カーティス軍VSホーリー軍その1
戦場には既にホーリー聖教皇国の軍が集結していた。五万ほどはいるだろうか。ローム王国との違いは銃兵隊が少ない事、その代わりに魔法部隊が多いことなどだ。
俺はライン郡の兵三千にローム王国の兵二千を率いて本陣へと向かった。
「おお、そなたがローム王国からの援軍か!期待しているぞ。この度はよろしく頼む。」
総大将はアンドレイ教皇猊下ではなく、エルフ族には珍しく大柄な老将が率いていた。
「はい。この度援軍要請を受けてまいりました。ユージ・ミカヅチと申します。」
「儂はパウロ・ガランじゃ。この防衛軍の総指揮を任されておる。」
「こちらは副将の龍翔です。」
「龍翔と申します。どうぞよろしくお願いいたす。」
龍翔はその大柄な体を下げ、挨拶をした。
「ほう、これは頼もし気な男じゃのう。」
「龍翔は私と同じく転移者ですが、転移前も数々の作戦に参加してまいりました。必ずお力になれると思います。」
「なんと転移者とな!珍しいものが二人ものう・・此度はその知恵で我々を助けてくれい。」
「それで作戦の概要は?」
「うむ。丁度作戦会議を始めるところじゃ。中に入ってくれい。」
俺達はひと際大きく作られた幔幕の中に入っていった。中には十数人ほどの将たちが見える。レオルの姿も見えた。
「久しぶりだな。ユージ。」
「ああ、レオル。元気にしてたか?」
「お前にやられてから猛特訓を重ねてきたさ。今回の戦いでは僕の成長を見せるいい機会と思っている。」
「あれはたまたまだ。それよりカーティス軍の情報はつかめているのか?」
「斥候の情報によると約六万ほどの軍勢らしい。最も『蒼狼の会』の援軍もいるようだから総数はわからない。」
「やっかいだな・・」
「ああ、ホーリーが飲み込まれれば次はロームだ。気合入れてくれよ?」
「ああ、わかってる。」
「ようユージ!ひさしぶりだな!」
と肩を叩かれた。
振り返ると大柄のイオンがいた。愛用の槍を肩にかついでいる。
「イオン、久しぶりだな。相変わらず元気そうだ。」
「まぁ俺はそれくらいしか取り柄がないからなぁ!レオルじゃないが俺も鍛錬を重ねてきたぜ?今回の戦いではイオン・バルディスの名を轟かせる予定だ!」
「うん。頼もしいな。」
「まぁ俺にまかせておけよ!」
「ユージ、この者たちは?」
そこに龍翔が入ってきた。一際でかい龍翔が入ってきてさすがにレオルもイオンも一瞬ぎょっとしたようだ。
「ああ、以前ホーリーにちょっと行ったことがあってな。その時に世話になったレオルにイオンだ。」
「そうか。龍翔と申す。よろしく頼む。」
「でかいな・・イオンより頭一つでかいぞ」
「こりゃまいったな。いかにもやりそうな雰囲気がでてやがる。」
レオルもイオンも龍翔の強さを感じ取ったようだ。
「ところでレィディンにパルティは?参加してるのか?」
俺が聞くと、
「ああ、あいつらは魔法部隊に参加している。今回は国の危機だ。学生といえどものんびりと勉強などしていられないさ。」
レオルが答える。
なるほどな・・ホーリー聖教皇国も学生まで駆り出しての総力戦のようだ。国が攻められようというんだ。当然だろう。
ウルヴァンは幔幕の隅に体を預けて腕を組み、一人佇んでいた。
「ウルヴァン、会議には参加しないのか?」
俺が行って聞いてみると、
「ああ?そんな面倒な事してられねぇなぁ?お前はさっさと俺をその場所に連れて行けばいいんだよ。」
「その場所か・・実はウルヴァンの力を借りることがないのが一番なんだが・・まぁそういうことならもう少し待っていてくれ。」
「あんまり暇なら帰っちまうぜ?」
「それは勘弁してくれ。もしかしたらウルヴァンの力が今回の戦いの肝になるかもしれないんだ。」
