武術大会
ある日のランチ時。
たまに顔を合わせると食事を共にするようになった俺、キース、アカネ、アイリスがいる中でアカネが切り出した。
「んで、武術大会と魔術大会ってのがあるのよ。この学園には。武術と魔術を競い合うの」
ほう。大会ねぇ・・・
まぁどうせ木刀か竹刀だろうし、俺にはかかわりのない話だな・・
「ユージ、あなた武術大会に出てみたら?」
・・・は?
「え?ユージ君出るの?私応援するよ?」
とアイリスまでのりだす始末。
「いや、Fクラスの俺が武術大会ってボコボコにされる未来しか見えないんだけど・・」
「あなた一応武術志向でしょ?だったら出てみて今の力を図るのもいいんじゃない?」
とアカネがかぶせてくる。
「いや~無理っしょ!Fランには関係ねぇ話じゃね?」
とキース。
ナイスフォロー。
「大丈夫!ケガしても私が直してあげるから!」
とアイリスはニコニコと追い打ちを仕掛けてくる。
いや・・勘弁してくれ・・
と、どう断ろうかと悩んでいると背後から大柄な男数人がからんできた。
じろりと俺たちを見て席の後ろに陣取る。
ああ・・また俺はこういう人種を引き寄せるんだよなぁ・・・
「ひゃははは!Fランが武術大会?無理無理!ぜぇってぇ無理だわ。」
男たちは3人連れでいずれもそういった場数に慣れていそうな凶悪な目つきをしていた。
・・ああ・・もう帰りたい・・
「アイリスちゃん!そんな奴応援するなら俺を応援してくれよ~俺アイリスちゃんのために頑張っちゃうんだけどな~」
「ダース君。そんな言い方、失礼だよ!」
珍しくアイリスがプンプンしている。
いやこのくらいじゃ俺はなんとも思わないけどね・・
「おい」
とダースと呼ばれた男が俺に矛先を向ける。
「お前最近、アカネちゃんやアイリスちゃんと仲良くやってんな。調子づいてんじゃねーぞ!」
と、手に持っていた飲み物を俺の頭にぶっかけた。
・・アツッ!
コーヒーじゃねーか。わざわざ準備してきたのか?
「あ、やべぇ~手が滑ったぁ!」
テンプレ過ぎだろ。
・・つーかこれってただの嫉妬?
制服これしかないんだけどな・・
俺は何とかこの場を収めようとして、
「いやあ・・ハハハ・・調子乗ってるなんてそんなことはないよ・・」
「ケッ!根性なしが!!」
あれ?どっかで聞いた言葉・・
「おいお前ら・・いい加減に・・」
とキースが立ちかけた時に・・
バシャーン!
アカネが水をダースにぶっかけていた。
「あら~ごめんあそばせ?私も手が滑っちゃったわ!」
やってくれたよこのお嬢さん・・いや、一番やりそうだけどね・・
「つ・・冷めてっ!何すんだよアカネちゃん!」
・・なんかアカネには少し弱気だな・・
2大美神を敵に回したくないのだろうか?
「あんたがしたことをそのまま返しただけじゃない。あ、コーヒーじゃないからまだこっちの方が被害大きいけどね!」
「く・・・」
なんか大人の心としてはいいんじゃない?ただのやきもちだし・・という気がしないでもないが、それはいじめられっ子気質というもんだろう。多分。
「・・わかりました。じゃあ僕が君と試合すればいいんですね?」
・・お、なんか思わず言っちゃった・・少し後悔が・・
「お・・おう!武術大会に出てこいよ!ギタンギタンにしてやるからよ!」
ダースはそういうとこれ以上アカネとアイリスに嫌われたくなかったのか、そそくさと立ち去る。
――――――――
しかしうまいこと当たるもんなのか?トーナメントとかだったら当たらなきゃしまいじゃないか。
「ユージと当たらないときは決闘でもなんでも理由つけて引っ張り出す気なんでしょ」
とアカネが俺の気持ちを読んだかのように答える。
「ユージ君、大丈夫?今ヒールかけるから・・」
とアイリスがハンカチでコーヒーをふきながらヒールをかけてくれる。肌のヒリヒリがおさまったみたいだ。すごいな、ヒール。
「で、武術大会ってのはトーナメント方式なの?」
と聞いてみる。
「そうね。武術大会と魔術大会に分かれて行われるんだけど・・でも本当に強いSクラスの人たちはランクを上げる必要がないから出るか出ないか半々ね。むしろA以下のクラスが出て少しでもランクあげるってのが常道ね。私も魔術大会に出るかどうかは考え中。まぁクラス内順位にも関わってくるから全然意味ないわけじゃないからね」
「ダース君は私と同じBクラスだよ。勉強は・・そのあまり好きじゃないみたいだけど、武術の才能はすごいっていつも褒められてる。クラスでも武術だったら一番かも・・」
