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54.暫しの別れ(5月14日)

ルイスさんの見立てどおり、森を抜けて穀倉地帯に入ると間もなく、進行方向に大きな城壁が見えてきた。

オンダロアの石壁も高かったが、こちらはもっと大規模だ。


近づいてみると街の大きさが際立つ。

夕暮れの中にそびえる高さ8メートル、厚さ2メートルほどの城壁がぐるりと街を取り囲んでいる、典型的な城郭都市だ。


城門を通り抜けしばらく進んだ所で、アリシア達のスイッチが切れたかのようにその場にへたり込んだ。


「帰って…きたんだね……」


「生きて帰れたよ……」


「死んだと思った……」


見慣れた風景が見えて緊張の糸が切れたのだろう。抱き合って泣く娘達を、周囲の人が奇異の目で見てくる。


「アルカンダラに帰ってきたのがそんなに嬉しいのか?」


ルイスさんの感想はもっともだろう。この娘達が仲間の半数をゴブリンに殺され自分達も捕らわれていたなど、見た目ではわかるはずもない。


「この娘達は南の端っこで死ぬような試練にあったので……」


「そうだったのか。まだ若いのに……とりあえず養成所の宿舎までは連れて行ってやる。その子達を馬車の荷台に上げてしまえ」


ルイスさんの好意に甘えて、アリシア達を荷馬車に乗せて宿舎に向かってもらう。


◇◇◇


「お前さん達の宿舎ってのはここだろう?」


ルイスさんが荷馬車を止めたのは、城門から幾らも離れていない市街地の一角だった。

3階建ての石造りの建物。建物の壁はそのまま城壁の一部を構成しているようだ。


「ここです……本当にありがとうございました」


アイダお礼を言って荷台から降りる。

アリシアとイザベルも降ろし、宿舎の門の前に一列に並ぶ。


「ルイスさん。いろいろお世話になりました!」


「いやいや、護衛して貰ったのは俺の方だ。お礼を言われる筋合いではない。ガルセス殿の娘さんとその一行と聞いては、昔の恩を返さねばならないしな。ではまたどこか、旅の途中で会おう!元気でな!!」


第一印象は根暗な人だったのに、話してみると兄貴肌のいいおじさんだった。

俺達はルイスさんが路地を曲がるまで手を振り続けた。


陽が落ちて辺りはすっかり暗くなった。

街角に設置されている灯りはガス燈のように見えるが、実際には光魔法らしい 。


「じゃあ、私達も宿舎に入ります。お預りしていたエアガンとリュックをお返しします」


「いや、銀ダンはホルスターごと持って行け。MP5KとMP5A5は整備をしておくから置いて行くといい」


「カズヤさん!明日の朝、絶対にここに来てくださいね!私待ってますから!」


「アリシアちゃんだけ待ってる風になってるけど、私達全員待ってるからね!というか来なかったら迎えに行くし!」


ああ。お前達の行動力は体感済みだ。


クルリと振り返り、手を取り合って宿舎に入っていく3人を見送る。

また会える。そう信じてはいるが、確証はない。

もしかしたら今見ている後ろ姿の3人が見納めなのかもしれない。


◇◇◇


3人が宿舎の中に入ってしばらく待ってみた。特に中から慌てて飛び出してくるような事もないようだ。


寂しい気持ちが増した俺は、人気が無い路地裏まで移動して転移魔法を行使した。


一瞬でたどり着いたのは、懐かしの我が家の庭だった。


◇◇◇


家の外観にも、畑にも荒らされたような気配はない。

アリシアの結界防壁がまた機能しているようだ。

玄関に仕掛けているクレイモアも作動していない。慎重にトラップを乗り越え、自宅に入る。


各部屋の照明を点灯させ、室内の異常の有無とバッテリー残量、水の量をチェックする。

とりあえず問題はなさそうだ。


風呂でも入るか……

エアガンのバッテリーを充電器にセットして、風呂に入る。



やっぱり家が静かだ。


娘達が家にいたのは、たった数日の事だった。

俺が一人で住んでいた時間の方が圧倒的に長いのに、静けさが戻ったというよりも活気が失われたという印象の方が強い。


時計はまだ午後8時を回ったぐらい。

いつもなら風呂上がりに洗濯機を回しながら弁当かカップラーメンを食べ、ちょろっとゲームでもするか漫画でも読んで寝る毎日だ。


洗濯はしておくか。

そういえば調理器具や調味料の類はリュックに入ったままだ。食事を作る気力もなく、カップラーメンに湯を注ぐ。

食べないという選択肢が選べないのは、身体が疲れているからだろう。


洗濯物を2階のベランダに干す。空気は適度に乾いているから、明日の朝には乾くだろう。


よし。寝よう!


寝室のベッドは、アイダとイザベルを助け出したその日に3人が寝た状態のままだった。

所々に赤や白や黒の髪の毛が残っている。


ここに来て一気に涙が溢れ出した。

あの娘達の存在はここまで大きかったのか。

そして、自分がなぜここにいるかわからないというのが、こんなにも不安な事だったのか。


別に誰かがいるわけじゃない。

泣きたいのなら大声で泣けばいい。いや、この2週間ばかし、なんのストレスも表に出さずに過ごしてきた方が異常なのだ。

この涙でリセットされればいい。


結局この夜は泣き疲れて眠った。

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