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83.グサーノ殲滅戦⑤(5月22日)

上空で点にしか見えなかった大剣が、ぐんぐんと落ちてくる。

きっかり5秒後に奴の背中に着弾した。


ドーン!!!


雷が落ちたかのような地響きが辺りを包み、土煙がもうもうと立った。

背後の屋上で倒れ込む気配がしたのはルシアだろうか。


「ルシアさんしっかり!これ飲んで!!」


倒れ込んだルシアにアンナが水筒から水を飲ませているようだ。

傍らのアイダも肩で息をしている。


「アイダ。大丈夫か?」


「は…い…魔力はまだ残っています。倒したのでしょうか……」


土煙の中を透かし見るように3Dスキャンをかける。

前後で分断された巨大ミルワームの影以外は魔力反応はない。


「アンナ!魔物の反応は!?」


「えっと……地下の反応はありません!」


イザベルが北風を吹かせて舞い上がった土煙を飛ばす。

アリシアの放った光魔法に照らされたのは、長い身体を前後に真っ二つにされた巨大なミルワームの姿だった。


終わったのか……いや、スキャンの結果だけでは判断できない。


「アイダ。行くぞ。油断するな」


「了解です」


G36Cを構えて巨大ミルワームに近づく。

MP5Kを構えたアイダが一歩遅れて

続く。


ルシアが空高くから落下させたダミアンの大剣は、1メートルを超える刀身を8割以上地面にめり込ませて突き刺さっていた。

巨大ミルワームは3対の脚がある胸部とそれより下の腹部の間で両断され、さらに大剣落下の衝撃で数メートルは吹き飛ばされたようだ。

切断面からは茶褐色の体液が流れ出て、地面に血溜まりのようなものを作っている。


「動きませんね……」


「ああ。こいつが最後だと思うか?」


「それはわかりません……ですが最後であって欲しいとは思います」


全く同感だ。


辺りはまだアリシアの打ち上げた光魔法に照らされている。

食糧庫へ振り返り、手にしたG36Cを突き上げて戦闘終結を皆に知らせる。


「やったああああ!終わったあ!」


この距離でもはっきりと聞こえるイザベルの声量が、彼女達の心情を表しているというものだ。


◇◇◇


とりあえず食糧庫に引き揚げる。

夜明けまであと数時間はある。中途半端なタイミングで起こしてしまったアンナとアイダ、まだ眠いだろうイザベルとルシアを寝かせ、アリシアと2人で見張りを行うことにした。


「ティオさんは無事にリナレスの街に帰り着いたのかな……」


「そうだな。今頃は援軍を率いてやってくる手筈でも整えてるんじゃないか」


「そうだといいけどなあ。援軍も必要だけど、村の復興までには凄い人手と時間が必要そうですよね」


復興か。


生き残った村人は最初に保護した子供達5人の他、食糧庫に避難していた10名と途中で救助した7名、合わせて22名しかいない。

普通に考えれば村を放棄してリナレスかアルカンダラに移住するべきだろう。

ただそれは生き残った村人達が決めることだ。

残念なことに子供達の肉親は誰も助からなかったようだ。あの子達の身の振り方は気になるところだが、仮にも俺が引き取るなどとは言えない。

確かに部屋には余裕があるし、金銭的な意味でも困ってはいない。

だが、俺や3人娘は駆け出しのカサドールだ。基本的に家は留守にするし、明日も知れない身の上だ。まだ幼い子供達を引き取るなど出来ないのだ。


食糧庫の屋上の手摺りにもたれ掛かり、周辺にレーダーを放ちながらそんな事を考える。


ようやく雲が去って月明かりに照らされるグサーノを見ていたアリシアが、突然蹲み込んだ。


泣いているようだ。


「アリシア……」


「ごめんなさい。ちゃんと見張ってなきゃいけないのに……でもちょっとだけ、ちょっとだけ時間をください」


無理もない。大勢の人死を目撃し、多数の魔物と戦ったのだ。ストレスが最高潮に達してもおかしくない。


「もっと……もっと早く来ていれば……アルカンダラでのんびりお買い物なんかしてたから……」


「それは違うぞアリシア。確かに俺達がもっと早く到着していれば救えた命もあったかもしれない。だが俺達はこうなると知っていてわざと遅れて来たわけじゃない。少なくとも俺は知らなかった。アリシアはどうだ?」