とアイリスがなぜか申し訳なさそうに言ってくる。
「Bクラスの武術ナンバーワンかぁ・・こりゃあユージには悪いけど、一撃当てられたら万々歳ってところかなぁ・・・」
とキースが言いにくそうに言う。
まぁ、実際そのくらいの差があるんだろうな。普通は。
ただ俺も多少はイラついたのは確かだ。こっちの世界でもいじめられるのは辛すぎるからな。
「あいつはしつこいわよ。・・実は以前私に告って来たことがあったんだけど、丁重にお断りしたら、しばらく校門の前で待ってたり帰路を待ち伏せされたりしたわ。いい加減イラついて爆炎で吹っ飛ばしたけど。」
だからアカネに少し遠慮してた雰囲気があったのか・・しかし、さすがアカネ。竹を割ったような対処だな・・
「ちなみに得物は何になるの?木刀?」
「剣術使いは木刀に皮をかぶせて殺傷力を減らしたもの。槍も木槍に同じ対処ね。弓は種目にないから、あとは武術で戦う人はグローブをはめて戦うことになるわ。」
なんでこんな詳しいんだアカネ。聞いてみると去年魔術のほうの大会に出たため、自然と武術大会の様子も目に入ってきたとのこと。
「まぁやるだけやってみるか。ダメならゴメンナサイだ。」
少し怖いが一撃くらいは入れられるように頑張ろう。
――――――――
教室への帰り路。
「なぁキース。そういえばその後、アイリスちゃんとは進展あったのか?」
キース、無茶苦茶焦った様子で
「ねぇ!ねぇよ!そんな簡単にいくもんじゃねぇんだよ!」
といつもの飄々とした姿からは考えられないような年相応の姿を見せた。
「まぁ、そのうち歴史博物館でも誘ってみようと思ってるんだけどよ・・なかなか言い出すタイミングがなぁ・・・」
うーん、このあたりの的確なアドバイスは俺には無理だ。社会不適合者だから。風魔法研究部部長のウェイ部長辺りに聞いたらわかるかもしれないけど。
「ユージ、お前どんだけアイリスちゃんに告って爆死した奴がいるか知ってるか?半端ないぜ?まぁアカネちゃんもいい勝負なんだけどな。」
なんだ、やっぱりモテるんじゃないかアカネ。
俺の日本の美意識とこっちの世界の美意識が違うのかと思った。アカネの場合、同性にもモテそうだな・・
「まぁ、アカネちゃんは気が強くて爆死しそうだから4:6でアイリスちゃんのほうが告られ数は多いけどな」
確かに、アカネは気の弱い男子には近づきにくいだろうな。俺はたまたま話してもらってるけど、前の学生時代だったらとても仲良くなんてなれなかっただろう。
アカネにしろアイリスにしろ、日本だったら間違いなくカースト最上位だ。最下層の俺と接点があるわけもない。
「って今はそんなこといーんだよ!どーすんだ、ユージ!あのダースって男の件!」
「まぁうまく当たれば一撃入れるのを目標に戦って、対戦で当たらなくて後で付け回されたら・・・先生に言いつける!」
「お前、それ男としてどーなんだ???」
と首をひねるキースをよそに。
たとえ負けてもビビって自分の力を出し切れないことだけは避けようと考えていた。
――――――――
数日後。
武術大会へのエントリーを済ませ、対戦表ができあがるのを待つ。
対戦は各選手がそれぞれ数字を書かれたくじを引き、それによって決定されるというもの。
対戦表ができあがり、見てみるとダースは俺の隣の隣。二人とも勝ち上がれば2回戦で戦うことになりそうだ。奴の思い通りの結果だな。これで俺をぶちのめしたらアカネが振り向いてくれるとでも思っているんだろうか?
Sクラスは一人も出ていなかった。これはAクラス以下の選手にとってはランクアップを目指すいい機会なのかな?果たして武術大会の成績のみで本当にランクアップするのがいいのかどうかわからないが。
――――――――
偉い方々のお話が終わり、武術大会の幕が上がる。
総出場選手は120名ほど。端々に選手の名前が書かれていく。7回ほど勝てば優勝のようだ。
思ったよりも多いな。
いずれにせよ、ホーンテッドは使えない。帯剣も許されていないため、まったく頼ることができない。
順調に試合が消化され、いよいよ俺の順番になった。
相手はDクラスの中肉中背のバランスの良い体つき。きちんと鍛えているのがわかる。得物は槍のようだ。こちらは剣なのでリーチ的には不利となるが・・
「では両選手、前へ」
審判のアナウンスがあり、双方、この大会のために準備された試合場へ進む。
――――――――
「構えて・・始め!」
と、審判の合図と共に相手は槍先を繰り出してきた。
あれ・・遅い?
