龍翔その後
俺はアイズに寮まで連れて行ってもらうとすぐにベッドに運ばれた。
「僕ちょっと水持ってくる。アカネ、あとはよろしく。」
アイズが水を取りに行く。
アカネはベッドの脇に座り、俺の頬をなでた。
「まったくあなたはいつも無茶してばかり・・あまり心配させないでよね・・」
「ああ・・すまない。俺も必死だったんだ。」
「でも良く頑張ったわね。」
「ああ、我ながらこの短期間でよくやったと思うよ・・」
俺はこのあたりで意識がもうろうとしてきた。
「これはご褒美よ。」
・・・!
アカネが俺の頬にキスしてきた!
柔らかい感触が残る。
ぐっ俺の意識よ・・持ってくれ・・
ダメだ・・
俺はここ一番にダメな男だった。
俺は意識を手放した。
――――――――
その後。
龍翔は約束を守り、むやみに人を傷つけることはなくなった。
律儀な男だな。
ある休みの日。
龍翔が街を歩いていると、フレンダとばったり出くわした。
「ふむ・・お主はユージ・ミカヅチの友人だったか?」
「フレンダ・ライムだ。そういうお前は龍翔だな。丁度いい。お前と手合わせをしてみたかったのだ。」
龍翔はフッと笑うと
「あいにくだが、そのユージとの約束でむやみに力を振るうことを禁じられていてな。我も女を傷つけたくはない。下がるがいい。」
「大丈夫だ。これでも私も武術家だ。そうだな・・試合は三割程の力で、魔法を使わず、お前はあの、コールとやらの技を使わない。そんなルールでどうだ?」
「ふむ・・しかし・・」
「心配はいらない。ユージも我がライム道場の門下生だ。ユージには私から言っておこう。」
「そこまで言うのであれば・・良いだろう。そこの河原でどうだ?」
「いいだろう。」
フレンダと龍翔は連れ立って河原に降り立った。
お互いに構えて見合う。
「ではいくぞ!」
フレンダが鋭い踏み込みから顔面に突きを放つ。
「む!このスピードは・・!」
龍翔が上段受けで拳を上にはじきあげる。
「まだまだこれはどうだ?」
フレンダは顔面へのワンツーからローキック、更にハイキックを放つ。
龍翔はバックステップしてかわす。
「中々やるようだな・・。」
「当然だ。素手での戦いでは私はユージより上だ。」
「では今度はっこちらからいかせてもらう!」
龍翔は踏み込むと中段への下突きからそのまま・・体をフレンダに接触させ、
「鉄山靠!」
強烈な体当たりをかましてきた。
フレンダは危うく飛び下がると鉄山靠をかわす。
「ほう。この技までかわすとは、口だけではないようだな。」
「行ったであろう。私は武術ではユージより上だと。」
フレンダは今度は右ローを見せてから左ミドルを龍翔の腹を狙って蹴りを放つ。
「む!いかん。硬気功!」
龍翔は体を硬化させて受け止める。
「妙な技を使うな・・お主の国の技か?」
「ああ、我が祖国、中国の技だ。」
「ではこれでどうだ?瞬動!」
フレンダの体がブレたかと思うと、龍翔の脇に回り込み顔面にストレートを放った。
「く・・早いな!」
龍翔が腕をクロスさせ、受け止める。
そしてフレンダは更に瞬動から上段に直蹴りを放つ。
龍翔は危うくかわすと・・
「女の身でここまでやるとは・・」
と感嘆した。
「私は道場の娘だ。武術は物心ついたときよりたしなんでいる。」
「なるほどな。付け焼刃ではないということか。」
「その通りだ。」
龍翔はフッと息を吐くと、
「もうこのあたりでよかろう。お主の実力は良くわかった。」
「そうだな。このあたりでよかろう。私も満足した。」
フレンダは全身の構えを解いた。
そして、
「どうだ?龍翔よ。我が道場に来てみないか?」
と提案した。
「お主の道場に?しかし・・」
「道場でならば思う存分力がふるえるぞ?君のその技、さび付かせたくはあるまい。」
「ふむ・・ならば行くだけは言ってみようか。」
そこでフレンダと龍翔はライム道場へ行くことになった。
――――――――
「おう・・君が例の龍翔か。私は師範のゴートン・ライムと言う。」
「お初にお目にかかる。龍翔と申す。」
「ほう、龍が性で翔が名かな?」
「そうだ。我が国の呼び方ではロング・シャンと言うが、この国では呼びやすいように龍翔と自称している。」
「そうか。君は祖国での軍事任務についていたんだったね。更に武術も使うとか・・どうだ?まずは技を見せてくれんか?」
「良かろう。」
龍翔はそういうと様々な技を繰り出して見せた。
「なるほど。みたこともないような技を使うな。どうだ私と一戦してみないか?」
「・・先ほどそこのフレンダにも申したが、人を傷つけることはできん。約束がある。」
ゴートン先生は笑うと
「心配いらん。これでも王宮の武術師範だった男だ。遠慮はいらんからかかってきなさい。」
「そこまでいうのであれば・・先ほどのフレンダの手並みを見るに、むやみに傷つけることはあるまい。」
龍翔はそういうと構えを取った。
ゴートン先生は脱力すると、
「ではいくぞ!瞬動!」
と目にもとまらぬ速さで龍翔の懐に入り込み、下突きを肝臓にめり込ませていた。
「グハァッ!」
龍翔は倒れこむ。
「おや、手加減したたつもりだったが・・少し強すぎたかのう?」
