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57.先生達に話す(5月15日)

イザベルが泣き止んだ頃に、お盆を持ったダナさんがバルトロメさんと一緒に戻ってきた。

直ぐに男性と女性が入室してくる。

見事に頭頂部が光り輝く男性が、アイダ達が話していたモンロイ師だろう。

女性のほうがカミラさんか。


お茶を配り終えたダナさんとバルトロメさんも席に着く。

校長先生が上座に座り、先生達と俺達は左右に別れて座ったから、ちょうど4対4だ。


「さて、皆さん揃われたので、まずは自己紹介といたしましょう。まずはモンロイから」


「はい。ここで魔法実技を教えております、ダニエル モンロイと申します」


「モンロイ師はこう見えて攻撃魔法、特に火系統と土系統に造詣が深いのです。一方で治癒魔法は少し苦手……なのでしたっけ?」


校長先生の紹介を聞いて、イザベルとアリシアが吹き出す。


「校長……そのネタは勘弁してください。寄る年波には勝てんものなのです」


禿げ上がった頭を自らペチペチと叩きながら抗議するモンロイさんをスルーして、校長先生が続ける。


「次はカミラね」


「イネス カミラです。魔導師です。主に魔道具の開発と製作を指導しています。ここにいる子達の指導を受け持ったことはない……と思うのだけれど、違ったかしら?」


カミラさんは20代後半の真っ黒な髪の女性だ。白い肌に細い顎、切れ長の瞳でアリシア達を見る。


「いえ、お姿は拝見していましたが、直接指導いただいたことはありません。私達は魔法師と戦闘職専攻なので」


アリシアが3人を代表して答える。


「そう。特にそこの男の子は一度担当してみたいわ。何でも誰も見た事のない魔道具を持っているそうじゃない」


あ……はい。エアガンのことですね。

しかし一体どういう報告というか連絡が行っているのだろう。


「じゃあ、次はバルトロメ」


「儂か。今更という気もするが……寮監をやっておるバルトロメ アロンソだ。若い頃はカサドールとして、ダナと一緒に魔物を狩っておった。その経験を生かして、今は養成所の防衛隊長をやっておる」


やっぱりこのおじさんも狩人だったか。まあこの体躯と雰囲気でただの一般人なわけがない。


「ダナ アブレゴです。こちらのバルトロメとは夫婦で寮の管理や学生達の悩み相談のようなものを受けています。先生達の悪口をみんなから聞くのも楽しみの一つです」


ぎょっとした顔でモンロイ師がダナさんの顔を見る。


「悪口?そんなことを吹聴している学生がいるのですか?」


「まあみんな子供ですからね。多少のことは大目に見て上げてくださいな。私達から見れば息子や娘、もしかしたら孫みたいなものですよ」


「しかし……」


「そういう愚痴も大事な意見ですよ。人の噂は我が振りを治すいい薬です」


「まあ……ダナさんがそう仰るなら……」


どうやらダナさんは影の実力者のようだ。雰囲気的には長老といったところか。



「では、いよいよ皆さんお待ちかねのカズヤ君の番ね。アリシア達はみんな知っているでしょうし、今ここで私達5人が何も知らないのは貴方だけ。一応、各街の連絡所からの急使や伝令は来たけれど、是非貴方の口から何がどうなっているのかを聞かせて欲しいわ」


