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63.森の猟師小屋(5月17日)

今日は一旦アルカンダラに戻ってから、北東にあるという森の中の猟師小屋に向かう。


アイダの固有魔法である譲渡と、アリシアの固有魔法の遠見の相乗効果を試してみようとイザベルが主張したが、俺が土地勘を覚えたいという理由でアルカンダラからの徒歩を選択した。


「だってさあ!楽できるんなら、楽してもいいじゃん!何のために辛い修練に耐えたと思ってんの!?」


「試した事もない魔法には事故が付き物だって、学校で習っただろ!」


「何でも初めてはあるじゃん!アイダちゃんだって初めて火魔法使った時は失敗もしたでしょ!?」


歩きながらもイザベルとアイダの言い合いは続いている。だが別に深刻なものではなさそうだ。あれはあれで戯れているようなものなんだろう。


養成所から与えられた(供与なのか譲渡なのかは未だ不明だ。正確なところは書類を受け取ってからだろう)森の猟師小屋は、アルカンダラの養成所から徒歩で30分弱の場所にあった。


広葉樹の森が直径50メートルほど切り開かれ、中央部より南側に石組みの井戸がある。円の中心から北の方角を12時とすれば、11時から13時の位置にログハウス調の家が建っていた。

皆が小屋と言うものだから、掘立小屋のようなものを想像していたが、三角屋根の立派なログハウスだ。


「中に入ると驚くよ!」


イザベルとアリシアに手を引かれて、ログハウスの南西の角に位置する外開きの大きなドアを通る。

アリシアが手早く窓を開けてくれたおかげで、室内が見えるようになった。


足元には突き当りまで土間が伸び、左手側は丸太の壁、右側は一段上がってリビングのようなスペースがあり、机と丸太の椅子が置かれている。広さは20畳ほどだろうか。

リビングの東側の壁には大きな煉瓦造りの暖炉があり、屋根まで煙突が伸びている。煙道を使って家全体を暖める作りのようだ。

採光用に壁にはいくつもの窓が作られているが、当然ガラスのようなものはなく、全て外開きの鎧戸が付けられている。

リビングの奥に階段が、更に奥に1部屋、土間の突き当りにも小部屋が2つある。奥の部屋は書斎というか執務室のようだ。

土間の奥にある小部屋のうち、1つはトイレだった。いわゆるポットン式で、床下に壺があり外から引き出せるらしい。もう1つの小部屋は倉庫のようだ。箒やバケツなどが放り込まれている。

リビングの端にある階段を登ると、1階部分の天井裏を区切って部屋が4つある。当然天井は低いが、入口から頭をぶつけるほどではない。イザベル達なら中間ほどまでは余裕を持って歩けるだろう。

各部屋にはベッドと小さな机が備わっている。


猟師小屋というよりも、街の小さな宿屋のようだ。


「なあ、本当にここって使われなくなった猟師小屋なのか?」


案内してくれているイザベルに尋ねる。

校長室では確かに放棄された猟師小屋だのお化け屋敷だの言っていたから、朽ちかけた掘立小屋を想像していたのだ。


「そうだよ!まあ“元”猟師小屋だけどね。学校が周囲の敷地ごと演習場にした時に改築したらしいよ!」


「改築?何のために??」


「さあ?でも私達も泊まったことあるし、狩りや訓練の間にも休憩に来てたから、学校の施設だったのは間違いないけど」


公式には、あるいは書類上はあくまでも猟師小屋ということなのだろう。

まさか石造りの建物以外は“小屋”と呼ぶのではあるまい。

税金対策だろうか。しかし、この国の税制度がどのようになっているかなど貴族や為政者を目指すわけでもないのだから興味もないし、日本人としてはログハウスとはいえ木の温もりに包まれるのは大歓迎だ。


