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61.魔核・魔石とは何か②(5月15日)

結局、脱線を繰り返しながらも俺が知りたかった情報は教えてもらえたから良しとしよう。

途中俺が魔石について教えてもらっているのか、俺が基礎科学(というか理科に近いかもしれないが)を話しているのか分からない状態にもなったが、逆にこの世界の科学知識というものがよくわかった。


魔石とは結晶化した魔素そのものだ。

その魔石が持つ魔力を使って魔法を発現させるのが魔道具で、魔石を使う事で魔力が弱い人でも魔法を行使できるようになる。

もっとも、魔石の大きさによって発現できる魔法の大きさが決まってしまうため、一般的には街灯や家の照明、料理に使うコンロや台所の水瓶ぐらいにしか使われていない。

魔石の大きさが手のひらサイズになると、民生用なら城門の開閉や帆船の緊急動力に、軍事用には強力な魔法投射にも使用されるらしい。

ちなみに大きすぎる魔石は割って使うこともできるようだ。


魔石には様々な色があるが、数が多いのが黒・青・赤の順で、黄色は希少価値が高いらしい。黄色の魔石が採取できる犬系統の魔物を狩る難易度が高いという事に加え、例えば一角オオカミでも黒い魔石を持っている事があるからというのがその理由だ。

一方で水棲種の魔物はほぼ確実に青い魔石を体内に宿している。


魔石の色の違いによって様々な使い方があるが、やはり青い魔石は水を生み、赤い魔石は火を、黄色の魔石は光を生み出す魔法に使われる。

黒い魔石は汎用だが、それぞれの色の魔石と同じ魔法式では使えず、別途専用の魔法式が必要になる。そのため取引価格が少し下がる。


この魔法式だが、当然この世界の言語で書かれているのかと思っていたがそうではなく、魔法言語と呼ばれる専用の文字で描かれている。魔法師や魔導師はこの言語を覚えるのが一苦労らしい。一方で詠唱そのものはこの世界の日常的に使われている言語で唱えられている。


「これは仮説なのだが、魔道具を最初に開発した者が魔道具専用の言語を作ったのではないだろうか。魔法師や魔導師になるためには訓練や修行が必要だが、魔道具を使うだけならばそんな苦労は不要だ。己の持っている僅かな魔力を込めるだけで発動できてしまうからな。だから乱用や乱造を防ぐために、専門の知識がないと魔道具の製造を不可能にした。それが魔法言語ではないかと考えている」


これは長さ15センチほどの長方形の板にさらさらと魔法式を書いているカミラさんの意見だ。串団子のように複数の円が組み合わさった意匠になっている。

カミラさんが書き終えたらしく、中心にBB弾ほどの黒い魔石を嵌め込み俺を呼ぶ。


「カズヤ君、これが薪の焚き付けなどに使う火の魔道具。使用する時には木片の片方に掛かれた丸い円の中に親指を置き、少量の魔力を流す。すると、反対側の円の中から火が立ち上る」


手渡された木の板に描かれた意匠は相当崩れてはいるが、アルファベットのように見えなくもない。

アルファベットだとしたら、そこに書かれている文字はこんな感じだ。


Release magical power and light a small flame for three seconds.


まんま英語じゃないか?


「カミラさん。ここに書いてある文章というか魔法式って、何と書かれてあるんですか?」


「ん?魔法式の意味?言葉にすればこんな感じ。“Una piedra magica. Libera poder mágico y enciende una pequeña llama durante Tres segundos.”意味は‟魔石よ!小さき炎を発せよ!”ってところ。まあ魔道具製作で最も重要なことは、作りたい魔道具によってどんな魔法がどのように発現するかを思い浮かべながら、魔法式に魔力を込めること。少々綴りが間違っていても、問題なく発動するものよ」


ほほう……やはり魔法式は英語またはそれに近い文法と綴りを持つ言語で表されるようだ。だがそれ以上に重要なことが判明した。魔法式を表現するのには、必ずしも正確な魔法言語が必要でもないのかもしれない。要は詠唱を文字として閉じ込めているだけなのだろう。であれば、魔法式を用いた魔道具も様々な種類が作れそうだ。


さて、透明の魔石には2種類ある。元々は色付きの魔石だった物が魔力を放出し尽くして色を失った物と、採取された時から透き通った透明な物だ。どちらも魔力を込めればその魔力を貯め込む事が出来る。魔力を放出して透明になった魔石は、再び魔力を蓄えることで元来の色を取り戻すらしい。

一方で、元々透明な状態で産出した魔石は、周辺から魔素を取り込み長期間に渡って魔力を放出できる。

見分け方は魔力を込めて色が変わるか否かだ。


肝心の魔核についてだが、これがどうにも説明が曖昧だ。

魔物が多く住み発生する洞窟や谷底・水底に存在し、この魔核を浄化すれば少なくとも辺り一帯での魔物の被害は少なくなる。

どうやら魔核には地中にある魔力の流れを吸い取って、周囲に魔素を撒き散らす効果があるようだ。

そのため、魔核からは高純度の魔力が放出されており、この純度の高い魔力を中和して,あるいは希釈して人間が触れる程度にする工程を“浄化”と読んでいる。つまり純度を下げているのだ。この工程を“邪悪な魔力を浄化する”と思い込んでいるからややこしい。