何がどうなっているのか。知りたいのは俺自身なのだが。

しかしここで誤魔化したり隠したりしても仕方ないだろう。俺はいいとしてもアリシア達の立場が危うくなるようなことは避けたい。

俺は初めから正直に包み隠さず話すことにした。


この地にやってきたきっかけだろう霧について

自宅に押し寄せてきた小鬼を狩ったこと

周囲を探索しているうちに、小鬼の発生源と思われる洞窟を発見したこと

その洞窟でアリシアとアイダ、イザベルを救出したこと

遺品を回収し、その遺品を携えてアルカンダラを目指したこと

アステドーラで少年を人攫いから救出したこと

道中でアリシア達と協力して小鬼や大鬼、一角オオカミやマンティコレ、バボーサやティボラーンを狩ったこと


「マンティコレだと!?あのサソリの尾を持つ真っ黒な獅子を倒したのか!?」


「そんな報告は受けていないぞ……それは本当か?」


バルトロメさんとモンロイ師が詰め寄ってくる。

詰め寄ってくるのはマンティコレを倒したことについてなのか?他にもツッコミどころはあるだろう。例えば俺がどうやら異世界人だという事についてとか……。


「本当だよ?私とお兄ちゃん、アイダちゃんの3人で1頭ずつ倒したよ!」


「私だって先にエアガンを借りていれば活躍できたんだから!!」


「え……アリシアちゃんエアガン借りてたじゃん。でもイザという時に固まってなかったっけ?」


「だって仕方ないじゃない!初めてだったし……」


借りてきた猫のように大人しくなっていたイザベルとアリシアが突然息を吹き返したかのように漫才を始めた。

どうやら俺が異世界人らしいということは華麗にスルーする気のようだ。あるいは珍しくもないのか。


「おほん!つまり、マンティコレを狩ったというのは事実なのだな?」


モンロイ師が再度確認してくる。


「もちろん!3頭とも回収して来てるから、お見せしましょうか?」


「回収?マンティコレは最も小さい個体でも体長2メートルは下るまい。その巨体をどうやって?しかも先ほどの話ではマンティコレを狩ったのはエルレエラからアステドーラに向かう途中だろう?そんな所からどうやって運び込んだというのかね?」


「大方尻尾の先の毒針だけ抜いてきたのではないか?それなら持ち運びも可能だし価値もそれなりにある。毛皮ほどではないがな」


「確かに。いや、それならたまたま死んでいるのを拾ったり、買ったりしたのかもしれん」


モンロイ師とバルトロメ寮監が何やら変な方向に納得しつつある。



「もう!こうなったら実物を見せちゃうしかないね!いいよねお兄ちゃん?」


「カズヤさん。実物を見せるということは、あの魔法も見せちゃうってことになりますけど……いいですか?」


俺の両隣に座るイザベルとアリシアが同意を求めてくる。

あの魔法とは収納魔法のことだろう。このままでは収まらないだろうし、収納魔法もいつかはバレる。それなら最初に度肝を抜いたほうがいい。


「わかった。ただこの部屋でマンティコレを取り出すのはお勧めしないぞ?」


「わかってるって!校長先生!中庭を使ってもいいですか?」


「中庭?構わないわよ。じゃあみんなで移動しましょう!」


校長先生に促され、皆でぞろぞろと中庭に移動する。


◇◇◇


「この辺でいいかな?」


イザベルが足を止めたのは、縦横が5メートルぐらいに整地された石畳の場所だった。周囲にベンチが配置されているから、中庭でも懇談するような場所なのだろう。


「じゃあアリシアちゃんも手伝ってね。アイダちゃん麻袋をお兄ちゃんに渡して!」


アイダは背負っていたリュックから、折り畳まれたままの麻袋を取り出して俺に渡してくる。

一人一頭ずつ取り出すのだろう。俺は麻袋の口を開け、開口部をイザベルに差し出した。


「最初は私から!よいしょっと!!」


イザベルが両手を袋の中に突っ込み、真っ黒な猫の足のようなものを掴み出した。


「お兄ちゃんそのまま下がって!」


イザベルに言われるまま、麻袋の口を下に向けて後ずさりする。

麻袋の中からずるずるとマンティコレが姿を表した。

胸部にはイザベルの放った矢が突き刺さったままだ。


「次は私ね!」


今度はアリシアがマンティコレを引きずり出す。

次に出てきたのは、コメカミに風穴が開いた個体。俺がエアガンで倒したやつだ。


「最後は私が倒したヤツだな!」


アイダが取り出したのは、首を下からザックリと断たれた個体だ。

真っ黒な獅子が3頭並ぶ光景に、校長先生を含めた5人が絶句している。


「これは……これは正しくマンティコレだ。しかも大きい……」


「あの袋から取り出したのか……まさか収納魔法……この者達が収納魔法を使えるとは聞いていないぞ……」


「この傷は……胸の辺りに矢傷が集中してるけど、致命傷は心臓の位置を貫いたこの一矢ね。こっちの個体は検死するまでもなく喉を剣で貫かれたのが死因だわ。もう一頭は……側頭部以外に傷跡がないわ。この傷が致命傷?でもどうやって……」


バルトロメ寮監とモンロイ師が固まっている中、マンティコレの遺骸に近づき手早く確認しているのは校長先生とカミラさんだ。


「先程の話ではマンティコレを狩ったのは2週間近く前よね。にも関わらず遺骸は腐っていない。むしろ死後硬直さえ始まっていないように思えるわ。やはりその袋に収納された時点で時間が止まっている……とすれば、収納魔法と考えるべきでしょうね」


「私はこの側頭部の傷をどうやって付けたのかが気になります。これはカズヤ君の魔法ですか?そうですよね?そうなんですよね!?」


カミラさんの圧がすごい。思わず後ずさりしてしまう。


「矢の突き刺さり方も貫通魔法を付与しているようですが……この頭の傷も貫通魔法を付与した礫なのでは?その礫を射出するのが、カズヤ君の持つ魔道具、“えあがん”という名前でしたっけ?その効果なのではないですか?」


流石は校長先生。鋭い。

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