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82.グサーノ殲滅戦④(5月22日)

南側から近づいてきていた反応がとうとう300メートル地点に達した。

3Dスキャンを掛けて、魔物の大きさと数を特定する。


これは……ムカデ型ではない。もっと大きな円筒形、いや芋虫のような形の魔物だ。

数は1匹。グサーノの全長が4メートルほどだとしたら、その1.5倍はあるだろう。

そういえばアルカンダラの街で少年の話を聞いた時、街の人々が何と言っていた。芋虫と表現したのではなかったか。この魔物こそがグサーノなのだろうか。

そしてその巨大芋虫の前に、地中に潜んでいたムカデ型グサーノが飛び出した。


ドーンという地響きが夜の闇を突き破って食糧庫まで届く。

だが、そのまま静かになる。スキャンされる反応も停止したままだ。


何が起きている?

奴らがいる場所は村の敷地内に少し入ったところ。あいにくと月は雲の影に隠れ、アイダ達が灯してくれた篝火の灯りも届かない。


長い…長いな。


ミリタリーウォッチの秒針が3周ほどもした頃、何かを砕くようなバリバリっという音が響いた。

スキャン上に見える影は、2匹が重なっているように見える。

だが飛び出したグサーノの魔力反応がみるみる薄くなっていく。


「反応が1個消えました!奴ら共喰いしちゃった!!」


アンナが屋上から大きな声で報告してくれる。

俺の勘違いではないらしい。先程のバリバリという音は芋虫がグサーノを喰らう音だったか。


そしてそのまま静かになる。スキャン上の反応は動かない。

何なんだ。

共食いして共倒れというわけではないようだが、この静けさはなんだ。


更に秒針が進む。冷や汗らしきものが額を伝う感触が気持ち悪い。カラッとしていたはずの大気がジットリと湿り気を帯びているようだ。

傍らで剣の柄を握るアイダの頬を汗が伝っている。その汗が顎先を離れたと思った瞬間、前方からの圧が強まった。


スキャン上の魔力が明らかに強くなっている。

まさか共食いした結果がこれか!


「反応が動きました!ゆっくりこっちに向かってきます!」


「こちらでも確認した!ルシア!光魔法は使えるな!?高度50メートル、前方100メートルの位置を照らせるか!?」


「はい!イルミナを撃ち出します!詠唱の時間をください!」


ルシアの詠唱を待つ間にも反応はじわじわと近づいてくる。

1分も待っただろうか。300メートルは離れていた反応は、もう150メートルの地点まで迫っている。


「いきます!」


ルシアの合図から数秒遅れて、前方に輝く光球が出現した。

ゆっくりと落ちていく光球の真下に照らされた物。それは黒光りする巨大な芋虫だった。


いや、俺はこいつの正体を知っている。

爬虫類や古代魚を飼育した事があれば見たこともあるだろう。

標準和名をチャイロコメノゴミムシダマシとかツヤケシオオゴミムシダマシと呼ばれる甲虫の幼虫、要はミルワームだ。普通のミルワームはせいぜい2センチメートルから4センチメートルにしかならない。

だが光球に照らされるその魔物は、焼け残った板塀の高さと比較すると体高およそ4メートル、体長は20メートル近いかもしれない。

真っ黒な新幹線がにじり寄ってくる感じだ。

そしてその前方には夕方倒したグサーノの残骸が転がっている。


「まさか奴ら共喰いして巨大化したのか!カズヤ殿!残骸まで喰われては手に負えなくなる!今のうちに奴を止めなければ!」


「わかっている!ルシアは光球を消さないように照らし続けろ!イザベル!アリシア!目標は大きいぞ!攻撃開始!」


「了解!いっけえ!!」


イザベルとアリシアの射撃音が断続的に聞こえる。目標まではおよそ100メートル強。規定内のエアガンなら絶対に届かない距離だが、魔法によって飛躍的に飛距離が伸びたAT弾であれば十分届く距離だ。

