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65.徽章と売上金を受領する(5月17日)

カミラさんに渡された巻物に書かれていた内容は、確かにログハウスと俺の処遇についてだった。

この世界の文字にもだいぶ慣れてはきたが、堅苦しい契約書の文言や専門用語などは読めない。

ほとんどアイダに意味を教えてもらいながら読み解いた内容は以下のとおりだ。


1.この家は貸与されたものである。よって養成所の教官を辞める際には返却しなければならない。ただし価値を損なわない改築や改造は好きに行ってよい。


2.教官としての給与は毎月金貨10枚。任務如何に関わらず、自分で得た金銭については養成所は関与しないが、狩りなどで得た魔石や獲物の売却時には極力連絡所か養成所を通すこと。


3.任務以外で3日以上アルカンダラを離れる場合は、行先を養成所に連絡すること。


4.当面の間、任務らしい任務は無い。別途召集するまで、周辺の探索等を行うこと。


ふむ。ログハウスが貸与だった点以外は、概ね校長室で説明されたとおりだ。


「贈与ではなく貸与になった件については、校長先生も申し訳ないと仰られていました。さすがに養成所の施設を一個人に贈与するのは難しかったとのことです」


カミラさんに丁寧に頭を下げられるが、固定給が金貨10枚保障されているし副業も許可されている。家までよこせなどとても言えないだろう。


「その辺りについては不満はないので、よろしくお伝えください」


そうカミラさんに伝えると、ほっとした顔でアリシア達に話し始めた。


「3人にも渡す物があります。こちらです」


またしてもカミラさんが懐から小さな包みを取り出す。

中に入っていたのは、小さな徽章が4つ。黒い2頭の獅子が両側から銀色の盾を支えているものが3つに、同じく黒い獅子が金の盾を支えている意匠のものが1つだ。


「獅子狩人のエンブレマだ!」


イザベルが机の上に身を乗り出して、置かれた徽章を見つめる。


「先を越されているとはねえ。普通のカサドールのエンブレマはこれ」


そう言ってノエさんが自分の徽章を見せてくれた。


「この二本の剣が銀色の盾を支えているものがカサドールのエンブレマだよ。これでも衛兵隊や国軍の小隊長ぐらいの権威はあるのだけれど、これが獅子狩人ともなれば中隊長ぐらい、これが獅子狩人での金の盾ともなると大隊長を越えてくるだろうね。ちなみにカミラ先生のエンブレマは……」


「こちらです。二本の剣が金の盾を支えているエンブレマが教官待遇の狩人の証です。無くさないように気を付けてくださいね。一応公式な場では服に取り付けることになっていますが、探索や戦闘では表に出さなくていいです。特にイザベルさんは見せびらかしたりしないように!」


「ふぁい!」


イザベルが伸ばしかけていた手を慌てて引っ込める。


「ではお配りしますね」


カミラさんが皆に徽章を手渡す。

いの一番に受け取ったイザベルがガッツポーズをする姿を、ビビアナ嬢が何か言いたげに見ている。


「じゃあ次は僕の要件だね。まったく……ベネヒレスからアステドーラに帰る前に、魔石の買い取り金を受け取ろうとナバテヘラに寄ったらお使いを頼まれてね。慌てて後を追いかけたら、今度はオンダロアでもイトー君達の武勇伝を聞かされたよ。ティラボーンを狩ったんだってね。それも2頭も。んで、ナバテヘラの連絡所でも追加のお使いを頼まれたってとこ。これがそれね」


ノエさんが俺達4人にそれぞれ手の平大ほどの羊皮紙を手渡す。

幾つもの欄に分けられた羊皮紙の一番上には、700という数字が書き込まれている。


「アイダちゃん達は知っていると思うけど、これを連絡所に持って行くと、10枚単位で金貨が受け取れる。今はナバテヘラで狩ったバボーサの魔石の売上金と、ティラボーンから得られた金貨の合計値が掛かれているはず。もしかしたら多少は色がついているかもしれないね」


要するに通帳のようなものか。

一人当たり金貨700枚、4人合わせれば2800枚だ。一財産と言ってもいいだろう。


「これで僕の任務は完了。ようやくアステドーラに帰ってゆっくりできるよ。次はビビアナさんの番だね」


ノエさんがビビアナ嬢を促す。

別にアリシア達と仲が良かったわけでもないらしいし、わざわざ風紀委員長殿が何の用事なのだろう。

隣に座るアリシアとアイダもスッと身構える気配が伝わってくる。


「ビビアナ オリバレスと申します。カズヤ殿は初めましてですね。ガルセスさん達は会ったことがあると思います」


ガルセス?って誰だ?

