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55.再会(5月15日)

眼が覚めると自宅のベッドの上だった。

見慣れていた天井の白い壁紙が少し眩しい。

半ば無意識に両隣にいるはずの誰かの頭を撫でようとする。

誰もいるはずもないのだ。昨夜アルカンダラで別れたばかりだ。


眼がしっかりと開かない。泣き腫らしているようだ。

そんな顔であの娘達に会ったら、さぞかし心配されるか笑われるかのどちらかだろう。


寝室の窓の磨りガラスに光が射し込んでいる。

2階の南向きの部屋に行き、カーテンを開ける。


目の前に広がるのは、最初に見た原野だった。


俺はその場にへたり込んだ。



どうやら日本に戻ったという事はなさそうだ。

この気持ちは安堵か。結局のところ、俺自身がアリシア達と一緒に過ごしたいのだ。


だがまだ安心は出来ない。

よく似た別の世界かもしれない。アリシア達がいないのなら、別の世界に意味はないだろう。



とりあえずアルカンダラに行こう。

今日は娘達が養成所に報告に行くはず。

なんだか授業参観に行くような気分だが……授業参観?何着て行こう。

ずっとBDUで通してきたが、流石にオフィシャルな場で野戦服はダメな気がする。


スーツか?

いや……そういえばオフ会のネタ用に買ったドイツ連邦軍の軍服がある。

養成所の制服がどんなものかは知らないが、衛兵隊や駐屯軍の装備を見る限りでは制服のデザインなんてそんなに突拍子もないものではないだろう。



洗面所で顔を洗い、腫れぼったい瞼を治癒魔法で癒す。魔法は普通に使えるようだ。


黒のトラウザーズに薄いブルーのワイシャツ、黒のベルトにネクタイ、グレーのジャケット。肩章の縁取りと同じ赤いベレー帽を被り、白いガンベルトにはUSPハンドガンを装着する。足元は黒の編み上げブーツを磨けばいいだろう。


あとは昨日充電していたバッテリーを回収し、いつものミリタリーリュックを背負う。

フレック迷彩のミリタリーリュックでは色合いが浮いてしまうが、仕方ない。


さて、準備はできた。リビングの時計は午前7時を指している。

いつもなら早起きのアリシアとアイダなら起きている頃だ。

玄関を出て鍵を掛け、クレイモア地雷を入念にチェックする。


敷地の門の外に広がる田んぼの稲はすっかり色づき、穂を垂れている。

明日にでも刈り入れしなければ、次の雨で倒れてしまうかもしれない。


行くか。


昨日アルカンダラを発った路地をイメージして、転移魔法を行使する。

何もない空間に想定した仮想のドアノブを回し、見えないドアを開ける。

その先に広がったのは昨日の路地裏に三人の人影だった。



「お兄ちゃん!!」


真っ白な髪をツインテールに結んだ、見慣れない服装の小柄な女の子が跳び付いてくる。


「夜明け前から待ってたんだからね!もう来てくれないんじゃないかって不安で不安で……」


「カズヤさん!ちゃんと来てくれたんですね!」


「カズヤ殿!信じていましたよ!」


赤毛のアリシアと、黒髪のアイダも駆け寄ってくる。


見れば二人の目に涙が浮かんでいる。不安だったのは俺だけではなかったのだ。


「ああ。待っていてくれてありがとう。待たせて悪かったな」


「いいんです。ちゃんと戻ってきてくれましたから。それにしてもカズヤさんのその服……初めて見ます」


「あっと……お前達が制服を着るらしいから、手持ちの服でそれっぽいのを選んでみたんだが……お前達のその服が制服か?」


首にしがみついたイザベルを剥がしながら、アリシア達の服装をじっくり見る。


濃いえんじ色のジャケット、胸元に控えめなフリルのある白いシャツ、赤と紺のタータンチェックの膝丈ぐらいの巻きスカートに紺色のソックス。

ジャケットの胸ポケットには、金糸で刺繍が施されている。盾の両脇に立つライオンだろうか。

背負ったミリタリーリュックが多少浮いているが、ブレザーの制服にリュックを背負えばこんなものかもしれない。

うん。制服だ。この辺りのセンスは現代と通じるものがあるのか、あるいは……


「ちょっと派手でしょう?何でも、100年ぐらい前に養成所を作った初代所長さんが決めた服だそうです。でも、この服に憧れて魔物狩人カサドールを目指す人もいるんですよ!」


