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40.浜辺でバーベキューをする(5月11日)

波止場に停泊している船を右手に見ながら南に向かう。

波止場エリアを過ぎると、跳ね橋が掛かった濠があり、そこから先の海岸線はリアス式海岸のような海に向かってギザギザに突出した岩礁地帯となった。

海岸線は大きく西に向かってカーブしている。

さすがに浜辺でバーベキューという場所ではない。


どうやらナバテヘラという街は、こういう岩礁地帯に人工的に平らな部分を作って形成されているようだ。

とすると、よほど時間を掛けて開発したか、或いは土魔法で造成したか。


北に向かうと、砂浜に所々に岩礁が広がっていた。

岩礁を一つ超えた場所は、人目にも付かずさながらプライベートビーチのようになっている。


砂浜を掘ってみると、アサリやハマグリのような貝がザクザクと出てきた。

潮が引き始めて露出した岩場には牡蠣やイガイのような貝類が張り付いている。


うん。食材を現地調達するにも理想的な環境だ。バーベキューの場所はここにしよう。


早速宿に戻り、アリシア達を起こす。日の出からおよそ3時間。そろそろ街の人々も動き出している。



「おはようございますカズヤさん。お野菜採れましたか?」


アリシアは起きていた。昨夜寝る前に散らかした荷物なんかを片付けてくれている。アイダとイザベルはまだ寝ているようだ。


「ああ。トウモロコシやサツマイモは焼いて食べられるぞ」


「聞いたこともない野菜ですけど、楽しみです!カズヤさん……ちょっとそこに座っていただけます?」


アリシアが椅子を指差す。

俺が椅子に座ると、アリシアが膝の上にチョコンと腰掛けてきた。


「重い…ですか?」


「いや、大丈夫だけど、突然どうした?」


「えへへ……ずっと3人だったし、昨日はノエさんもいたから甘えられなくって。ちょっとだけ補給です」


補給って何を??


