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第57話 瞬殺


 その後も試合は恙無く(つつがなく)進行し、


『続いて一回戦第三試合を始めたいと思います。選手!! 入場!!!』


 司会進行者の大音声を合図に仮想空間内に二人の選手が転送される。

 フィールドは本来のスタジアムのまま。

 整地された広々とした地面が広がる。

 遮蔽物は何もなく、ただ土だけが広がりをみせている。

 

『紋章高専四年A組! 内田(うちだ) (れん)!!』


 一人は内田蓮。

 黒髪ベリーショートの爽やかな好青年だ。

 ボクシング部主将である彼は常ならばボクシンググローブをつけているところだが、今回は素手だ。

 動物格:シャコの紋章者である彼には自前の甲殻があるため下手な防具など必要ないのだ。


『対するは紋章高専四年A組!! 染谷(そめや) 一輝(かずき)!!』


 対するは染谷一輝。

 前髪を右へ流したショートヘアの彼はメガネの奥に臨む双眸で対峙するべき敵を見据える。

 その腰に履く一振りの日本刀に手を添えて無形の構えで臨む。

 


『では、一回戦第三試合! Ready. Fight ! 』


 開始の合図と共に白き閃光が瞬く。


神騎抜刀(しんきばっとう)


 遅れて聴こえた小さく呟くような声が置き去りにした時を呼び戻す。


「う、そ……だろ……」


 “こんなにも差があるはずがねぇ”という現実を直視できない思いは言葉にならず、肩から脇腹にかけて大きく切り裂かれた内田は血の海に沈む。


 彼とて強者だ。

 辛うじて染谷の超高速の居合いに反応することができて、甲殻で身を守ることができた。

 しかし、染谷の一閃はその甲殻すら意味をなさぬほど鋭かったのだ。


 目にも止まらぬ一瞬の出来事に審判を務める司会進行者でさえも、勝利宣言を忘れていた。

 染谷が一瞥することで漸く現実感を取り戻した司会進行者は慌ててアナウンスを行う。


『だ、第三試合、勝者! 染谷一輝!!』


 第三試合は誰もが呆気に取られるほどの早さで終結を迎え、続く第四試合もその決着はあまりにも一瞬で着いた。



    ◇



 環境設定は豪雨下の平原。

 前も見えないような雨の中、細美(ほそみ)勇輔(ゆうすけ)吉良赫司(きらあかし)が対峙していた。

 黒髪短髪のスポーティなイケメンである細美は静かにその身を獣人化させていく。

 動物格:イルカの紋章者である彼は、手足は人間のまま、身体にヒレを形成していく。

 そして、そのスポーティな美貌もイルカそのものな造形に変異したところで獣人化が完了する。


 対するヘアバンドで赤髪を纏めた青年、吉良赫司は雨水を含んで垂れる髪を後ろに撫でつけて、静かに愛銃を構える。


 先に動くは細美。

 豪雨を利用してエアーリングを形成する。


 エアーリングとは別名天使の輪とも呼ばれ、イルカが呼気で作り出すお遊びだ。

 本来ならば水中でしか作れず、作れたとしてもお遊び以外の用途はない。

 しかし、幼少期から鍛錬を重ねてきた彼のエアーリングは“超克”の応用——紋章の拡大解釈——によってエアーリングの回転速度を飛躍的に上昇させ、その輪の内側に生まれる対流を利用した加速装置へと昇華させた。

 水中でしか行使できないという条件もこれだけの豪雨ならば、問題なく行使できる。


大洋を駆ける賢者(D・ドライブ)!!」


 ドンッッ!!


 音速の壁をぶち破る爆音を響かせて一直線に吉良へ向かって加速する。

 行うことは単純。

 エアーリングで加速した勢いのまま体当たりをするだけだ。

 しかし、音速を遥かに超えた彼の突進を受ければ(たちま)ち肉片と化すだろう。


 そして、概念格紋章者である吉良は動物格や偉人格のような音速戦闘を行えるだけの身体能力は持ち合わせていない。

 射撃訓練で磨かれた動体視力によって見切る事はできても、音速への対応は難しい。

 現に、半年前に模擬戦を行った時にはほとんど反応できず、成す術もなく敗北を喫した。

 水気のないフィールドならまだしも、これだけの豪雨が降り頻る中、水中戦最強と呼ばれる彼が負けるはずがないのだ。


 エアーリングで超加速した細美はそのままの勢いでフィールドの端、スタジアムの壁に激突する。


 だが、吉良は依然とした立ったままだ。

 強いて言うならば、その位置は細美が通過した位置を避けるように一歩分だけ移動していた。


 壁に激突した際に生じた土煙が晴れ、その中にいるであろう細美を見てみると、その額には一発の銃痕が刻まれていた。


 彼とすれ違う刹那。

 その眉間に一発の銃弾を撃ち込んだのだ。

 別に彼の動きを見切って躱したのではない。

 概念格紋章者である彼の身体能力では、細美の動きを見切ることはできても、躱すことは依然として敵わない。


 だが、彼の師として就いたのは他でもない。

 概念格紋章者でありながら、その演算能力と経験から未来予知にすら匹敵する予測を立てる凍雲冬真(いてぐもとうま)だ。

 この一ヶ月の修練で彼のノウハウを受け継いだ彼は凍雲には未だ及ばないものの、音速域の戦闘についていくための動作の先読み程度ならばこなせるようになっていたのだ。


「師匠には感謝しないとな。お陰で、また一つ壁を越えられた」

『一回戦第四試合! 勝者、吉良赫司!!』


 こうして、第三試合に続き、第四試合も瞬く間に終わりを見せた。

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