「それは……そうですけど……」


「いいか。事が起きた後でもっと出来た事があったんじゃないかと反省するのはいい。だが度を超すと単なる思い上がりだ。俺達が世の中の全ての不幸を解消できるわけじゃない。イリョラ村に1日早く到着していれば、もしかしたらリナレスの街が襲われたかもしれない。結果だけを元に過去の自分を責めるのは良くない」


「はい……でも……」


そんな事はアリシアだってわかっているのだろう。

頭では分かっていても、今必要な言葉は正論ではないのかもしれない。

手を伸ばしてアリシアの髪を撫でながら続ける。


「そうだな。次、もし同じような事があったら、もっと早く駆け付けよう。そうすればもっと多くの人達を助けられるかもしれない。それにアリシアは怪我をした大勢の村人を治癒しただろう?胸を張っていいことだと思うぞ」


「はい……そうします!でも……もうちょっとだけ、もうちょっとだけ泣きます」


泣く事はストレスの発散になるらしいからな。

気長に待とう。


◇◇◇


結局、東の空が白み始めるまでアリシアが頭を上げることはなかった。

ただこれだけで狩人失格だなどと言うことはとてもできない。むしろグサーノの残骸を見下ろして平然としている俺自身にちょっと驚いている。


「ごめんなさい。もう大丈夫です」


「ああ。酷い顔になっている。ちょっとこっちへ」


泣き腫らしたアリシアの目に周りに治癒魔法を掛ける。


「ありがとうございます。ちょっと泣き疲れました……」


「そうだろうな。俺も反省点がある。聞いてくれるか?」


「はい!聞きますよ〜」


「実はな……」


俺の反省点は、今回の巨大ミルワームのような硬い装甲を貫くには、エアガン+AT弾+貫通魔法では威力が足りなかった事だ。


一般的に、砲弾や弾丸の運動エネルギーは質量と速度に比例する。つまり、次の不等式が成立する場合に弾丸は装甲を貫通する。


1/2×質量×速度×速度>断面積×抵抗力×侵徹長


貫通魔法が弾丸の速度や質量を上げているわけではなさそうだから、貫通魔法とは物体の抵抗力を下げる効果を発現するのだろう。


ではどうするか。

単純にはエアガンから射出する弾丸の質量と速度を上げればいいのだが、それには現状の6mmAT弾では小さすぎる。

風魔法で加速しようにも、対象が小さすぎて限界があるのだ。


ここまでの説明というか俺の独り言を、アリシアは傍で首を傾げながら聞いている。


「つまり、カズヤさんが必要とするエアガンを作ればいいのでは?」


「作る?どうやって?」


アリシアは事もなげに“作る”と言ってくれたが、いくら遊戯銃とはいえ無から有は生まれないのが道理だ。


「錬成魔法で。だってAT弾だって作ってるじゃないですか。きっとエアガンだって作れますよ」


「錬成魔法?それはどういう魔法だ?」


「えっと……最初は針や糸を錬成するところから始めます。ほら、服が破れちゃったりした時に便利でしょ?それで慣れてきたら釣針とか短剣、弓使いなら矢を錬成したりしますね。ただあまり大きな物や複雑な物を錬成しちゃうと魔力を一気に消費するから、普段は鍛えた物を買ったほうがいいです。あくまで緊急用って感じですね!」


「それは何もないところから作るのか?剣なら金属を使ったりするんじゃないのか?」


「素材のことですか?確かに精錬された鉄を素材にしたほうが上質の剣が錬成できるそうですが、土からでも錬成できますよ?」


土……土か。

確かに土にはおよそ自然界に存在するあらゆる物質の構成元素が含まれてはいるが。


まあ悩むぐらいなら試してみるか。

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