「目が覚めたときカズヤさんがいなくて……朝一番でお出かけするとは聞いていたのに不安で……ダメですね私」


不安か。アルカンダラに着いて日常を取り戻せたら、この子達の不安は解消するのだろうか。

そして俺はこの世界でどうするのだろう。或いは来た時と同じように唐突に元の世界に帰るのだろうか。

もしかしたら捕らわれたこの子達をアルカンダラに送り届けるためだけに、この世界に呼ばれたのかもしれない。

アリシアの赤い髪を撫でながら、そんな事を考える。


「あ!アリシアちゃんだけズルい!!」


イザベルがガバッと飛び起き、ベッドの下に派手に落ちる。


ゴンと痛そうな音が響くが、そのまま俺達のほうににじり寄ってきた。

イザベル……夜中にそれされたら、お兄ちゃん泣いちゃいそうだ。


「うう…痛いようお兄ちゃん……」


そりゃあれだけ派手に落ちればな。とりあえずイザベルも抱き起こし、白いサラサラの髪を撫でる。


「ん……みんな起きてる……のか…?って何してるの?」


ようやく目覚めたアイダがジト目でこっちを見ている。




そんな朝の日常を終えて4人で浜辺に着いた頃には、すっかり潮が引ききっていた。


コンロの準備をアイダに任せ、アリシア、イザベルの2人と貝類を採取する。

最初にアサリやハマグリを採り、海水を入れたバケツで砂を吐かせている間に、牡蠣を採りに岩場に向かう。

ところどころに採集痕があるから、昨夜宿の夕食で食べた牡蠣もこういった場所で採られているのかもしれない。


「お兄ちゃん!こっちに変なのがいる!」


ん?まさか海に住む魔物じゃないだろうな。そういえばレーダーもスキャンも掛けていないが……


イザベルが指差す先には、海の底を悠然と這う暗褐色の大きな塊がいた。


アメフラシだ。

いや、日本で見るアメフラシは、せいぜい20〜30センチメートルほどだが、目の前にいる塊はもっと大きい。目測で2メートルを超えている。


「アリシアちゃん……あれ……魔物だと思う?」


「ちょっと分からないな……でも気持ち悪い……」


確かに。これだけ大きいと、正体云々以前にとにかく気持ち悪い。

まあ、俺が知っているアメフラシは草食というか海藻食だったはずだし、こちらから手出ししなければ襲ってはこないだろう。


「アリシア、イザベル。そろそろアイダが待ちくたびれているだろう。戻ろう」


2人を促しアイダが待つコンロの場所へ戻る。


アイダは初めて見るであろうバーベキューコンロもきちんと使いこなしていた。さすがはアリシア達にも頼りにされるだけのことはある。


炭火で熱せられた金網の上に牡蠣やハマグリ、トウモロコシを並べ、その隣でアサリの味噌汁を作る。

サツマは海水で洗ってからアルミホイルで2重に包み、炭火の上に直接置いて時折ひっくり返す。


ハマグリが大きく口を開けたところに醤油を一指しする。香ばしい香りが辺りに漂う。


「すごい……いい匂いがする!」


イザベルが待ちきれなくなっている。


キャンプ用食器セットから皿とコップを取り出し、みんなに配る。セットがちょうど4人分で良かった。


「あの…この棒どうやって使うんですか?」


そうか。箸を渡されても使えないか。


まずは箸の講習会になってしまったが、食欲魔人と化したイザベルがあっさりとマスターし、ハマグリを口に運ぶ。


「熱っ!美味しい!!」


イザベルが次々と自分の皿に焼きハマグリや牡蠣を盛る。


「全部食べちゃダメ!」


必死に箸づかいを覚えたアイダとアリシアが後に続く。


「美味しい!ちょっと磯臭いけど、ショウユってのの香りが凄くいい!」


「このミソシルってのも美味しい!なんだかホッとする味です!」


「トウモロコシっての熱っついけど甘くて美味しい!」


なんだか美味しいしか感想がないが、食べるスピードからすると本当に気に入っているのだろう。口の中を火傷しないか心配になるほどだ。


ひととおり焼き物を食べ終わると、いよいよ焼き芋の出番が来た。

丹念にひっくり返し、竹串がスッと刺さるぐらいになれば焼きあがりだ。

トウモロコシを甘いと表現したイザベルは、焼き芋にどういう感想をくれるだろう。


焼き芋を包むアルミホイルを剥がし、キッチンペーパーで包んで半分に折る。申し分無い焼き上がりに、甘い匂いが漂う。


「ホッ!熱いけど!ホッ!甘い!美味しい!!」


イザベルが俺の手に握られたままの焼き芋を頬張る。

そんなイザベルを見て、アリシアとアイダも焼き芋を手に取る。


「甘い!芋がこんなに甘いなんて!」


「確かに甘い。これなら幾らでも食べられそうだ!」


サツマイモは低温でじっくり加熱することで、デンプンが分解されて糖になる。焼き芋にすれば余計な水分も抜けるから、尚更甘くなっている。


焼き芋を美味しそうに頬張る3人を見ながら、俺も焼き芋を口に運ぶ。うん、美味い。今まで食べた焼き芋よりも数段美味しく感じるのは、自分で栽培したからか、或いは異世界の効果か。


ん?イザベルが焼き芋を口に運ぶのも忘れて、ポカンと俺を見ている。


「お兄ちゃん……さっきのアメフラシ?って生き物は草食だって言ったよね?」


「ああ。アメフラシなんかの腹足綱後鰓類(ふくそくこうこうさいるい)つまり巻貝の貝殻が無い奴らは、ほとんどが海藻なんかを食べているな。一部には肉食もいるが……どうした?」


「じゃあ、その一部って奴なのかな……お兄ちゃんの後ろ……」


ん?後ろ……?



振り返ると、大きな暗褐色の軟体動物のような生き物がいた。人の頭ほどの口の中には、ザラザラの歯舌(しぜつ)が動いているのが見える。頭部からは人の身長ほどもある触覚が2本伸び、ゆらゆらと揺れている。


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