賢者との語らい
賢者はルース・アインハルトといった。
「さて少年よ。お主が丘の上の『建物』からきたというのはまことかな?」
ルースは確認をとってきた。
「はい。私は気が付くとあの建物の中にいました。何が何やらさっぱりですが・・」
「ということはおぬしはこの世界のものではない。あの『建物』はこちらの人間の前には表れるものだからの。少年よ、おぬしの名は?」
「はい、ユージ・ミカヅチと申します。」
なんか異世界風に名前・名字の順で答えてしまった。こちらの風習はどうなのだろうか?
「ふむ。ユージが名かな?ミカヅチは一族の名かの?」
一族の名などと言われると大仰な気がしてしまうが、まぁそういうことになるんだろう。
「ではこれよりユージと呼ぼう。ユージよ、おぬしは『建物』の中で声を聞いたかな?」
・・少し考える。あの剣がもしこの村の宝、というようなものだったらなんらかの罰を受けるかもしれないからだ・・。
最も今は一緒にあった鞘とともに門衛に預けられているため、今更、という感じがしないでもない。
隠すにしても遅いだろう。
「はい。輝く武器のようなものがあってそれから願いを聞かれました。」
「どういった問答か聞いてもよいかの?」
「私の願いを聞かれ、私は歴史に名を遺した英雄たちのように強くなりたい、と答えました」
一瞬、賢者ルースは驚いたような顔を浮かべ、そして苦笑した。
「それはまた・・大きな願いじゃのう・・単に強くなりたい、などであったら負担も少ないだろうに」
???
単に強くなりたいと、英雄のように強くなりたい、では何か違うのだろうか??
「強くなりたいというおぬしの願いは分かった。してその願いを持って何をなしたいのかの?」
「・・故郷に帰ることです。」
ルースはしばらく言葉を発せず、考え込むような素振りを見せた。
「それは段階を踏んでいかなければならんのぅ。今まで異界より彷徨うてきたものはおったが・・恐らく誰も成し遂げていまい」
・・やはり無理なのか。
顔に出ていたのかいささかがっくりとした顔をしていると、
「しかしながら良い知らせもある。おそらくお主の故郷の地球のいう星は同じ『銀河』に属しておる可能性が高い」
なんと!まったく異次元の世界ではなかったのか。
すると今回の転移は同じ銀河系内での転移ということになる。何光年あるのかわからないが全くの別世界でないことに少し安堵を覚えた。
「しかしながら、銀河を旅するには次元の狭間を利用し、速度を超越した場所から場所へ移動しなければならん。これが非常に厄介での。じゃが、まったく無理というわけではない。この世界には次元を超越する方法がいくつかあっての。」
!!!
なんと、無理ではなかったのか!
光明が見えた気分だ。
「しかし、いずれも一筋縄ではいかん。次元を超えるには次元ホールを開く必要がある。」
次元ホール?ワープのようなものだろうか?
「やりかたは、召喚術と対をなす送還術、技術的に次元ホールを開くディメンショナル・パス、そして宗教的儀式によるホーリー・パスの方法などがある。」
なるほど。わからん。
「これらはそれぞれここローム王国、カーティス皇国、ホーリー聖教皇国が保有していると言われている。」
?言われている?? 確定情報ではないのだろうか?
「次元ホールを開くことは多大なエネルギーを消耗するうえ、諸国がお互いに監視しあっているため簡単には開けん。また開くには王族や軍部のトップレベルの承認が必要じゃ」
簡単にほいほい使えるものではないということか。まぁ戦争なんかで簡単に使えたら奇襲し放題だからな。
「して、先ほどの話に戻るが、ローム王国、カーティス皇国、ホーリー聖教皇国ともここ数百年は、事故を除き、次元ホールが開かれたことはない。」
ルースはその見事な白髭をもてあそびつつ続ける。
「さらにお主にとって良い知らせかどうかわからぬが・・・このローム王国の初代王は地球人じゃ。お主にとっては同郷のものになるの。まぁ・・そのうち色々とわかってくるであろう。」
とルースはニヤリと笑った。
するとなんらかの地球への伝手が得られるのか?・・いや結局その王が地球人だったとしても帰郷は叶わなかったんだ。あまり期待しすぎるのもやめておこう。
「いずれにせよ、おぬしが故郷へ帰るには、端的に国政に関わるほどの『出世』をすることが肝要じゃ。そうすればいずれ次元ホールの起動に関わることができるかもしれん。」
出世かぁ・・俺と最も縁遠い言葉だなぁ・・
「その出世の中で一番早い道はどれですか?」
とずばり聞いてみた。
「そうじゃのう・・やはり国営の士官学校を出て軍で将校になる道を進む方法が一般的じゃが、いささか時間がかかるかもしれん。すると魔術学園で研鑽し名を挙げて貴族になる道が早いかのう。」
魔術!やはりあったのか!!
