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クラーケン

クラーケン

――――――――


巨大なタコだった。


「クラーケンだぁ!」

誰かが声を張り上げる。


クラーケンとは、地球ではこう言われている。

北欧の海の怪獣。背の周囲が2.4キロメートルあり、天地創造の時に生まれ、世の終わりまで生き続けるという。


そのクラーケンは・・


2.4キロメートルはなさそうだったが、俺たちが乗っている船を見つけるといい獲物を見つけたとばかり、足を船体に巻き付かせてきた。


船員さんはそれぞれ武器を持って引きはがそうとするが、もちろんそんなことではがせるわけもなく、船体がミシミシと音を立てる。


「風刃!」

ウェイ部長が真っ先に魔法を飛ばす。


だがその柔らかな触手が衝撃を吸収してしまうようでダメージを与えられない。


「炎弾!」

アカネの魔法が飛ぶ。


さすがに炎魔法には弱いのか多少の動揺が見られた。

しかし、それでも巻き付いた手を放そうとしない。


「まずいですわね・・。」


レインが船員に指示を飛ばす。


「皆、救命ボートの用意を!」


その指示を聞き、船員たちが再び我に返ったように動き出す。


しかし、この巨大な魔物がいる限り、ボートに移ったとしても生存は難しいだろう。


ここで奴を倒さなければならない。


アカネの炎で多少緩んだ触手にハンナ先輩が連続で風刃を飛ばす。


しかし、やはり風魔法は通りにくいようだ。


俺は剣をレインの屋敷に置いて来ていた。


『ホーンテッド、来い!』

と愛剣を呼び寄せる。


次の瞬間手にホーンテッドが現れる。


まずは普通に切りつけてみた。


すると傷はつくものの切断に至るほどではない。


あの表面のヌメヌメをなんとかしないと・・・


俺はウェイ部長に

「ウェイ部長、(サンダー)(ストーム)はできませんか?」

と聞いてみた。


「ダメだ!ここで使ったら、乗員まで感電してしまう!」


・・そっか・・電撃系は厳しいか。


するとアカネの炎に頼るしかない。


「アカネ、奴を空間魔法で固定して攻撃できないか?」


と聞いてみた。


「無理よ!今だとあいつの触手まで空間に閉じ込めなきゃいけない!船まで空間内に入っちゃうわ!」


やっぱりまずは触手をなんとかしないとだな・・


ちなみに俺はカナヅチだ。海中では戦えない。


よし!


「コール!柳生宗矩!」

体に力が湧き上がる。


柳生宗矩は、大坂夏の陣の時には2代将軍・秀忠の本陣で宗矩が刀を抜いたかと思うと、そこには7人の豊臣方が倒れていたと言われる、柳生家の繁栄を確とした剣豪である。政治家としても優秀で剣禅一如や活人剣を唱え、時の将軍に多大なる影響を与えたという。


俺はさらにホーンテッドに操気の術で真空をまとわせ、クラーケンの触手に切りつけた。


『ボォォォ!』

クラーケンが鳴く。


全てとはいかないが、半分ほど切ることができた。


よしこの調子だ。


「!ユージ、上!」


アカネの声にふと上を見るとクラーケンがその残りの触手を俺に叩きつけようとしている!


俺は慌てて風魔法でサイドステップすると、ゴォォンとすごい音を立てて触手が甲板に叩きつけられた。


甲板は一撃で叩き壊され、木製の床に大きな亀裂が入った。


「クッ!」


俺は急いで体勢を立て直すと、甲板に一撃をくれた触手に切り込む。


今度も半分ほどまで断ち切れた。


切りつけられた触手は痛みをものともせず暴れている。


!そうだ、もしかしたら・・


「アカネ!甲板に巻き付いてるやつで無事な触手に炎弾頼む!」


「!?わかったわ!」

アカネが炎弾を無事な触手に放つ。


見事ヒット!


炎弾が当たった触手はブスブスと煙を出しながらうごめいている。


今度はどうだ?


俺はアカネが炎弾を放った箇所に向かって切りつけた。


「ハァッ!」


すると、よし!今度は一撃で切断できた。


「よし!ユージ!やったな!」

ウェイ部長が叫ぶ。


「表面の滑った部分を焼いてから切りつければ、効果があります!」

と答えると、


「アカネ!皆さん、巻き付いてる触手に今の通りに炎魔法をお願いします!」


それを聞いて、アカネを始め、ウェイ部長、ハンナ先輩、レインが炎魔法を次々と繰り出した。


俺は炎魔法で焼けた箇所を片っ端から切り落としていく。


『ボォォォン!』

クラーケンがさすがに痛みに耐えかねたのか、単に足がなくなったら不便だと思ったのか、船体に巻き付いた触手を放していく。


よし、もう一息だ。


するとクラーケンが船の下に潜り込むような動きを見せた。


まずい!下にもぐられたらどうしようもなくなる!