1階に戻ると、窓という窓が全て開けられ、アリシアが雑巾付きのバケツを2つ小部屋から持ち出してきたところだった。


「しばらくは誰も使っていなかったようですね。大掃除したいので、カズヤさんは外回りの確認をお願いします。アイダちゃんが井戸を見ているはずなので。イザベルちゃんは2階の窓を開けて、2階から拭き掃除をお願いね!」


アリシアが水魔法でバケツに水を注ぎながら指示する。


「わかった!」


イザベルはバケツと雑巾を受け取ると、元気よく階段を駆け上がっていった。

頼むから転ぶなよ……


とりあえずアイダの元へ向かう。

アイダは井戸の上に据え付けられた釣瓶を使って、水を汲み上げていた。


「アイダ?どうだ?」


「カズヤ殿。特に滑車や縄には異常はないようです。水質にも問題ありません」


井戸を覗き込んでも水面は見えない。かなり深い井戸のようだ。


「他の2人は?」


「アリシアとイザベルは室内の掃除を始めている。俺はアイダの手伝いをしてくれって」


「アリシアがやっているのなら、任せたほうがいいでしょう。じゃあ床下の点検を手伝っていただけますか?」


「わかった。そういえばイザベルがこの家の事を“お化け屋敷”と呼んでいたが、やっぱりその……出るのか?」


アイダと連れ添ってログハウスに向かいながら、先程気になった事を聞いてみる。


「私は見た事はありませんが、先輩達が泊まっていた時に怪奇現象に遭遇したそうです。お化けというよりも精神魔法を使う魔族か魔人の類いではないかとの意見もありました」


「モンロイ師も俺を魔族か魔人かと疑っていたが、魔物とは違うのか?」


「えっと……魔物は獣型をしていますが、魔族は人型です。見た目は人間と変わらない者達を魔人と呼び、亜人、例えば狼人族や兎人族、鳥人族などを総称して魔族と呼んでいます」


人非る者達か。蜥蜴人族がいるとは船上で聞いたから、もしかしたらとは思っていたが、いわゆる獣人が存在するらしい。


「しかし、いわゆる獣人の類いが魔族なら、どうして俺を魔族だと思ったんだろう?別に獣耳や尻尾が付いているわけでもないが……」


「長いマントやフードを被れば隠せますから。それに魔族の一部は人間に化けることが出来るらしいのです。講義の中では“精神魔法と結界魔法を組み合わせて、自分の姿を変えてしまう”と教わりました」


変身魔法のような物だろうか。


ログハウスの軒下に潜り込むと、改築の意味がわかった。リビングと外周の柱を支える基礎石のみが新しい。

恐らく元々あった猟師小屋は、書斎の場所と小部屋が2つのみだったのだ。入口は現在裏口となっている小部屋と書斎の間の扉だったか。

床下の地面や柱は乾いており、シロアリに喰われたような痕もない。


「特に痛んでいる場所はなさそうだな」


「そうですね。あとは……」


アイダと一緒に軒下から這い出して、辺りを見渡す。

森の中ではあるが、見通しが悪いわけではない。


「ん?何か……」


手をついた地面から何かを感じ取ったアイダが、地に伏せて、耳を地面に押し当てる。

慌てて俺も周囲にスキャンを掛けた。


「これは……馬?複数の騎馬が近づいています」


「ああ。俺の探知にも引っかかった。3騎だな。駆けているわけではなさそうだ」


俺のスキャン範囲は直線距離で約300メートルほど。森の中の曲がりくねった道を進んでくるから、並足の馬なら5分ぐらいはかかるだろう。


「アルカンダラの方角からですね。一昨日校長先生が言っていた書類を持参した使いの者か、学生の誰かでしょうか」


「たぶんな。まさか真っ昼間から盗賊が襲ってくるとも思えないが、用心しておくに越した事はない。アリシアと手分けして結界魔法を張る。アイダはイザベルと2階から監視を頼む」


「了解です。とりあえず家に戻りましょう」

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