「ケッ。わーったよ。」
ウルヴァンはそう言うと再び幔幕に体を預け目をつむった。これ以上俺と話す気はないようだ。
・・・
そのころ、魔法部隊ではアカネ達が集合していた。
「ひさしぶりね。レイディンにパルティ。」
「久しぶりだ。アカネ。」
レイディンが言う。
「この前やられたことは忘れてないわよ!今度はリベンジマッチだからね!」
パルティはライバル心剥き出しだ。
「この前のことはこの前の事よ。それより、戦は初めてでしょう?準備はできてるの?」
「ああ、この時のために訓練を積んできたんだ。雷魔法もより洗練させてきた。」
「私も重力魔法を鍛えてきたわ。」
「そう。ならいいのだけど。今回はカーティス軍だけじゃなく『蒼狼の会』も相手よ。油断しないでね。」
「油断などするものか。お前たちは散々戦ってきたのだろう?『蒼狼の会』の刺客とはどのようなものだ?」
「そうね・・一言で言えないけど、色んな術者がいるわ。一人で対応しきれない敵もね。だから今回はチームワークも大事になるわよ。」
「ふっ。お前らとチームワークか。」
「私は一人でも押しつぶしてやるわ!」
「それが危険なのよ。彼らは魔力障壁を使うものが多いわ。魔法が通じない相手。その場合はユージたちと組んで攻めることも大事になってくるわよ。」
「ふむ・・魔力障壁か。やっかいだな。ところでその後ろに隠れているのはなんだ?」
「ほら!アキ!ちゃんと挨拶なさい。私の妹のアキよ。重力魔法の使い手なの。」
「あの・・こんにちは・・」
アキがおずおずと挨拶をする。
「重力魔法ですって?なら私と同じじゃない。でもこんな頼りない子で大丈夫なの?」
パルティが胡散臭げにアキを見る。
「この子の重力魔法は恐らくあなたよりはるかに上よ。ただ性格的にそれが発揮できるかどうか・・」
「!私より上ですって?なら戦場でどちらが上か見せてやろうじゃない!」
パルティの鼻息も荒くなる。
「まぁまぁ、こんなところで言い争っても仕方ないよ?とりあえずおとなしくしていよう?」
アイリスが仲介に入る。
「ほら、ローラも挨拶して。ローラ、こっちはレイディンにパルティよ。それぞれ雷魔法と重力魔法の使い手なの。今回の戦いでは助けになってくれるはずよ。」
我関せずで一人離れていたローラがやってくる。
「こんにちは。レイディン様にパルティ様。カーティス軍など私の風魔法で切り刻んでやりますわ。」
「こっちはずいぶん勇ましいな。」
「まったく次から次へとよく出てくるわね」
レイディンとパルティが感想を漏らす。
「まぁロームも色々と人材が出てきているのよ。戦いの時を楽しみにしていて頂戴。」
アカネはそう締めくくった。
・・・
そのころ、竜人族は幔幕の外に集合していた。
俺は挨拶に出向く。
「ユージ。この男は氷竜族の将軍。今回部隊を率いてきた。」
アイズが紹介してくれた
「カイルと申す。ユージ殿。どうぞ存分に我々をお使いください。」
大柄銀髪の竜人族だ。
「よろしくお願いします。ユージ・ミカヅチです。この度は援軍ありがとうございます。」
「なんのなんの。ユージ殿には氷竜族も助けられておりますからな。恩返しですよ。」
「そう言っていただけると助かります。」
「ユージ様。こちらは雷竜族の将軍ですわ。ライエルと言います。」
「ライエルと申します。ユージ様、此度はよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ。お世話になります。心強いです。」
「はっはっは。氷竜族には負けていられませんからな!存分に我らが力、使いなさるがよい!」
ライエルはそういうと笑った。
「ふん。こちらこそ雷竜族などには負けてられないわい。」
