あの日、あの時、あの場所で
ある晴れた日の朝、俺は目を覚ました。
見上げる天井は、見たこともない模様で、フカフカの枕。
布団はちょっと薄い。
………ん?ここは?
確か、俺はあの時。
頭に手をやると、包帯に触る。
そういえば、城の庭でキールとエリオットと走っていて、俺がよそ見をしたら、ガツッと。
頭を、強か打ったらしい。
消毒の匂いで、ここが病院だと理解する。
しかし………。あれ?俺の名は?
「あ!ジュリオ様が、目を覚まされた!先生!先生!!国王様!奥様!」
近くで女性の声がする。
侍女のマルチナか。
ボンヤリと考えながら、先程まで見ていた夢を思い出す。
その夢は、やけにリアルな夢だった。
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俺は三浦純太。23歳。独身。
家族は両親に姉一人。
趣味はゲームで、ある会社でSE、パソコン保守管理の仕事をしていた。
SE、パソコン保守管理なんて聞こえはいいが、勤続年数がまだ新人に毛の生えたくらいの俺は、今のところ、先輩にくっついて勉強中である。
新人でも色々駆り出され、毎日午前様。
営業に影響を与えないよう、時間外にシステム移行する事が多いのだ。
こんな生活でくたびれない訳は無い。
俺は、あの日、疲れた体を引きずって、ボンヤリと駅に向かっていた。
もう終電だ。
ため息を付きながら、信号を渡る。
そこへいきなり車が走ってくる。
あ、と思った時は遅かった。
俺は車に跳ね飛ばされ、死んだのだった。
未練があるとすれば、一度くらい女の子とオツキアイをしてみたかった……。
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うーむ。
やけにリアル。
そして今の世界とは全然違う。
俺、ジュリオは7歳。
アクアノース国の第一王子だ。
アクアノースはその名の通り、湧き水が豊富で風光明媚な土地であり、避暑地、観光地、農業国として有名である。
しかし何だったのだろう。
夢の中で、俺には姉がいた。
今の俺には弟が居るが、姉は居ない。
夢の中の姉は、俺が大学生時代に
「下手なエロ本より、エロいよ。」
とゲームを勧めてくる。
そして見事、俺は、そのゲームにどハマリする。
確か『男爵令嬢の恋〜腹黒姫の下剋上日記〜』とかいうタイトルだった。
ヒロインは男爵令嬢で、あっちこっちのイケメンに恋心を抱き、偶然を装って近づき、通い詰め、ニャンニャンムフフするという、大人女性向けエロゲーだった。
確かに、あれは面白かった……。
夢の中の俺は一人、部屋の中で、何度も何度もそのゲームをしていたようだ。
「んー……ん?!んん?」
ちょっと待てよ。
今、この世界はアクアノース。
夢の中のゲームの舞台もアクアノースだった!
きっと、俺は夢の中で無意識に自分の国を当てはめたに違いない。
きっとそうだ。
出てきた王子の名もジュリオとか、エリオット、キールだったが、無意識だ。無意識。
その後、俺は泣いた家族に、揉みくちゃにされる。
どうやら、頭を打った後、一週間程意識がなかったらしい。
父親と母親は、鼻水をたらし、号泣していた。
何もそんなに泣かなくても。
侍女や侍従が引いている。
医者が
「もう、いい加減、診察させて下さい。」
と言うまで、俺は父親と母親に撫で回されていた。