「ぐ・・いや、見事なお手前、感服いたしました。先ほどのフレンダの技・・瞬動・・であったか?あれも見事であったが、今回は技を繰り出す暇もありませんでした。」
「フレンダもまだまだ修行中よ。これが真の瞬動だ。」
ゴートン先生はそう言うと、
「どうだ?龍翔よ。この道場に入門してみんか?」
「む・・それは望むところですが・・しかし・・」
「武は自分を律し、正確に制御することじゃ。どうやらお主は自分を制御しきれておらんようだからの。ここにいればフレンダやユージとも切磋琢磨できるぞ?」
「む・・そこまで言うのであれば・・確かに我は自分の力を制御できなかったように思える。良かろう。世話になることにいたす。」
「わはは!貧乏道場にまた一人入ってくれたわい!助かるのう!」
とゴートン先生は笑った。
――――――――
俺がライム道場に顔を出してみると。
稽古に汗をかく龍翔がいた。
俺は・・開いた口が塞がらなかった。
「龍翔・・お前、ライム道場に入門したのか?」
「うむ。ゴートン先生やフレンダの実力を知ったのでな。我の力を制御するためにもここで修練を積むことが良いと判断した。」
うーん、確かに武は矛を収めるとか聞いたことがあるしなぁ・・
「というわけだ。ユージ。これからよろしく頼む。」
俺にゴツい後輩ができた。
・・・
ある日、道場からの帰り道。
「そういえば龍翔って何年前に転移してきたんだ?」
「五年ほど前だ。戦場で潜入作戦に従事していたときに突然次元ホールに巻き込まれた。」
「五年前ってじゃあ、もう結構経つんだな。」
「うむ。始めは苦労したぞ?何せ子供の体だからな。」
「どうやって暮らしてきたんだ?」
「幸い、士官の家で拾ってもらってな。そこからもう一度、軍を志したのよ。我にはそれしかできんからな。」
「地球にいたときは何歳だったんだ。」
「四十だ。丁度、不惑の年だな。」
げ・・年下だったとは・・
「俺はアラフィフ・・四十九歳だ。」
「ほう。ではお主には年上として敬意を払わねばならんな?」
「いや、やめてくれ。今さら年の差をお前に気にされたくはない。お前に敬語使われるとかぞっとするぞ。」
「わははは!それもそうだのう?」
はは・・笑い事じゃないよ・・。
「してユージよ。お主は地球で何をしていたのだ?」
俺は日本でのことを隠すこともなく話した。
「俺は社会不適合者だったんだ。何もできず、何もやる気が起きず、ただただ日々を暗い部屋の中で過ごすだけ。死ぬことを考えない日はなかったよ。」
「ふむ・・なんと。お主がそのような過去を持っていたとは・・しかし、よくそのような状態からここまで来たものだな。」
「まぁ、まずは生きることに必死だったんだ。それにはやるしかない、って気持ちだったな。ある意味追い詰められていたから頑張れたんだろうさ。」
「ふむ。その気持ちはわからんでもない。我もこっちの世界にきてからは必死だったからな。」
「ああ、そういえば龍翔はいきなりSクラスに入ったが勉強もできるのか?」
「特殊部隊では様々なことを学んでいたからな。そうだな・・学び方、というべきか。短期間で新たなことを習得する方法を会得している。」
う・・うらやましい・・
「だがやはり言語では苦労したぞ?響きは英語に近いとはいえ、別言語だからな?まぁ、お主との差はこの世界にいた時間の長さであろう。」
「龍翔は・・その帰りたくないのか?中国に。」
「我はあの血みどろの世界には帰る気にはなれんな。一時帰国などならいいかもしれんが・・本格的に帰国したらまた任務について殺し合いの螺旋から逃れられぬであろう。」
「そうか・・俺は何もしてこなかったけど、龍翔は色々苦労してきたんだな・・。」
「ユージよ。お主は何もしてこなかったわけではない。自分の内面と向き合っていたのであろう?」
そんなこと言われたのは初めてだ。
俺はただ、鬱々とした気持ちでただ日々を過ごしていただけだ。何も生産的なことをすることもなく。
「いや、やっぱり違うな。俺はただ沈んでいただけだ。コミュ障の社会不適合者ってだけさ。」
「ならば、そのお主がここまで変われたのだ。我を倒すほどにな。少しは自分を褒めることも大事だぞ?」
と言うと龍翔は珍しく微笑んだ。
男らしい顔だなぁ。
数々の修羅場を潜り抜けてきた男が出せる顔だろうか。
俺も・・いつかああなってみたい。
――――――――
しばらくして。
学校にある噂が飛び交うようになった。
「おい!アカネちゃんに好きな人がいるらしいぜ!」
「誰なんだチクショー!」
「あの鋼鉄の美少女が・・何があったぁ!」
原因はとある告白にあった。
ある日いつものように、イケメンがアカネに告白した。
「アカネさん!僕と付き合ってください!」
いつもならここで
「興味ないから」という返事だったのだがある日を境に
「私、好きな人いるから」に変わったというのだ。
男たちは大騒ぎだ。
俺はその騒ぎをボーッとみていた。
あれってやっぱりそういう事なのかなぁ・・
でもご褒美って言ってたし・・
うーん・・
俺は一人悶々としていた。
平和な日だった。
読んでいただいてありがとうございます!ヒゲオヤジです。
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