2次元オタクの血が騒ぐが自分が何ができるのかわからないため、何とも言えない。
「魔術学園では別に魔術だけを教えておるわけではない。武術、政略、魔道工学など様々なことを教えておる。特に魔術だけを教えているわけではない。」
「ちなみに私には魔術の才能がありますか?」
と、一応聞いてみた。賢者ならわかるかもしれないとふと思ったためだ。
「いや、通常はわしは一目で大体の魔術量や適性がわかるのじゃが、おぬしには見えんな。異界から来たものは見えにくいものかもしれないのじゃが。」
なんだ、異世界チートで無双という線はなさそうだ。
「じゃが、おぬしの持っておったあの剣、あれには様々な力が秘められていると伝わっておる。お主の願いを聞いたのならそれにふさわしい力をお主に与えてくれるはずじゃ。」
そう、あの剣になにもなければもう何もない中で異世界で立ち尽くすことになってしまう。その場合は生きることに精いっぱいでとても帰郷するどころではないだろう。
「あの剣は術者の願いにこたえて様々な形に変化すると言われておる。また、破壊不能の属性を保有しているそうじゃ。今わかっているのはこれくらいかの」
なるほど。今は剣の形をとっているが必要に応じて槍や鉾などの形にもなるということか?弓はさすがに難しいか?この時代の武器レベルがどの程度かはわからないが少なくとも白兵戦では使えるかもしれない。
「しかし、術者とともに成長するものとも言われておる。ひるがえして言えば術者に十分な潜在力がなければその力を十分に発揮することはないそうじゃ。」
・・・これはうれしくない情報かもしれない。体が若くなったことで成長の余地はあるだろうが、もともと運動神経が良いわけでも体格に恵まれていたわけでもない。結局のところある程度自分で鍛えるほかないということか。
「ちなみに生活の中で一週間・・5日働いて2日休みなどといった制度はありますか?」
「うむ。ここでも週間制度はある。10日間を1つの週とし、うち3日間が休みじゃな。それが3週間で一ヶ月じゃ。」
期間の長さはことなるがほぼ地球のリズムとほぼ一緒だな。
「さて、今日のところはこれくらいかの。せっかくの異界からの珍客じゃ。しばしこの村にてゆっくりと今後のことを考えればよかろう」
「色々ありがとうございました。」
初見の見ず知らずの少年にここまで教えてくれたのだ。感謝すべきだろう。
「おう、もう一つ忘れておった。ここでの会話じゃが、支障なく意思疎通ができておるの?」
「あ、はい。それについては私も不思議に思ってました。」
ルースはあごひげをこすりながら、
「それはこの世界特有の意思疎通の力じゃ。伝えたいことをそのまま相手の心に届けることができる。もっとも他民族の場合など、例えばドラゴン族などとはできない場合もあるようじゃが。相手の心を読むことなどはできん。」
うーむ、やはり読む書くはできないが口頭での会話はできるということか。書物での勉強などは苦労しそうだ。
「したがって、どこぞの学校へ入学するなら若い年次にしたほうがよろしかろう。文字の読み書きも覚えられるしのう。」
なるほど。せっかく年齢不詳なのだから若い年次にするか。体の成長具合からして中学生くらいでいけるだろうか?
「あ、ちなみにルース様はどういった魔法を使えるのですか」
「わしは火、水、風、雷、ヒール、空間魔法が使える。魔法にはほかにもさまざまなものがあるが、通常は火、水、風、雷属性で戦うのが基本じゃな。まぁ闇魔法を除くとほぼメインのところは覚えておる。闇魔法はこれらメインの魔法に属さないものを指すことが多い。わしは特に得意なのは空間魔法じゃ。これについてはこの国でも随一と自負しておる」
とほほ笑んだ。
・・さすが賢者だ。もっとも俺には才能がないと言われてしまっているのだが。
「闇魔法とは火、水、風、雷、空間に属さないすべての魔法を指す。お主の剣もそれにあたるかもしれんの。使えるものは滅多におらん」
なるほど。そうすると一応レアスキルってことになるのか?もっとも使いこなせなければただのお荷物だが。
とにかく明日からは剣の研究をしてみるとするか。
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