「アカネ、今なら空間魔法であいつの本体を固定できないか?」


「やってるのよ!ちょっと待って!こんな大質量、簡単には固定できないわ!」


よし、アカネが魔法を発動するまでにできることは・・


「アイリス、船体のヒールはできるか?」


「?そんな事考えたこともないよ!わからないけど、やってみるね!」


「エリア・ヒール!」

アイリスが船体にヒールをかける。


淡い光が船体を包む。


すると生命体ではないので効果は遅いものの、船体の傷が多少修復された。


「残りの皆さんは風魔法で燃やした触手部分を攻撃してください!」


「おう!」「わ、わかったよ!」「了解ですわ!」

ウェイ部長、ハンナ先輩、レインがそれぞれ応答する。


俺はそれを見て未だ残った触手に向かい切り落とした。


これで船に巻き付いた触手ははがせた。


すると、


「ユージ!準備できたわよ!」

とアカネの声が上がる。


「よし、それじゃ、奴の体を固定してくれ!!」


「了解!エェーイ!!」


すると半分ほど海中に沈んでいた体がそこで固定され、ピタリと止まった。


「よし、アカネ、例の複数熱線はできるか?ルースの?」


「!簡単に言ってくれるわね!やってやろうじゃない!」


アカネは固定したクラーケンの空間内に炎弾を複数作り出した。


「よし、頼む!」


「いくわよ!複角度(マルチアングル)(ヒート)(レイ)!」


『ボボボォォォオオ!』


クラーケンの体に複数の熱線が突き刺さり、その体を焦がしていく。


貫通こそしないものの、その体全体は焼け焦げた色を示し始めた。


「アカネ、空間の一部に俺が通れるような隙間を開けてくれ!」


「?わかったわよ!でももう、そろそろ魔力の限界よ!」

といいつつ俺が空間内に入れるくらいの隙間を開けてくれた。


・・


今だ!


俺は風魔法をまとってクラーケンを固定している空間内に飛ぶ。


クラーケンは飛び込んできた人間に驚いたのか、距離を置こうとするが、アカネの空間魔法で固定されているため動くことができない。


俺はとりあえず目に突きを入れてみた。


『ボォォォオ!』


効いているのかどうかわからない。


なにせ、図体がでかすぎて急所に届いているのかどうかわからないのだ。


いや・・待てよ?確かタコの急所は・・


「目と目の間・・そのすぐ下だ!」


俺は日本でタコを〆るテレビを見たことを思い出し、その場所に突きを入れてみる。


更に下に切り抜く。


『ボォォォオ!』


ダメか・・でかいせいで急所に届かない。


いや、まてよ?今なら使えるかもしれない。

「操気の術!」


再び風を呼ぶ。そして、

真空(エバキュエイテッド)固定(フィックス)!」


一気に風を真空に練り上げていく。


伸長(エクステンション)!」

刀身が1メートルほど伸びた!


これなら!


「ぬあああ!!」


俺は急所目指して一気に切り裂く!


クラーケンの眉間から下が切り裂かれる。


『ボボボォォォオオオオ!』


まだ届かないか・・?


ならば!


今度は切り裂いたクラーケンの眉間下から体内に自分の体をねじりいれた。


そろそろタイムリミットだ。


「ずりゃああああ!!」


クラーケンの体内で粘液にまみれながら、伸ばした真空のホーンテッドを再度突き入れ、力任せに切り落とす。


『ボ・・ボボ・・』


クラーケンの体から力が抜けていく。


もう一発だ。


これで恐らく、コール効果は切れてしまう。


再度体をクラーケンの内部にねじりこむ。そして

「いい加減くたばってくれよ!ぬおおおおお!!」

突き入れ、切り落とした。


クラーケンは

『ボオオオオオン!!』

と叫び声をあげると、徐々にその体から力を失っていった。


・・・

・・


動きがなくなった。


どうやら仕留めたようだ。


ようやくおとなしくなってくれたか・・


体内に体をねじりこんでいるため、息も限界だ。


俺はクラーケンの粘液まみれになりながら体外に脱出する・・と、クラーケンが海中に沈んでいく。


連れて俺の体も海中へ・・


・・


やばい、俺泳げないんだった。


俺はクラーケンの外に出ると、海上でアップアップしたながら、


「俺、泳げないんだ!誰か助けてくれぇ~!!」

と情けない悲鳴を上げていた。


べ・・別に最後が情けないのはいつものことだし?気にしないし??





読んでいただいてありがとうございます!ヒゲオヤジです。


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創作の励みになりますので、よろしくお願いいたします。


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