この“浄化”の工程を経なくても、例えば分厚い防水布で覆うとか、乾燥した木の棒で挟んで掴むなどすれば、一応安全に取り扱うことはできるようだ。

つまりは高電圧の蓄電池のような物だな。


そう考えれば、俺が触ると黒い魔核が透明になってしまったのもまあ理解は出来る。

要は蓄えていた電力を低電位になった俺に移してしまったのだ。

もしかしたら、魔力とは電気と同じような性質を持っているのかもしれない。


一方で、未だ解明されていない謎もある。

先程魔力量を測定した直後に感じた目眩や脱力感が、既に解消している事だ。

イザベルやアリシアによれば、一度魔力を大量に放出すると、回復するまでにそれなりの、元々の保有量にもよるが数時間から数日の時間が掛かるらしい。

だが、俺の目眩などの違和感は数分で収まっていた。

その間に魔石や魔核から魔力を補給したわけではない。

魔力残量の限界が来る前に測定を止めたか、大気中に漂うらしい魔素を高効率で取り込む体質なのか、あるいはその両方か。



何はともあれ、ゴブリンや洞窟からの回収品のうち、黒、赤、青の石はやはり魔石だった。緑や紫の石は貴石、白い石はただの石英、透明な石は水晶と魔力を放出しきった魔石らしい。牙や角、首飾りもまとめて道具屋に持って行けば、それなりの値がつくようだ。


武器や防具は中庭でバルトロメさんが見てくれた。柄や防具の裏に彫り込まれた銘から持ち主が分かるものは、養成所経由で持ち主か遺族に返還か売却できるとのことなので、そのままバルトロメさんに手配をお願いする。

一方で持ち主が判明しなさそうな物については、武器屋への売却を勧められた。


「養成所で引き取ってもいいが、何せ量が量だからな。アルカンダラにも武器屋は数軒あるし、数振りずつ売っていけばいい。顔繫ぎにもなるし、人脈は大事だ」


先輩のアドバイスだ。この先、安定した収入があるかは分からないし、収納魔法を使えば邪魔にもならない。貴重な資金源として活用しよう。


なんだかんだで昼食を挟んで丸一日モンロイ師達に付き合わされた俺達は、夕方になってようやく解放されて養成所を後にした。

何だか酷く疲れた。さっさと家に帰ろう。


◇◇◇


当然のように3人の娘達、アリシアとアイダ、イザベルも付いてきてくれている。

俺を養成所の門の所で待たせて、一旦自分達の部屋に戻っていたから、何やらお泊まりセットなどは持ってきているのかもしれない。


「さっ!私達の家に帰ろうか!お兄ちゃん!」


イザベルが俺の右腕に絡み付きながら引っ張る。


「ちょっとイザベルちゃん!カズヤさんに迷惑でしょ!?離れて!」


アリシアが俺の左腕を引っ張る。

この2人はさっきまで借りてきた猫のように大人しくしていたが、ようやく本調子に戻ったようだ。


少し先を歩いていたアイダが、人通りの少ない路地を指差す。


「あの辺りとかどうです?」


「そうだな。転移魔法を使うから、アイダとアリシアは周囲の確認を頼む」


「了解です。ちょうど人の流れが途切れますよ!」


辺りに人が居なくなったのを確認して、転移魔法を行使する。誰かに目撃されても少しでも違和感が少ないように、壁に向かってドアノブをイメージして扉を開ける。

その先に広がるのは、今朝ぶりの我が家の庭だ。


イザベル・アリシア・アイダの順に扉を通り、最後に俺も扉を抜ける。


◇◇◇


「ふああ……やっぱりお家が一番だね!」


風呂から上がった俺の耳に飛び込んできたのは、海外旅行から帰ってきた日本人のような声を上げたイザベルの声だった。

俺のベッドに堂々と大の字になり、枕なんぞ抱き締めている。

アリシアとアイダはベッドの脇にあるテーブルの前にちょこんと座り、雑誌や漫画を眺めている。

3人とも夕食と風呂を済ませ、髪も乾かして、就寝前の寛いだ時間のようだ。


「カズヤ殿。このザッシという書物に書かれている文字は、カズヤ殿のお国の文字なのですよね?何と書かれているのですか?」


アイダが指差したのは、サバイバルゲームのとある月刊誌だ。


「ん?ここか?“基本編 ハンドガンの構え方”だな」


「なんだか不思議な文字ですね。私達の使う文字に比べてすごく細かいです……ハンドガンとはカズヤ殿から借りている銀ダンのことですか?」


「ああ。グリップの握り方とか狙いの付け方とか、だいたい3人とも出来ていると思うが?」


「それにしても、すごく綺麗な絵ですよね。こっちの小さい本もほとんどが絵だから、なんとなく内容がわかるけど、とにかく絵がすごく綺麗!」


「ん?絵?どんな??」


イザベルがもぞもぞと起き出して、アイダの隣に積まれた雑誌を一冊手に取る。


「お兄ちゃん!これスープだよね!?美味しそう!!」


イザベルが開いたのは、アウトドア雑誌の料理コーナー。写真に写っているのは、小さな焚火に掛けられたダッチオーブンと、その中で湯気を上げている甲州名物の「ほうとう」だった。


「うわっ!ほんとだ!ねえねえカズヤさん!この料理って作れますか?私も手伝うので……」


2人前一食分ぐらいはスープと乾麺のセットがあったと思うが、食べ盛りのこの子達では腹の足しにもならないだろう。冷凍うどんと出汁の素、味噌で作ればいいか。小麦粉は手に入るようだし、気に入ればまた作ればいい。


「わかった。じゃあ明日稲刈りを頑張った子へのご褒美な。今日はもう遅いから、片付けて寝ろ」


「は~い。じゃあ片付けて寝よう!」

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