Wデート
キースがやった。
勇気を振り絞ってアイリスにデートの誘いをしたのだ。
「まぁ、なんというか一応OKだったんだけどよ・・みんなで行きましょうってことになっちまってな・・」
ああ、よくあるよくある。でもまだ諦めるのは早いぞキース。ここから発展することだって十分あるんだから。
「やったじゃないか!キース!んでどこにいくんだ?」
「それが前にユージに聞いてた通り歴史が好きだっていうから、歴史博物館デートに誘ったんだよ。そしたらOKだった。」
「おう、それは役に立って俺もうれしいよ。んで誰と行くって?」
「お前。」
・・・
・・
・
・・はぁ?
「お前だよ、ユージ。お前とアカネちゃんと一緒ならいいってさ。」
・・この社会不適合者に何をせよと。
いや、考えてみればたまに昼飯食ってるし、自然な流れなのか?
「・・俺はフォローとか苦手だぞ・・いや、自分で言うのもなんだけど・・」
「ああ、でもしょうがねぇじゃねぇか!ご指名なんだからよ!」
・・まぁキースには世話になってるし仕方ないか。
――――――――
当日。
男二人が先に待ち合わせ場所の噴水広場に着く。一応礼儀というものだろう。
俺は着るものもないので普通に学校の制服。
キースは気合をいれてきたのかおしゃれなジャケットに銀のアクセサリーなどをしのばせつつ立っていた。
キースも元は悪くないからな。こうやって普通におしゃれしてたら立派にイケメンに見える。普段のチャラ男風より100倍マシだ。
一応キースも地方貴族のご子息とのことなのでちゃんとすればちゃんとなるのだ。
と待つ間にもキースがソワソワしている。
「キース、もう少しリラックスしたほうがいいんじゃないか?そんなんじゃ話もできないだろ?」
「そうはいってもお前、1年の時からあこがれてたアイリスちゃんとデートだぜ?緊張するなってほうが無理だろ??」
結構片思いしてたんだな。1年か。いやそうでもないのか?よくわからない。
と、待つ間に女性二人がやってきた。周囲の男たちがチラチラとみている。
まぁ学園の2大美神だからな。仕方ないところだろう。
アイリスは白いワンピース。ところどころに可愛らしい小物をあしらっている。自己主張の強い胸がほどよく衣装と合って、可愛らしさと色っぽさが絶妙にブレンドされている。
アカネはボーイッシュなショートパンツにジャケット。
綺麗な足がすらりとショートパンツから伸びていた。
動きやすさ重視なのかいかにもアカネらしい。
「や・・やぁこんにちは。本日はお日柄もよく・・」
っていつの時代だよキース?お見合いか?
普段たまに一緒に昼飯食ってるだろうに。
「こんにちは!キース君、ユージ君、晴れて良かったね?」
とひまわりのような笑顔でアイリスが応じる。
「ユージ、よく来たわね。こういうのあんまり好きじゃないかと思ってた」
アカネがそんな事を言う。
いや、嫌いじゃないよ、別に。ただ誘ってくれる相手がいなかっただけで・・・
「いやそんなことない。みんなでどっか出かけるのは意外と好きなんだ。大人数は少し引いちゃうけど・・」
「じゃ、じゃあ行こうか?」
キースが頑張ってリードしようとしている。
頑張れキース。
――――――――
歴史博物館へ向かう道すがら。
当然のようにキースはアイリスと、俺はアカネと話しながら歩いていた。
「んで、どうなのよ。風魔法は進んだの?」
「んー、一応毎日部活以外でも練習してるんだけど、なかなかイメージがつかめなくて・・」
「イメージは超重要よ。すべての始まりといっても過言ではないわよ」
「なんとなく風が集まるイメージがしにくいんだよなぁ・・もう少し見えるものだと掴みやすいのかもしれないけど。」
「あなたの国にも風の災害はあったでしょ?そういうのをイメージするのよ」
・・なるほど。例えば台風とかハリケーンとか竜巻とかイメージするのかな。吹き飛んじゃいそうだけど。
「そのイメージを小型化して自分だけのものにするの。そうすればあとは体とのバランスだけよ」
「なるほどなぁ・・」
しかしこういうときでもアカネは魔術の話なんだな。
――――――――
前を見るとキースが一生懸命アイリスに話しかけていた。
「アイリスちゃんそのブローチ可愛いね!センスいいなぁ!」
「あはは、ありがとうキース君。キース君もかっこいいよ?」
アイリスもそのふわふわした金髪を風になびかせながら答えている。
なるほど褒める作戦か。本とかで有効と見た気がする。自分じゃやったことないからわからないけど。
そんな雑談をしているうち、博物館についた。
――――――――
博物館は予想以上の大きさだった。
普通に学校の校舎くらいある展示スペースが何階かにわかれており、さらに別棟もあるらしい。
