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64.校長先生からの使者(5月17日)

家に戻った俺達は、アリシアとイザベルに状況を報告する。

イザベルが弓矢をリュックから引きずり出して階段を駆け上がった。


アイダは1階のドアと窓を全て閉め、内側から閂を掛ける。

真っ暗になる前にアリシアが光魔法で壁に掛かるランタンを点灯させた。


その間に俺は森の切れ目から10メートルほど内側に風魔法による結界防壁を薄く張る。


「じゃあ私も2階に上がります」


「ああ。アイダなら大丈夫だと思うが、イザベルを暴走させないように頼む」


「了解です。あの子も事の分別はちゃんとつく子ですから」


日本には内弁慶という言葉があるが、イザベルの場合は気を許せる相手しかいないか、自分にとって興味がない相手しか他にいない場合のみ堂々と自分の欲求を主張しているだけだ。それ自体は何ら悪いことではないが、その姿を他人に見られると少々恥ずかしい。


「私は小屋自体に結界を張りますね!」


アリシアがリビング中央の柱に手を触れ何やら呟く。


Todos somos madre. La cosa más antigua del mundo. Gaia que dio a luz a todo lo que vivió aquí. Te alabo Por favor escucha mi deseo. Paredes sólidas fuera del edificio!


んあ?全然理解できないが、ガイアと言ったか?

ガイアと言えば地母神だったような……

と、柱から天井と床を伝って淡い光が走る。


「もう大丈夫です。大鬼が全力で壁を殴ってもビクともしませんよ!」


アリシアは結界と表現したが、建物全体を硬化させる魔法のようだ。


「今の魔法ってどんな内容だったんだ?詠唱が全然聞き取れなかった」


「えっと……大地の神ガイアに祈りを捧げて、小屋の外壁をアルカンダラの石壁ぐらいに硬くしました!」


やっぱりそうか。詠唱に多少時間は掛かるが、ちょっとやそっとじゃ壊れなくなる魔法というのは応用範囲が広そうだ。


「見えたよ!あれは……ノエさん?それと……カミラ先生だ。あとは……げ……」


イザベルの声が止まる。

“げ”って何だ?まさか人の名前じゃないよな。


「アイダちゃん!イザベルちゃん!誰が来たの?」


痺れを切らしたのか、アリシアが階段を半分ほど登って階上の二人に尋ねる。


「ビビアナ オリバレス殿……監察生殿だ……」


アイダの答える声にも張りがない。カンサツセイ?また聞きなれない言葉だが、何かの役職か?


階段を下りてきたアリシアも、少し暗い顔をしている。


「なあ。カンサツセイってのは何だ?」


「えっと……養成所の学生の模範となる人というか、風紀の乱れを取り締まったり指導をする方です。養成所の最終学年の成績優秀な方が就任されることになっています」


要は生徒会と風紀委員会を足したようなものか。

それはどう考えてもイザベルと相性が悪そうだ。


「イトー君!いるんだろ?入れてくれよう!!」


ノエさんの声が遠くで聞こえる。

そうか、結界を張っているから入れないのか。


「アイダ、イザベル。お客さんを迎えに出るから、降りておいで」


「ふぁ〜い……」


すぐに階段を降りてきたアイダと対照的に、イザベルの足取りは重い。


「アリシア。その監察生殿とイザベルは何かあったのか?」


「いえ、特には何も……単に苦手というか関わりたくないだけだと思いますけど…」


こっ酷く怒られたとか、肉体的な苦痛を与えられたとかいうわけではないようだ。だったら会わせても大丈夫だろうか。


「アリシアとアイダは監察生殿と会っても平気か?」


「そう…ですね。友達付き合いをしたい人ではありませんが、別に…ねえ?」


「はい…ちょっと関わりたくない先輩ですが、特に問題ありません」


この3人の反応は何だろう。扉を開けるのが怖くなってきた。


◇◇◇


「よし!黙ってるのは私らしくない!行くよ!お兄ちゃん魔法解除して!!」


イザベルが意を決して、頬を軽く叩いてから扉を開ける。


10メートルほど先に見えたのは、栗毛の馬に悠然と騎乗するノエさん、その隣には養成所の制服に身を包み長い金髪を風に揺らす長身の美女、そして馬から降りて結界に取り付いているカミラ先生の姿だった。