カイルが対抗心剥き出しに言う。
なんかアイズとエリスみたいだな。まぁあの二人の場合はエリスが一方的にアイズにつっかかってるだけだが。とにかく今回は敵の進行が急でなかったこともあり、竜人族の援軍が間に合った。これは心強いな。
俺は竜人族の皆に挨拶をすませると幔幕の中に戻っていった。しばらくして軍議が始まった。俺と龍翔は並んで用意された席に座る。
「皆の者。では軍議を始める。此度はローム王国よりユージ・ミカヅチ殿とご一行、それに竜人族の方々も援軍にきてくれた。こんなに心強いことはない。ユージ殿は先般のローム王国へのカーティス軍の侵攻を撃退した功労者じゃ。今回は参謀として参加してもらう。」
参謀か。ならば作戦にも堂々と意見を言える立場なのかな。
「さて、カーティス軍は目前に迫っておる。皆の者、意見はあるかな?」
「カーティス軍などこちらから先制攻撃を喰らわせて撃退してしまえばよい!」
「いや、それは危険だ。敵にどんな策があるかわからない。」
「敵には『蒼狼の会』もついているのだぞ!さっさと全軍突撃で終わらせればいいのだ!」
様々な議論が噴出し、まとまる気配がない。
「ふむ・・ユージ殿。どう思う?」
「これは防衛戦です。まずは砦を築き、敵の出方を伺う方がいいでしょう。」
「そんな悠長なことでよいのか?」
「はい。前回は敵の誘い出しに成功しましたが、さすがに二度目は簡単には乗ってこないでしょう。それよりもこちらには地の利があり、補給線もしっかりしています。敵は遠征ということもあり、補給に難があるでしょう。対峙している間に機が見えてくるかもしれません。」
「ふむ。なるほどのう。まずは防御を固め、敵の様子をうかがうか・・」
「そんな悠長なことでは撃退できませんぞ!」
「フランコ将軍よ。何か案があるのか?」
パウロ将軍が水を向ける。
「知れたこと。地の利はこちらにあるというのはそこのユージ、であったか?学生も申していたでしょう。ならば我らはその地の利を活かして攻め込むまで。」
「ふむ。悪くない案に思えるが、ユージ殿、どうかの?」
「敵にもこちらの地に詳しいものがいるでしょう。ここは無難に防御に徹するべきです。攻める機は必ず来ます。それまで味方の損耗を最小限に抑える方が現実的です。」
「ふむ。どちらにも一理あるが、皆の者、どう思う?」
「フランコ将軍に賛成!」
「ユージ殿に賛成!」
「フランコ将軍の案に!」
「こちらより攻めてやりましょう!」
どうも2対1くらいでこちらが劣勢のようだ。まぁ仕方ないな。外様だし、学生の立場でもあるからな。
「では此度はフランコ将軍の案を採用とする。フランコ将軍は攻めかかる案を考えよ。ただ一応、万が一に備えて砦は築いておくものとする。」
パウロ将軍が決を下した。仕方ないな。
実は俺は軍議の間、上杉謙信をコールしていた。謙信が軍神と呼ばれるまでになったのは機を見るに敏であった部分も大きい。信玄との川中島での戦いの中でも常に敵の動きに目を光らせていた。謙信と信玄は何度も戦っているがその最大のものとなった戦いでは啄木鳥の計を炊事の煙の変化から察し、信玄軍の有力武将を討ち取ったのだ。(最も上杉軍も兵に多大な負傷者を出したため、この戦いでは勝敗は議論がわかれるところだ。)
ともあれ、静かにその時を待つのは名将に共通するものだ。俺はせっかくの地の利を最大限に活かしたかったのだが致し方ない。
「ユージ、良いのか?あそこで引き下がって。」
龍翔が軍議を終えた俺に話しかけてきた。
「まぁ仕方ないさ。俺たちは所詮援軍だ。それに先制攻撃がうまくいけばそれはそれでホーリー・ローム連合軍の勝ちにつながるしな。」
そして、その時は来た。
