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再び
あれから、私は外で酒を飲むのをやめた。エレベーターを使わなくてもいい一階へと引っ越しもした。生来とてもビビりな性分なのだ。あのような体験は二度とごめん被りたい。だが、それでもふと思い出す。考えてしまう。あの出来事は何だったのかと…
鏡の世界に迷いこんだ?
それともエレベーターの怪異で異世界に?
どちらにしろ、あの時のあの女性の顔が忘れられない。私が叫び声をあげた時に見せた、とても淋しそうな顔が…
ため息をつき、残業を終えて深夜の会社をあとにする。エレベーターを降りると、見慣れた風景が目の前に広がる。もう住んではいない、そこにあるはずのないマンション上階からの景色。私は疲れで思考が追い付かず、何かに身を委ねるようにふらふらと歩く。そして、あの扉の前に辿り着く。
扉を開けると、そこには彼女がいた。
「おかえりなさい…」
「ただいま…」