そう思っているとアリシアが口を開いた。


「はい。オリバレス先輩のお噂はかねがね聞き及んでおります。私たちの事も御存じだったとは、光栄です」


ああ。ガルセスはアリシアのファミリーネームだったか。

ビビアナ嬢は軽く頷いて話を続ける。


「私はアルマンソラ東方のカディスという港町周辺の探索の任に就いていました。カディスは先ほどのノエさんのお話にも出てきましたオンダロアと同じく、高い石壁に守られた街なのですが、備えているのは人間の侵攻ではなく魔物です。過去の大襲撃の際にも何度も魔物を退けた強固な壁で守られてはいますが、大樹海にも近いことから定期的な周辺の探索は欠かせません」


ビビアナ嬢は風紀委員長らしく背筋をピンと伸ばしたまま話を続ける。

正式には監察生という身分らしいが、まあ風紀委員長でいいだろう。


「カディスの周辺で探索を進めるうちに、気になる噂を耳にしたのです。“カディスの北東の山中に、魔物の巣窟ができたのではないか。その証拠に北東側からの魔物の目撃情報や被害報告が増えている”というものです。私は現地の衛兵隊と協力して探索に当たるべきか悩みましたが、一旦養成所に戻って応援を連れてくるべきだと判断しました」


「失礼ですが、オリバレス先輩の実力ならば、そう危険は無いのでは?既に幾多の魔物を狩られているとお聞きしていますが」


アイダの疑問も最もだ。アリシアの話ではビビアナ嬢は最上級生で成績も優秀らしい。カサドールになりたてのアイダやアリシアより、よっぽど実戦経験を積んでいるはずだ。


「その魔物というのが……どうやらトローらしいのです」


ガタっと椅子を動かして半ば立ち上がったのはイザベルだ。


「トロー?あのトローの巣窟なの!?」


「目撃情報や被害の痕跡を纏めると、トローとしか思えません。人間の数倍の身体に獣の皮の服、集団で行動すること、何より大鬼では説明できないほどの破壊力。荒らされた家などは、熊にでも襲われたのかと思えるような状況でした」


「トローかあ……嫌だなあ……」


イザベルが頭を抱える。アリシアとアイダも天井を見上げて溜息をつく。


「なあ、そのトローって魔物はそんなに嫌な相手なのか?」


思わず3人に聞くが、その瞬間にイザベルが激しく顔を上げる。


「あったりまえじゃん!奴らには矢が通らない。でっかいくせに動きは速いし、いつも群れで動いている。前に遠距離修練で出くわしたけど、逃げるのが精いっぱいだった……」


「イザベルちゃんのいうとおりです。群れを壊滅させるには、熟練のカサドールが中隊規模で必要だと聞きます」


「そのトローの巣窟ともなると……いったい何人のカサドールを送り込めばいいのか、見当もつきません。衛兵隊では歯が立たないでしょう」


この2人がそういうのなら、よっぽど恐ろしい魔物なのだろう。


「それで、オリバレス殿が俺達に会いに来られた理由は……?」


「はい。この事を校長先生にご報告差し上げた際に、カズヤ殿の御評判をお聞きしました。ノエさんにも勧められましたし、カズヤ殿にはカディス北東の探索を手伝っていただきたいのです。もちろん少壮気鋭の獅子狩人になった御三方にもです」


やっぱりそう来たか……途中から薄々感づいてはいたが。


「ちなみに、この件についての校長の伝言です。“赴くか否かはカズヤ君に任せます。ただ、トローは貴金属を好んで身に着けるので、トローが身に着けた耳輪や鼻輪を集めるだけでも一財産できますよ”との事です」


カミラさんがにっこり笑って伝えてくれた伝言は、俺の心はともかくイザベルを勇気づける原動力にはなったようだ。


「よし分かった!その依頼引き受けよう!」


ガタッと丸太の椅子を再び鳴らして立ち上がったイザベルに、アリシアとアイダがもう一度溜息をついた。


「ちょっとイザベルちゃん。そんなに安請け合いしていいの?相手はトローだよ?巨人だよ?」


「大丈夫だって!私達は獅子狩人だよ!このエンブレマに誓って、任務を全うするって!」


「さっき矢が通らないとか言ってなかったか?」


「嫌だなあアイダちゃん。あれは昔の話。今はエアガンとお兄ちゃんがいるじゃん!それに、あのビビアナ オリバレスが頭を下げてるんだよ。屈服させるいい機会じゃん!?」


あのなあ……そういう事は本人がいない時に言えよ。ビビアナ嬢とノエさんが苦笑いしているぞ。





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