・・・
フランコ将軍の考えた案はこちらの陣地より見て右側の小高い丘に兵を伏せ、先制攻撃のあと偽りの敗走を見せ敵が乗ってきたところで伏せた兵と共に一気に敵を撃滅するというものだった。俺たちはそれぞれ配置された部署についた。
「悪くはない案に思えるが・・ユージ、どう思う?」
龍翔が聞いてきた。
「俺は呉の陸遜の事を考えていた。敵の将軍次第だが・・前回と同じような誘いには乗ってくれないんじゃないだろうか・・」
心配だな。
俺達はとりあえず援軍と言うこともあり比較的安全な後方で待機と言うことになった。
・・・
敵軍が動き始めた。侵攻にきているのだ。いつまでも見合っていても仕方があるまい。まずは魔法弾や銃弾、砲弾の応酬から戦は始まった。
敵は大砲を持っている。銃撃戦ではいささかホーリー軍の分が悪いかと思われたが魔法をうまく使い敵の攻撃をいなしている。
やがて敵が進軍してきた。
より激しい銃撃戦になる。こちらからも魔法弾が飛び交い、徐々に戦は熱を帯びつつあった。敵が小山を通り過ぎた。もう少しすれば小山から伏兵が攻めかかるはずだ。更に敵が進軍してくる完全に小山を通り過ぎた。
「よし、いまだ!のろしをあげよ!」
フランコ将軍の声が飛ぶ。
小山の軍が一気に敵の脇から攻めかかった。
が、ここで敵は奇妙な動きをした。正面の敵に向かわず、小山の敵に向かったのだ。
「?どういうことだ?・・いや、ならば正面から攻撃だ!攻撃開始!」
ホーリー軍の正面本隊が敵に襲い掛かる。敵は正面に備えた軍だけを残し、小山の敵に対応している。これでは奇襲にならない。あらかじめ見破っていたのか?だが、敵も分散されているはずだ。とここで敵に動きがあった。
奇襲をかけた小山の部隊の更に後ろから敵部隊が出現したのだ!まずい!これでは奇襲部隊が全滅になる!
敵の部隊はホーリー軍の駆け下りた跡地から軍をまとめ、一気にホーリー軍の奇襲部隊の背後から襲い掛かってきた。
ホーリー軍の奇襲部隊は敵本軍と小山から駆け下りてきた部隊に挟み撃ちにされた格好だ。
「い・・いかん!正面敵を突破せよ!」
フランコ将軍の慌てた指示が飛ぶが、敵も備えていて簡単には突破させてくれない。これはまずいな・・奇襲部隊が全滅になってしまう。
「龍翔、アカネ、アイズ、エリス!敵の正面部隊を攻撃だ!」
俺はそういうと本田忠勝をコールし、馬に飛び乗った。
「承った。ゆくぞ!皆!」
龍翔も馬に飛び乗る。
「む・・敵が出てきたか!皆の者あの新たな部隊に備えよ!」
敵武将の声が響く。
「そう簡単にはいかせないわよ!複角度熱線!」
アカネの魔法が正面の敵を襲う。
「ぐはっこの威力は・・皆の者魔力障壁を備えよ!」
ここでアイズとエリスが乱入した。二人は既に竜化して空中に浮かんでいる。
「させない・・息吹!」
「いきますわよ!息吹」
アイズとエリスの息吹が戦場を蹴散らす。
「ぐおっ今度はドラゴンか!皆の者、防御を固めよ!ここの正面部隊を死守するのだ。」
だが、正面の敵が崩れてきた
ここで俺と龍翔は敵の脇から突撃を敢行した。正面からよりも脇からの攻めで更に混乱を狙ったのだ。
「ぐおっ今度は騎馬隊か!皆の者、いったん退け!退くのだ!」
敵武将は撤退を指示するといったん退いていった。
ホーリーの奇襲部隊もなんとか生き残ってくれたようだ。
パウロ将軍の声が飛ぶ。
「全軍、いったん陣地に戻れ!作戦の練り直しじゃ!」
部隊が次々と砦の中に収容されていく。
初日は痛み分けといった格好になった。
読んでいただいてありがとうございます!ヒゲオヤジです。
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