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知らない部屋
「え…と… ここ、私の…」
「おでん、ちょうど温まったところなんですよ。もう少し飲まれます? それとも、お茶にします?」
男の疑問を遮るように、優しい声と笑顔で誘い入れる女性。黒髪、ロングヘアー、大きめサイズのセーターとジーンズ。ちょっと小さなエプロンと、非常に私好みの格好であり、金に光る瞳に見つめられると、お酒の力も相まって拒否するなど不可能だった。
おでんの匂いがする。自分好みの味付けの香り。部屋から漏れでる温かい空気。男の前半身を温めて引き寄せる。のだが、それに反して後ろ半身が、背中がざわつき体温が奪われてゆく感覚。一歩一歩、ゆっくりと部屋へと進む度に熱が徐々に消えてゆく。様々な要素で思考がはっきりしないが、これだけは理解出来た。
ここはヤバい
動かぬ身体に鞭を入れるように「うわああぁぁっ!」
と絶叫する。一瞬、彼女の表情が変化し、同時に思考がはっきりし身体が自分の意思で動くようになった。そう思った。そして「ごめんなさい!」と叫んで一目散に部屋から出てエレベーターに乗り、マンションの外へと出たのだった。