俺たちは入場料を払って入館した。ちなみに俺は貧乏なので入館料はキース持ちだ。英雄の村に手紙でも出してルースに無心すれば出してくれるだろうが、できるだけ節約したい。まぁ今回はキースの頼みということで、キースに出してもらうことで本人も同意していた。一応貴族だしな。
人も多く、館内は混雑していた。
これは計画的に回らないと1日なんてすぐに終わっちゃうぞ・・
キースは準備してきた計画の通りに、迷うことなく進んでいく。
「あ、アイリスちゃんこれは古代文明の残骸と言われていてね・・」
「うん、知ってるよ?旧古代魔晶石だよね?私の家にも一つあるんだ!」
「アイリスちゃんこれは諸国が戦っていたときの衣装で・・」
「うん、魔道装衣だよね?この時代500年前とは思えない精巧なのが作られてるんだよね?今でも復元できないものもあるんだって!すごいよね!」
・・なんかキースの旗色が悪い気がする。
聞き役に回ったほうがよさそうなものだが。
とそこでとあるコーナーに差し掛かった。
――――――――
おお、これは・・・・
なんと写真や絵でしか見たことのない三叉や鉾、果ては青龍偃月刀や蛇矛まであった。
俺は歴ヲタ魂が呼び起こされ、思わず食い入るように武器を見ていると、
「ユージ君、それ何の武器?」
とアイリスが話しかけてきた。
「ああ、これは俺の星で・・・三国時代というのがあって・・・略・・・そこで100万の軍勢を・・・略・・・とにかくすごい豪傑の武器なんだよ!」
「へぇ、そうなんだ!ユージ君の星の話面白いね!」
「ほかにもこの武器は・・・略・・・そこで主君に授けられた・・・略・・・そして敵味方に目立つような形に・・・そして最後は死んでいった英雄がいたんだ!!」
「ふうん、なんだかこの星の歴史に似てるね!この星ではねこういうことがあったんだよ・・・」
――――――――
いかん、思わず我を忘れてアイリスと話し込んでしまった。
ふと気が付くと、キースとアカネのジト目×2がこちらを見ていた。
やっちまった・・。
・・・
そんなこんなで博物館を巡り、閉館時間も近づいてきたので、場所を移すことにした。
キースの予定通り、近くのカフェに移動。
それぞれ飲み物や軽いデザートなど頼み席に着く。
「ユージ君、歴史好きなんだね?今日のお話とっても面白かった!」
アイリスが満面の笑顔で俺に向かって言う。
「あ、ははは、あんまり女の子に言うと引かれちゃうから自分の国では遠慮してたんだけどね・・」
「そんなことないよ!とっても面白かったよ!!」
俺はキースのジト目を感じつつ話を変えようとする。
「そ・・それにしてもでかい博物館だったね。他にもこんな博物館あるのかな?」
「うん、あるよ!現在アートとか古代博物館とか、音楽博物館とか魔術博物館とか!」
「そ・・そうなんだ・・全部回るのは大変そうだね・・」
「そうなの!今日行った歴史博物館でも全部見て回るには三日かかるって言われてるんだよ!私はもう5周くらいしてるけど。」
とエヘヘと笑う。
「あ・・俺ちょっとトイレ・・」
と席をいったん外す。
帰ってくると普通に3人が談笑していた。
ホッ。なんとか雰囲気も戻ったみたいだ。
「あ、私今度トイレいってくるね?」
アイリスがそういうとキースも
「あ、俺も」とついていった。
残された俺とアカネ。
何を話そうかと考えていると
「ユージ、歴史好きだったのね?」
とアカネが話を戻してきた。
「あ、ああ。あんまし女の子受けする話題じゃないけどね・・」
「そんなことないわよ。アイリスだってそうだし、友達にも好きな子いるし、私だって嫌いなわけじゃないもの。」
と言ってくれた。
「そう言ってくれるとありがたいんだけどね。」
アカネは俺をジーッと見て
「あなたはもっと自分の好きなものに自信を持ったほうがいいわ。過去に何があったのかは知らないけど。自分の好きなものを自分で否定しちゃつまらないでしょ?」
と言われた。
確かに。自分が好きなものを好きだといえるのは・・いいな。でも・・やっぱりある程度自信がないと言えないかな・・社会に出てから歴ヲタや二次元ヲタを隠していた俺はそんな感想を持っていた。ああ、せっかくアカネがフォローしてくれてるのに、ダメだなぁ、俺は。
「確かに好きなものを好きと言えるのは子供っぽいと言われることもあるかもね。でもそれがあなたでしょ?」
そうなんだけどなぁ・・
と俺がモゴモゴしていると
「あなたはとても弱かった人、でしょう?でもここでこうして強くなろうとしている。誰もそのことを否定はできない」
「・・・・」
「そして優しい人。弱いからこそ人を思いやることができる。ユージ、あなた先日の武術大会でわざとケガさせないように戦っていたでしょう?」