ほほう……つまり誰かの趣味が存分に反映されているということか。まさか……


「私もこの制服に憧れて入所を決めたクチだからね!まったく、ヤクーモ師には感謝だよ!」


イザベルが巻きスカートの裾をひらひらさせながら言う。


ヤクーモ師?その人がこの制服をデザインした……

ヤクーモ……八雲?まさか日本人か?


「ん?どうしたのお兄ちゃん?怖い顔になってるよ?アイダちゃんのスカートの裾、もっと短い方がよかった?」


イザベルがアイダのスカートを捲ろうとする。


「イザベル!何するの!ただでさえ膝が出て恥ずかしいのに!」


「ええ~いいじゃん!減るもんじゃないんだし!」


「ちょっとイザベルちゃん!また寮母さんに怒られるよ!」


「え……それは嫌だ……」


しゅんとなるイザベルの頭をアリシアが撫でながら言う。


「カズヤさん。昨夜、寮監さんと寮母さんにカズヤさんのことを話したら、朝一番で連れてきなさいって言われました。というか、何で恩人を帰してしまったのかと叱られました。今からご紹介したいのですが、よろしいですか?」


「わかった。そういうことなら挨拶しておきたい」


「よかった。じゃあ早速ご案内しますね!こっちです!」


「こっちだよ!来て来て!!」


アリシアとイザベルに両手を引かれ、宿舎の敷地に足を踏み入れる。

昨夜は暗くて良く見えなかったが、長方形のどっしりとした石造りの建物をぐるりと取り囲むように石壁があり、石壁と建物の間はちょうど前庭というか校庭のような構造になっている。

一辺は100メートルほどだろうか。

その前庭を通り抜けながら、アイダが解説してくれる。


「アルカンダラは直径が2キロメートルほどの城郭都市です。私達が帰ってきた時に通ったのが南門、ここ養成所は東門に面して建てられています。というよりも、東門そのものが養成所と言ったほうが正しいでしょうか」


「東門そのもの?」


「はい。もともとあった東門を塞ぐように建設され、城壁に面した側がカサドールの出撃用の通用門になっています。過去に起きた大襲撃が全て東側から襲ってきたことによるものです」


「それでは、あっちの石壁は二重の防壁の役目も果たすのか?」


「そのとおりです。養成所は上空から見るとちょうど真ん中に中庭のある四角形に作られています。万が一、通用門が破られれば、中庭に魔物を誘い込んで四方からバリスタや矢を撃ちこんで殲滅します。建物の手前半分が私達の宿舎、奥の半分が養成所です」


「養成所にはどれくらいの人数がいるんだ?」


「そうですね……専門別に各組30人程度で編成されているので……300人弱といったところでしょうか」


「専門って言うのは、剣士や槍使いの戦闘職、魔法を専門に扱う魔法師、魔道具の製作や博学に通じた魔導師の3つです。ちなみにアイダちゃんは戦闘職、イザベルちゃんと私は魔法師を専攻しています」


つまり1クラス30人学級が1学年に3クラスあるということか。


「なあ、養成所に入る年齢制限とか履修期間のようなものはあるのか?」


「入所条件のことですか?13歳以上でやる気があれば誰でもということになっていますが、入所試験の段階で篩い落とされる人も沢山います。上限は3年間なので、だいたいは13歳から16歳といったところでしょうか」


「私達もあと一年はここで過ごすんだろうなあ……早く卒業したい!」


13歳から3年間。いよいよ中学校じみてきた。やっぱり養成所を作ったヤクーモなる人物は日本人じゃないか?

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