうなってるか確認もしとくか。
ラファを抱えたままミカによじ登ると、彼女はタスタスと歩き始めた。
戻りながら坑道を見回す。良く良く見れば、所々に木組みの補強がしてあり、通気孔らしき孔も開いている。
それどころか、あれはランプか?
一定間隔で、そんな感じのものが連なっていた。
こんな町中に、坑道と言うのもおかしな話だ。出入口になっているであろう天井部分が、平らな石で塞がれていた事と言い、これだけ整備されているにも関わらず使われていない事と言い、もしかして拙い物を堀当ててしまったかもしれない。
俺の予想が正しいなら、非常時以外には使われないハズだから、しばらくは構わないか?
ただ、貧民街の穴の方は見つからない様に細工をしておかないと、厄介な事に成るな。
ラファを心配して走っていた時は、あまり気にならなかったが、貧民街の穴のから、あの終着点の場所までは、相当な距離がある。ミカの足でも1時間以上あったんだからな。
それこそ、貧民街から街の逆の端まで真直線で結んだくらいの距離じゃなかろうか?
そして、おそらくあの終着点真上は公爵の城だろう。
つまり、俺達は城からの秘密の抜け道を堀当ててしまったんたよぉぉ!!
なっ、なんだってえぇぇぇ!!!!
……まぁ、予想通りだったらの場合だけどさ。
貧民街からの穴のまで来ると、ミカが「どうするの?」て感じで俺の方に視線を寄越す。
俺はこのまま真っ直ぐにって意味を込めて、首筋をポンポンと叩いた。
ミカがそのまま歩き始めると、抱いていたラファが身を捩って地面に降り立ち、走って行こうとする。
流石にさっきの今だ、それはミカが許さなかった。
「バウッ!!」
その声に、ラファがビクリと身を振るわせると、ミカの横まで戻って来る。
この辺はやっぱり“お母さん”だよな。
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逆側の道が石壁に阻まれた行き止まりに成るまで、それほどの距離はなかった。
とは言っても、5分位は進んだ気がするが。
石壁の一部を押すと、横にズレ、石の扉が現れた。
少し重かったが、取っ手付の石戸をこじ開けると、横向きに石の階段が有って、上りきった場所は大人なら屈まなくちゃいけない石造りの部屋。
何ヵ所か外を覗ける場所があったので、覗いてみると、古びたお堂の様な場所に見える。
一ヶ所だけ不自然にへこんでいる1m四方の壁を押すと、あっさりと倒れ、外に出る事ができた。
場所は神様だろう石像の裏手。その台座部分だ。
思った通り、お堂とか祠みたいな場所だった。
その祠から出ると、平原が広がっていて、右手すぐに木々が繁って居る。
森だろうか?
すぐ近くには街道らしきものがあり、祠は、その街道から脇道に入る形で建てられていた。
森を迂回する形で延びている街道を逆に辿ると、そっちには立派な石造りの防壁が見える。
その中心にある、一際高い建物が公爵の城だろうか?
「あれが街なんだろうな」
「クゥン、クゥン……」
好奇心が爆発したせいで、興味のおもむくまま走り出そうとしたラファを羽交い締めにしながら、俺はそんな声を漏らす。
頭を擦り寄せるミカに頷くと、俺達は踵を返して、祠の中に戻ったのだった。
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「うん、抜け道の方向は悪くなかったんだ。ちょっと深く掘りすぎただけで」
いつまでも使っている訳には行かないが、緊急避難には使えそうだな。
ガブリには引き続き、坑道もとい秘密通路にぶつからない様に穴を掘ってもらう事にする。
秘密通路にぶつかった場所から上に向かえば、そう遠くない内に外に出れるだろう。
秘密通路は、ガブリの方の抜け穴が出来しだい、繋がってしまった所を塞ぐつもりだ。
あんなもん知ってるなんてバレたら、命がいくつあっても足りんわ!
まぁ、それまでは有効に利用させてもらうけどな!
どうせ今は使ってない訳だしな!!




