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47.船上での戦い(5月12日)

水柱が立ったのは、ビクトリア号の左舷およそ200メートルの位置だ。

クジラの噴気?いや、それにしては大きすぎる。

イルカが大ジャンプをしたか。あるいは……


海を割って飛び出したのは大きな魚影だった。流線紡錘型の滑らかな巨体、大きな三日月形の尾ビレ、背中側の鼠色の部分と腹側の白い部分がくっきりと分かれている。ホオジロザメだ。

水面上に突き出した背ビレの数からいけば、個体数3。

そのうち1匹の口元には先ほどまで群れを成していたイルカが一頭咥えられている。


イルカを……喰うだと。そしてイルカを咥えたままジャンプするだと……

イルカの全長が4メートルとすれば、巨大サメの全長は20メートルを超えているかもしれない。


「ティボラーンだ!ティボラーンがでたぞ!全員備えよ!」


アマンシオ船長が大声で全員に注意を促す。

しかし注意といっても、この船とほぼ同じ大きさの魔物にどう備えろというのか。

水夫達が弓矢やロープ付きの銛、剣を持ち出してきたが、ほとんど役に立たなさそうだ。


「船長!魔石を使って逃げ切りましょう!」


「馬鹿野郎!そんな速度でサメから逃げられるか!あっちはこっちの全速力の倍の速度で悠々と泳ぐんだぞ!」


「でも!!」


アマンシオ船長と水夫が押問答している。このまま遁走するという選択肢はないらしい。



「っしゃ起きたああ!お兄ちゃん!私の出番だよね!!」


再び倒れていたイザベルが急に立ち上がった。

魔物の気配に触発されたか、あるいは鎮静魔法の効果切れか。いつもより明らかにハイテンションだ。


「ってなに!あのでっかい生き物!サメってやつ?」


「ティボラーンって魔物だって!」


「そのティボラーンが何で船の周りをうろうろしているの?」


「それは……ねえ?カズヤさん……」


ああ。確認するまでもない。明らかに俺のせいだ。俺が考えなしに魔法を行使したから、遠くにいた魔物をを引き寄せたのだろう。倒すしかない。そうしなければ、俺達はおろかビクトリア号とパトリシア号の全員の命が危ない。


「アマンシオさん!パトリシア号をビクトリア号の後ろへ!一直線に配置してください!俺達が攻撃します!」


アマンシオ船長に大声で伝える。


「わかった!あのバボーサの群れを屠った実力、見せつけてやってくれ!」


僚船のパトリシア号がゆっくりとビクトリア号の船尾側に回り込む。


アリシア達を集めて話す。


「みんなすまない。余計な危険に巻き込んだが、手伝ってくれるか?」


「もちろんです。私達は同じパーティードです。“同じ船で行く者同士”ですからね!」


「任せてよ!お兄!奴の眼球を撃ち抜いてやんよ!」


「カズヤ殿!何をすればいい?また昨日の大きなエアガンを使うか?」


やっぱりイザベルのテンションが変な気がする。が、そんなことに関わっている場合ではない。



「よし。遠距離攻撃が主体になる。アイダとアリシアは右舷、俺とイザベルは左舷から攻撃する。アイダはMP5A5、アリシアはMP5K、イザベルはG36C、俺はG36Vを使う。使う魔法は貫通魔法な」


「昨日の雷みたいな魔法は?」


「こっちも海上にいるからな。俺達まで海水に触れれば感電する恐れがあるから使えない。貫通魔法が効くようなら、火炎魔法との併用に切り替える。各自掛かれ!」


『了解!!』



メンバーをこの組み合わせにしたのは、エアガンのマガジンが共通だからだ。

アイダは昨日のバボーサとの戦いで十分エアガンを使いこなしていた。アリシアも問題ない。

不安があるとすれば、イザベルのハイテンションぐらいか。

そう思うと、やはりイザベルを手元に置いておくしかない。


「準備はいいか?」


俺はデッキの手摺にバイポッドを展開し、立射で狙いを付ける。


「いつでもオーケーだよ!」


「よし。攻撃開始!」


「Abran fuego!!」


威勢のいい掛け声とともに、俺とイザベルは引き金を引いた。


タタタッ!タタタッ!