取り付いているというか、見えないフェンスをよじ登ろうとしているようにも見える。


「あの……何してるんですかカミラさん?」


「見てわからない!?防壁が築かれているから、登ってそっちに行こうとしてるの!」


「いや……その壁に終わりはないですよ?それに、その姿は少々目に毒というか……」


「は?カズヤ君は何を言っているの?」


どうやら無自覚らしい。

目に毒とか言いながら俺の目にはしっかり焼き付いている姿、それは網目から飛び出した、服越しでもはっきり分かる2つの大きな膨らみだった。


「え……何……って!!」


カミラさんはパッと防壁から離れて、服の合わせを整える。


「み……見ましたか?見ましたよね!?」


「いえ……特に何も……」


「絶対見た反応じゃないですか!?」


カミラさんが顔を真っ赤にして地団駄を踏む。


「カミラ先生?先生ぐらいの大きさの胸なら、アリシアちゃんが毎日見せつけているから平気だって!ねえアリシアちゃん!」


イザベルの声を聞いて、ビビアナ嬢の目がキラリと光る。


「ちょっとイザベルちゃん!いきなり何言うの!それに見せつけてなんかないからね!?」


「そんな事言っても、事あるごとにお兄ちゃんの腕を挟んだり、背中に押し付けたりしてるじゃん!お兄ちゃんもいい加減耐性付いたよね!」


そう言いながら、イザベルはチラチラとビビアナ嬢の様子を伺っている。

ははあ……イザベルの突然の参戦はビビアナ嬢への挑発のようだ。


「とりあえず結界を解きますね。カミラさん。この魔法は天頂方向から周囲に網を被せているんです。壁じゃないので終わりは無いですし、そのまま登っていっても反対側の地面に降り立つだけですよ」


俺は手をパンと叩き、結界防壁を解除する。

もともと腕ぐらいなら通ってしまうほど、粗い防壁だ。その代わり局所的ではなくエリア全体を覆う結界になっている。蚊帳とか蠅帳みたいな物だが、蠅帳などとは最近言わないのか。食卓カバーと言えば通じるか。


「結界って、さっきの防壁の事よね?天頂方向から網状にってことは、この辺り一帯に球状防壁を張っていたってこと?」


カミラさんが結界に食い付いてくる。


「立ち話もなんですから、家の中に入りませんか?さっき到着したばかりで、調度品も何もありませんが」


「じゃあ遠慮なくお邪魔しようかな。カミラ先生もオリバレスさんも、それでいいよね?」


ノエさんが一同を卒なく纏めてくれたおかげで、これ以上立ち話をすることもなく、リビングに場所を移す事ができた。


◇◇◇


「さて、どういったご用件でしょう。カミラさんは校長先生のお使いですよね」


そう切り出すと、カミラさんは大きく頷いて懐から巻物を取り出した。


「ちっ。どこに入れてんのよ……」


呪詛のような呟きが俺の隣から聞こえてくるが、聞かなかった事にしよう。


「こちらが預かってきた書類です。一枚が教官の任命状、もう一枚がこの土地の権利書だと聞いています」


受け取った巻物には、表側に赤い封蝋が垂らしてあり、何やら刻印が押してある。


「カズヤ殿。その刻印に触れてください」


アイダの勧めに従って、封蝋に押された刻印に触れる。

触れた瞬間、封蝋がパカっと割れた。


「機密を守るための魔法です。製作者が設定した人にしか、この封印は解除できません。無理矢理開封すると封蝋が壊れてしまって、開封された事が分かります」


なるほど。生体認証的な魔法か。

指紋か魔力紋か知らないが、なんらかの方法で個人を特定する術があるようだ。

設定された以外の人間が何らかの理由で開封してしまった時に自動消滅したり一瞬で燃え上がったりしないのは、良心的なのかあるいは魔法の限界なのか。

燃え上がるように出来れば、遠隔発火なんてトラップも可能だろうか。


そんな事よりも、重要なのは書類に書かれている内容だ。

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