相手の狙いは致死判定の左胸か、一瞬、俺は体をひねり右前の体勢になった。
相手はそのまま回転し、石突でみぞおちを狙ってくる。こちらはバックステップで距離を取る。
一瞬観客席に、アカネ、アイリス、キースの姿が見えた。いかん、集中しなくちゃだな。
相手は一回転した後、今度は再び穂の部分でこちらの側頭部を狙って回転。
こちらは体をかがめて相手の回転が過ぎた直後につけ込み、肩で体当たりをかます。バランスを崩した相手にそのまま水面蹴りの要領で足払いをかます。見事に決まり倒れた相手の首筋に木剣をあて、勝利となった。
村で槍の練習していたことが役に立ったかな?なんか意外といけそうだ。
隣の試合場を見てみるとダースもCクラスの相手を倒し、順調にコマを進めたようだ。
なんか奴の思い通りで嫌な感じだが、いよいよ対戦が始まる。
各試合の間にはインターバルがあり、武器の交換も許される。
俺は剣のままでいいと変更をしなかった。相手の得物を想定して相性の良い武器に帰ることも十分にアリなのだが、手になじんだ感覚のほうを重要視したのだ。
いったん試合場から下がると、アカネ、アイリス、キースが駆け寄ってきた。
「ユージ、Dクラスを倒すなんてやるじゃない!」
とアカネ。まぁ一応元騎士長の下で1年修業した甲斐があったのだろう。
「ユージ君ケガしてない?ヒールいる?」
とアイリス。いや大丈夫だ、と断ってタオルだけ借りて汗を拭く。
「あっぶねぇ~ヒヤヒヤしたぜ!ニャハハ」
とキース。俺的にはある程度余裕があったんだが・・危なく見えたのかな??
「次はいよいよダースね!頑張んなさいよ!」
とアカネに激励される。
「ああ・・まぁやるだけやってみるよ」
とタオルをアイリスに返し、試合場へ向かう。
――――――――
試合場には既にダースが待ち構えていた。
「おい、待ってたぜ。こんなに早くテメェに当たるとはな。」
「そ・・そうだね。お手柔らかに。」
やる気満々のオーラがダースから出ていた。
しかし、俺は一戦して感じたのは、木刀に皮をかぶせただけのこの得物では危険だなぁ・・ということだった。
頭や腹部の重要機関にクリティカルすれば下手すれば死ぬんじゃないか?
よし、手足だけ狙うことにしよう。悪くても骨折くらいで済むだろう。
――――――――
ダースも得物は剣のようだ。
ダースは上段に構え、俺は自然体でぶらりと剣を下げていた。
「構えて・・始め!」
審判の合図とともに、ダースが剣を振り下ろしてくる。
俺は軽くバックステップしてかわし、間合いを見計らっていた。
剣速はあるけど、体移動が今一つかな。あれ?意外と余裕あるな、俺。
初撃をかわされたダースは、チッと舌打ちをして、踏み込んで胴薙ぎに剣を払ってきた。
これは下がってさらに剣で受け流す。今なら頭も狙えそうだが、さらに距離を取って次の出方を見る。
ダースは引くついた顔を見せ八相の構えを取る。
気合十分の一撃が袈裟に振り下ろされてきた。
軽く下がってかわしてから、更に上段から面を狙ってきたダースの剣に合わせて下段からすりあげてから小手を打った。
思わずダースが剣を落とす。
「勝負あり!」
ふぅ。何とかなったか。良かった。
ダースは信じられないように自分の左手を掴みながらこちらを見てくる。
俺は礼をしてさっさと控室に下がっていった。
「ちょっと!ユージやるじゃない!!Bクラス倒しちゃうなんて!」
アカネが嬉しそうに言ってくる。
「おいおい、なんかこのまま優勝までいっちゃうんじゃねぇかぁ??」
キースまで。
「ユージ君すごいね!Bクラスでも誰も勝ったことないダース君に勝っちゃうなんて!」
とアイリス。
「いや・・なんか思った以上にベルフェの教えが良かったみたいだ」
実際対峙してみると意外と隙だらけに見えた。ベルフェにはなかったものだ。
やっぱり元騎士長と、修練しているとはいえ一般学生とでは、差があるのだろう。
と、そこまで考えたところで・・
急に動悸が襲ってきた。
心臓がバクバクいっている。過呼吸だ。
過去に何度かあったパニック発作かもしれない。立っていられない。
俺はそのまま膝から崩れてかすれる声で
「みんな、ごめん。以後の試合は棄権す・・る・・と伝え・・て・・」
ここでついに倒れた。
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