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第71話 表彰式


『皆々様!! お待たせ致しました! 舞台の用意ができましたので、これより表彰式を()り行います!!』


 メインスタジアム中央。

 選手達が激闘を繰り広げていたグラウンドには今、表彰台が設置されていた。

 三と描かれた台には吉良赫司。(きらあかし)

 二と描かれた台には染谷一輝。(そめやかずき)

 そして、一と描かれた台には風早颯(かざはやはやて)が立っていた。


『メダル授与を行うのはこの人!! そこに存在するだけで犯罪の抑止力となり、国防となる世界最強の! いや、人類史上最強の紋章者!! 朝陽昇陽(あさひしょうよう)だぁぁぁああああああ!!!』


 司会進行者のけたたましい紹介と共に火柱が立ち昇る。

 その炎を引き裂いて現れるは、紅蓮の頭髪に太陽を想わせる黄金の瞳を宿す人類史上最強の紋章者。


 ピシッとスーツを着こなす美丈夫は無言のままに歩みを進めると、司会進行者から銅メダルを受け取って、吉良の首へかける。


「第三位おめでとう。扱い(づら)い紋章術でよくこの結果を勝ち取った。その必殺性を警戒されていなければ優勝も十分あり得たことだろう」


 吉良の紋章術は彼自身理解しているように、選抜選手の中で最も応用性に乏しい、一撃必殺特化の扱い難い紋章だ。

 しかし、そんな紋章でありながら努力と策謀で第三位の順位に着いてみせたことを朝陽は称賛した。


「ありがとうございます。まだまだ速さについていくことが難しいのでそこが課題ですね」

「そうだな。概念格紋章者にとって音速戦闘は鬼門だ。こと、決勝戦に至ってはプロですら対応できるものが限られる速度領域での戦いだった。助言するとするなら、……そうだな。引き続き凍雲(いてぐも)に師事すると良い。演算による未来予測を磨けばお前は必ず高みに至れる」


 吉良は朝陽の助言を胸に、深々とした礼で応える。 

 続いて銀メダルの授与に移る。


「準優勝おめでとう。二回戦で見せた奥の手を囮とした二の太刀は見事だった。決勝戦でも常に主導権を握る立ち回りは評価に値する」


 染谷は全ての戦いにおいて一切慢心することがなかった。

 一回戦から奥の手の一つ、“神騎抜刀”(しんきばっとう)を発動。

 続く二回戦では最大の奥の手にして、一太刀で武器が自壊してしまう諸刃の剣、“白斂”(びゃくれん)すらブラフとして、二の太刀である木の枝を用いた“白斂”で勝利をもぎ取った。

 そして、決勝戦では与えられた恩恵を駆使して終始主導権を握った立ち回りを披露した。

 

 己の実力に慢心せず、使えるもの全てを活用してみせた染谷の活躍はプロの目から見ても素晴らしい立ち回りだった。


「ありがとうございます。学生会長として優勝を逃した事は悔しいですが、満足のいく戦いができました」

「そうか。お前の強さは既に特務課でも通用するだけのものだ。以後も(おご)らず、研鑽に励め」

「はい」

 

 そして、金メダル授与に移る。


「優勝おめでとう。流石は紫姫(しき)の弟子だ。まだまだ紋章術を己のものと出来ていないが、それは伸び代だ。地力を鍛えればお前の望む高みにだって至れるとも」


 風早はまだ少し紋章頼りな面が見受けられる。

 偉人格幻想種:アキレウスの紋章は攻防、そして俊敏性とほぼ全てにおいてトップクラスの紋章だ。

 その強靭な紋章を頼りにする気持ちも分かる。

 だが、だからこそ紋章の力を振るうという意識があり、完全に己の力として支配できていないのだ。

 

 世界のトップクラスの紋章者は紋章を頼りにはしない。

 紋章とは振るおうと意識して使うのではなく、自分自身の力としてさも当然の力として振るうものだ。

 ほんの少しの違いではあるが、それこそが凡百と一流を隔てる高い壁でもある。


 故に、真に一流の紋章者はみな、紋章を我が物とし、生半可な“超克”では捻じ曲げられない強靭な紋章術(己だけの法則)として仕上げている。


 朝陽は風早ならばその領域に至れる。

 紋章を極めた先の領域、『覚醒』へと至れると確信しているからこそ、彼は風早の紋章術を未だ未熟と称したのだ。


「ありがとうございます! もっともっと頑張って、強くなります。そして、師匠を護れるくらいの漢になってみせます!」


 風早の言葉に朝陽は目を丸くして驚く。

 何せ、彼の言葉は彼の師匠である八神に対する告白とも取れるものであったからだ。

 少年らしい青臭いセリフに、“それは頼もしいな”、と小さな笑みと共に溢した朝陽はトンッと彼の胸に拳を当てる。


「アイツは何かと過酷な運命にある。いつまでも俺が護ってやれる訳でもない。だから、」


——頼りにしてるぞ。


 その言葉を受けた風早は思わず涙が溢れそうになる。

 当然だ。

 ずっと憧れていた存在に、憧れるきっかけとなった英雄に、そんな言葉をかけられて嬉しくないわけがない。

 

 だけど、彼はその涙を堪える。

 もう憧れることはやめたのだ。

 それに、すぐ泣くような男が彼女を護れるような漢になんてなれるものか。


「はい! すぐに追いついて見せます!」


(彼女のことだけが懸念(けねん)だったが、杞憂(きゆう)だったな。彼女の周りには、こんなにも頼もしい仲間がいるのだから)


 朝陽は彼女と出会った時を想起していた。

 初めて彼女に出会ったのは夜闇(よやみ)に包まれた河川敷。

 土御門(つちみかど)の応援要請を勝手に受け取って、制圧対象だった研究所から逃亡した少女の身柄を保護するべく街中を探し回っていた時だ。


 彼女はその心を体現するかのように傷だらけであった。

 デリット攻略作戦時に(ジン)が得た情報によれば、彼女のいた研究所は彼女の為だけに用意されたもの。

 当然味方などいるはずもなく、傷を舐め合える同類すら居なかった。


 そんな身も心もボロボロだった少女は、河川敷の()き人々の手によって救われたことを契機(けいき)に、多くの人々と出会ってきた。


 彼女が特務課に来ることとなった原因である朝陽自身を始めとし、彼女を護る為に彼女自身と戦った凍雲。


 彼女を護る為に影で暗躍し、上層部から紋章武具の所有権を勝ち取り、彼女に道を示したソロモン。

 

 彼女の良き仲間として、友人として、時に師として彼女の心の拠り所となった第五班の面々。


 それだけでない。

 特務課の他班の面々だって交流は少ないにしろ、彼女を気にかけている者は多い。


 そして、ここにまた一人。

 彼女を想い、遥か高みに追いつきたいと、彼女を護れるような男になりたいと()える一人の少年がいる。


 味方など一人もいなかった彼女の周りには、いつの間にかこんなにも多くの味方で溢れていた。

 そして、これからも明け色に輝く陽射しのように暖かな彼女は周囲を惹きつけて止まないだろう。


 だからこそ、彼は一つの考えを浮かべる。


 今はまだ、その時ではない。

 けれど、もしその時が来たのなら。

 

——彼女を護る者は、お前なのだろうな。

 

 少年たちの胸には悔しさと向上心。

 英雄の胸には安堵と希望。

 

 各々の想いを胸に、表彰式は幕を閉じた。

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