3点バーストの発射音が響く。


「ダメ!貫通魔法が水面で発現しちゃう!それに奴の表面に当たった弾が流されてる!」


ああ。それは俺も気付いた。弾が流されるのは被弾経始みたいなものだろう。厄介だな。


「イザベル!奴の背ビレと尾ビレ、水面上に見えている部分に攻撃を集中!俺は貫通魔法の2段発現を試みる!」


「了解!でもそんなことできるの!?」


出来るかどうかはやってみなければわからない。


G36Vのマガジンを一旦引き抜き、残弾全てに2段発現をイメージする。一発空撃ちして機関部に残ったAT弾を取り除き、再度マガジンをセットする。


ティボラーンはまだ悠々と水面近くを泳いでいる。攻撃されたとも感じていないのだろう。


「背ビレから行くぞ!撃て!」


タタタッ!タタタッ!


イザベルの放ったAT弾が背ビレの中ほどを貫通し、俺が放ったAT弾は水中の背ビレの根元を貫通した。


「よし!行ける!アリシア!アイダ!!水面上に露出した部分を狙って、なるべく直角に撃ち込め!イザベルもそのまま続けろ!」


まずはイザベルが最初に攻撃した一匹の尾ビレを吹き飛ばした。

推進力の大半を失って水面で苦悶するティボラーンに向けて、イザベルと俺の攻撃が集中する。


「こっちにも来た!私は尾ビレ。アリシアは背ビレ。攻撃開始!」


アイダとアリシアチームも攻撃を始めた。


俺とイザベルが攻撃していた1匹が、とうとう潜る力も失い、白い腹を上に向けて浮かんだ。

振り返ると、アイダとアリシアも海面を暴れまわるティボラーンに豪快に銃撃を加えている。


「お兄!もう一匹は!?」


「ちょっと待て、水中をスキャンする!!」


ビクトリア号のマストに触れ、竜骨にから超音波を全周囲に発射する。

海面を境界とした半径300メートルの探索魔法が発現する。残るティボラーンは1匹。現在位置は……

ビクトリア号の真下だ!左舷側から1匹目の遺骸を躱して、右舷側に抜けようとしている。


「アイダ!アリシア!そっち側に一匹行った!気を付けろ!!」


「了解!今の一匹がもうすぐ倒せるはず!!」


ティボラーンはアイダ達が攻撃している個体の更に奥の海面に躍り出た。

大きくジャンプし、こちらをジロりと睨むようにしてから、再び海中深くに潜る。

なんだ……何をする気だ。


右舷側50メートルほどの海面が割れ、ティボラーンの巨体が宙を舞った。

そのまま空中で向きを変え、大きな口を開けてこちらに突っ込んでくる。口の中には、人の頭ほどもある歯が並んでいるのが見える。


「全員!口の中にありったけ叩き込め!」


アリシア達が一斉にAT弾を撃ち込む。アリシアとアイダは貫通魔法だけでなく火炎魔法も混ぜているようだ。

俺はビクトリア号のマストを両手で掴み、船全体を包むように結界防壁を展開する。


ドーン!!!!


ティボラーンの巨体が結界防壁に斜め45°上方から衝突した。

衝突のはずみで、船体が大きく傾く。


ティボラーンはそのままゆっくりと結界防壁上を滑り落ち、海面に落下した。


ザッバーン!!


一際大きな水柱が上がり、船体を揺らした。



「浮き上がって……こないよね??」


アリシアとイザベルがデッキの手摺越しに海面を覗き込んでいる。

ティボラーンの巨体はゆっくりと沈んでいき、やがて見えなくなった。

水中スキャンでも魔物の反応は消えた。


「敵の全滅を確認。戦闘状態を解除。セレクターをセーフティーに」


『了解!』


「アマンシオ船長!エンリケスさん!もう大丈夫です。ティボラーンは全て退治しました!」


俺の報告を聞いて、アマンシオさんとエンリケスさんが我に返る。


「俺達の勝利だ!勝ち鬨を上げろ!」


アマンシオさんの宣言で、船上での戦いは終結した。

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