なんと、見抜かれていたか。しかしそれが優しいということになるんだろうか。
「弱い人は、その分人にやさしい強い人になることもできる。それは私の信念でもあるの」
そうか・・アカネの言う通りかもしれないな・・いや、そうあってほしい。
「私の父さまは罪を負って亡くなったけれど、私は優しく強かった父を今でも誇りに思っているわ」
アカネのお父さんはそんな人だったのか。貴族だというからもっと偉そうな人なのかと思っていた。
とそこまで話したところでキースとアイリスが戻ってきた。
もう少しアカネの話を聞いてみたかったが、また今度にしよう。
――――――――
帰り道はキースもアイリスもだいぶリラックスした様子で仲良く談笑していた。
終わりよければすべてよし。このまま順調に仲良くなっていければいいな。
と、寮へ向かう分かれ道に着いた。
「あ、じゃあ俺、こっちだから」
と皆に別れを言って立ち去ろうとすると、
「あ、私もこっちなんだ。」
とアイリスが一緒についてきた。
キース、アカネの二人にお別れを言って、アイリスと歩き始める。
「本当はね、この道ちょっと遠回りなの」
とアイリスは笑っていった。
え?一瞬固まったがあまり深く考えないことにした。
「でも今日、ホント楽しかったから。私あまり男の子に慣れてないところがあるんだけど、今日は普通に楽しめたよ?」
それはキースも喜ぶだろう
「そりゃ何よりだよ。キースも喜ぶんじゃないかな」
「キース君はね、実は女の子に人気あるんだよ?見た目で誤解されちゃうかもだけど、今日は紳士で一生懸命エスコートしてくれたのわかったよ?」
キース、全部ばれてるぞ。
「あ、遠回りって言ったけどちゃんとこの道の先に家はあるから心配しないでね?」
とアイリスは笑う。
まぁ、送っていくのが紳士だよな。
「寮からそんな遠くないし、送っていくよ」
「本当?ありがとう!」
ということでアイリスの家まで送っていくことになった。
歩くことしばし・・
――――――――
「おいおい、兄ちゃんかわいい子連れてんなぁ?」
少し暗くなったところで声をかけられる。
ギョッとして振り向くとそこには見覚えのある男たちが・・・
王都に到着した日にアカネに吹き飛ばされた男たちだった。
向こうはこっちに気づいてないようだ。まぁあの時は村からでてきたばっかの格好でボロボロの服だったからな。
「あん?その制服、魔術学園の生徒かぁ?金持ち学校の!」
金持ち学校だったのか。俺は半ば推薦状で無料ではいったようなもんだから知らなかった。
「何か御用ですか?」
と、なんとアイリスがその柳眉を逆立てて立ち向かう。
「あ・・あの僕たちもういくんで・・」
目をそらし逃げようとすると、
「そっちの嬢ちゃんはそうでもないみたいだぜぇ?」
と振り向くとアイリスがかわいい顔で男たちを睨みつけている。
俺は一応アイリスをかばって立つ。
ホーンテッドは持ってきている。
一思いに叩き伏せられるか・・と考えていると
「お嬢様!」
と駆けつけてくる数人の靴音。
「ジル!皆!」
とアイリスが安心した顔で答える。
「そこの男ども!こちらのお嬢さまがヴァレンティ家のお嬢様と知ってのことか!」
その名を聞くやいなや、
「チッ」
と男たちはそそくさと去っていった。
ジルと呼ばれた男は
「お嬢様!お帰りが遅いので心配いたしましたぞ!お迎えに上がって正解でした!」
と胸をなでおろした様子。
「ごめんなさい、ジル。でもこのお方が守ってくれたはずなので大丈夫ですよ」
と俺に顔を向ける。
いや、どんな期待されてるんだか・・
基本ビビりなのであまり期待しないでほしい。
「そこの者。お嬢様を守ってくれたのは感謝する。だがこのような時間まで女性を連れまわすのは感心せんな」
「あ、すいません。ちなみに僕は何も守るようなことしていないので・・」
「しかしながらお嬢様を守ったことは事実。お礼もしたいので屋敷まできていただきたい。」
こっちの話聞いてない。
「屋敷はすぐそこだ。ついてまいれ」
と顔を後方に向ける。
え、あれってヴァレンティ家の屋敷だったの?
ちょっとした野球場くらいありそうな敷地に立派な建物が何棟も建っている。
あんなとこに行ったら緊張で生きた心地がしない。
「あ・・あのせっかくですが、所用がありますので、これで失礼させていただきます!」
というや否や風魔法を受けたかのようなダッシュでその場を離れた。
ふと振り返ると、ポカンとしたアイリスとジル達の姿がチラリと見えた。
読んでいただいてありがとうございます!ヒゲオヤジです。
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