だがイザベルお得意の貫通魔法が重ね掛けされたAT弾は、奴の表面を滑るように弾かれて周囲の地面を抉っている。

アリシアが放つAT弾は火炎魔法が付与されているようだが、表面で火柱が上がるのみでほとんどダメージはなさそうだ。


「ダメ!硬すぎる!全部弾いてるよ!」


「こっちもダメです!表面を焦がしているだけみたい!」


イザベルとアリシアが櫓の上から訴える。

櫓の上からではどうしても緩い角度がついてしまうか。奴の表面の丸みは天然の傾斜装甲のように働いているようだ。ならば正面からならどうだ。


「突撃する!アイダ!MP5Kでついてこい。イザベル!アリシア!諦めずに撃ち続けろ!」


「了解!」


アイダと2人でグサーノの残骸の間を抜け、巨大芋虫まで50メートルの距離まで近寄る。

食糧庫までは残り80メートル。あと50メートルも進まれれば、グサーノの残骸を喰われてしまう。


「付与する魔法は何でもいい!奴の正面に叩き込め!」


マガジンいっぱいのAT弾に魔力を注ぎ込み、G36Cのトリガーを引く。


貫通・電撃・火炎。これまでに試した攻撃魔法のレパートリー全てを奴の頭部に叩き込むが、それでも前進が止まらない。


「奴の甲羅が削れてはいますが……ダメです。押されています!」


アイダが持つMP5Kから放たれるAT弾も確実に奴の頭部を捉えてはいる。だが止まらない。

AT弾では軽すぎるのか……


「私が回り込みます!カズヤ殿は援護を!」


「わかった。跳弾に気を付けろ!」


走り出すアイダを援護するため、奴の正面に満遍なくAT弾をばら撒く。

ほどなくして奴の左側面からも火柱が上がり始めた。

火柱の位置は徐々に奴の後方へと回り込み、次第に右側面へと移動していく。

どうやら奴の周りを一周して弱点を探しているようだ。

俺も奴の前進に合わせて後退を余儀なくされる。


奴の前進速度は間違いなく遅くなっているが、それでもあと20メートルほどでグサーノの残骸に辿り着かれてしまう。


アイダが息を切らしながら帰ってきた。


「ダメです!一周しましたが硬すぎます!」


奴の弱点が側面でも後方でもないとすれば、残りは上面か腹か。

どうやって攻撃する……俺達も地に潜って地下から攻撃するか。


圧倒的な重量感の戦車にでも出くわした生身の兵士はこんな気持ちになるのだろうか。

バレットM82やPGMへカートⅡのような対物ライフルでもあれば……いや、手持ちのエアガンに頼りきっていた俺が悪いのか。

土魔法で塹壕を掘って、上を通過する奴の腹を攻撃する……リスクが高すぎる。

吸着爆弾を抱えて敵戦車に肉弾戦を挑んだ兵士のような攻撃はできない。


どうする……もっと重量のある獲物で奴の上方から一撃を……


ふと、食糧庫の入口の脇に立て掛けたダミアンの大剣が目に留まる。

重量はおよそ10Kgほどか。とてもではないが俺には振るえない。アイダでも難しいだろう。

だが、その重量があればあるいは……


「ルシア!ダミアンの大剣を固有魔法で持ち上げられるか!?魔力は使い切ってもいい!ここが正念場だ!」


「はい!やってみます!」


ルシアが手に持った杖を振ると、大剣がふわりと宙に浮いた。


「イザベル!ルシアが奴の真上から落とした大剣を俺が加速する!奴の中心部に突き刺すように誘導してくれ!お前の固有魔法ならできるはずだ!」


「了解!やってみる!」


「アリシアはルシアの代わりに光魔法を!アンナはルシアに水を飲ませる準備を頼む!アイダは大剣に貫通魔法を付与してくれ!全員魔力を出し惜しむな!」


「わかりました!光魔法行きます!」


アリシアが放った光魔法が、辺りを照らす。

この攻撃が効かなければ、相打ち覚悟の塹壕作戦しかない。


ルシアが浮かせた大剣は切っ先を下にしてゆっくりと奴の真上に移動した。

地上からはほとんど点でしか見えない。


「地上から約100メートル!限界です!」


ルシアが声を振り絞って伝えてくる。


「わかった!イザベル!準備はいいか!」


「いつでもいいよ!」


「よし、ルシア!落せ!!」

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