表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/247

3.防衛戦の後始末(4月29日)

そのまま1時間ほど監視を継続するが、森には特に変化はない。

とりあえず腹減った。

キッチンでお湯を沸かし、カップラーメンを作る。

あんな戦闘行為の後でも腹は減るものだ。


湯を注いだカップラーメンとペットボトルのコーラ、タバコを持って屋上に戻る。

盾代わりに立てていたテーブルを戻し、折りたたみ椅子を持ち込んで簡易の食卓とする。


カップラーメンを啜りながら、何が起きているのかぼんやりと考える。


いや考えてもさっぱりわからん。

異世界転移的なやつか?ライトノベルやらゲームの設定では、死にそうな目にあった主人公が異世界で新たな命を得る話は幾らでもある。

だったら最初に説明があってもいいだろう。


あれだろ?女神だか男神だかが“そなたに特別な力を授けよう”とか言ってくれるんだろ?

それで“ステータスオープン!”とか言うと、目の前にスクリーンが開かれてスクロールすると自分の名前やらレベルやらスキルやら習得可能な魔法やらが表示されるやつだ。


もちろん試したさ。

ステータスオープン!も、手で虚空を上下にスクロールする仕草も、およそ考えつく一通りの事は試した。

だが何も変わらなかった。


神殿に行って神官から特別な力を授かるとか、特別なダンジョンで何かの石に触れるとか、そんなイベントを経験しなければいけないやつか。


うわあ面倒くさい……


まあいいか。

レベルやスキルなど、何となく感じ取るものだ。

サバゲでも他人の戦闘スタイルや戦力は、装備品や手にしているエアガンで推し量るしかない。


ガチガチの現用アメリカ軍装備で固めたサバゲーマーが実は単なるコスプレイヤーだったり、ボルトアクションの狙撃銃を構えたまま最前線に躍り出てくるプレイヤーもいるのが面白いところでもある。


ただ、現用自衛隊装備とか法執行官スタイルで固めたプレイヤーは要注意だ。

現職か、そうでなければ予備役の本職である可能性が高い。

あと海外勢で兵役経験がある連中も手強い。



そんなことはいいとして、あのゴブリンらしき生き物は何だ。

やっぱりゴブリンなのか……それ以外に形容する言葉が見つからない。

とすればここは何だ。異世界か。剣と魔法が支配する夢の国か。


異世界だと仮定すれば、全部すっきりする。

BB弾が当たるだけで倒れるゴブリンも、きっと魔法か何かの力なのだろう。


魔法……魔法ねえ……そんな都合のいい力があれば、是非使ってみたいものだ。


俺はタバコを一本咥え、何んとは無しにライターを弄ぶ。

例えばだ、このライターの代わりに人差し指から火が出たら……


「ふぁいや」

ぼそっと呟いた瞬間に、指先から火柱が上がり一瞬で消えた。


はい?何が起きた??

髪の毛が焦げた嫌な臭いが、幻ではないと告げる。


今度は慎重に……タバコに火を付けるライターのイメージで……

「ふぁいや」


おお……上手くいった。少し青みがかった、ちょうどターボライターのような炎だ。

咥えたタバコに火を付けると、指先の炎は消えた。

うん、ライターで点けた火のように水っぽくなく、かといってオイルライターのようにオイル臭もない。

いい味だ……


じゃなくって!

今のはやっぱり魔法なのか?

魔法か……どれくらいの火が出せるんだ?そもそも火だけなのか??


えっと……魔法と言えば何だっけ。四大元素だったか。火、水、土、風。レアなものでは天とか虚無とかがあった気がする。

とりあえず火はいいとして、あとは水と土と風か。

水……あれだ!


「うぉーたーぼーる」

指先からピンポン玉サイズの水の玉が浮かび上がり、そのままふらふらと屋上の床に落下して弾ける。


「えあかったー」

今度は指先から一迅の風が起こり、空になったペットボトルを転がす。

ふむ……わかりにくい。なんかもっとこう、スパっと切り裂くような……


あとは土か。

土と言えば見渡す限りに草地が……

屋上から見下ろした眼下に広がるのは……哀れなゴブちゃん達の死屍累々だった。


ハッと我に返る。

哀れなゴブちゃん達をそのままにしていて良いのか。

いや、哀れみというより腐敗したり、あるいは夜に蘇ってきたりしないだろうな。

不死の身体になったゴブリンが、一斉に家に群がってくる姿を想像してゾッとする。

魔法があるような世界なのだ。何が起きても不思議じゃない。


よし。埋葬しよう。いや火葬しよう。


とりあえずヘルメットを被りなおし、MP5Kを背負う。

庭先に転がるゴブちゃん達を避けながら、ガレージから一輪車ネコとショベルを取り出す。


まずは敷地内からゴブちゃんの亡骸を運び出す。

まったく……異世界というならドロップアイテムが手に入ったり、倒したモンスターは消えてくれればいいのに……


よく見るとゴブちゃん達は首飾りを下げていたり、腰に袋をぶら下げている。これがドロップアイテムというか戦利品か?

何の役に立つかはわからないが、供養費だと思って回収させてもらう。ついでに武器も回収する。


あとはひたすら機械的に亡骸の回収作業を行う。

森の際で撃破した亡骸は、割り切って無視することにした。これだけ大きな森だ。掃除屋スカベンジャーのような存在はいるだろう。その存在が家に近づいてこなければいい。


結局回収した亡骸は60体に上った。


さて、いよいよ土魔法を試す時が来た。

土魔法といってイメージできたのが、穴掘りぐらいだったのだ。


埋葬場所に選んだのは、最大の激戦区となった北の草地。ちょうど家と森の中間地点だ。

ショベルでざっくり直径3メートルぐらいの円を描く。

あとは……

「よっこいしょっと」


土をごそっと持ち上げ、隣に置く。

いやな、いろいろカッコイイ詠唱とかあると思うんだ。大地の精霊よ!とかなんとか言うやつが。

でもな、思いつかなかったんだよ……穴を掘りたいんだからDig Outでいいのか?


まあ誰が見ているわけでもなし。結果オーライだ。

穿たれた深さ5メートルほどの穴に、次々と亡骸を投入する。


投入された亡骸に合掌する。これでも一応日本人だ。死者には敬意を払う。


すまん。生きるためとは言え、無益な殺生をしたかもしれん。もし輪廻転生とかいうのがあるのなら、どこか遠くで幸せになってくれ。


心の中で唱えながらも、口にするのはただ一言。

「ふぁいや」

指先から迸る青白い炎の奔流が、亡骸を一気に燃え上がらせる。


燃え尽きる間に、敷地内に飛び散った血糊やら何やらを洗い流す。

もちろん水道水などは使わない。掌から迸る水のシャワーだ。


折からの南風で、亡骸を焼く臭いは家までは届かない。そう言えば風向きを考えていなかった。


燃え尽きたあたりで、穴をよっこいしょっと埋め戻す。

ああ……眩暈がしてきた。これがマナ切れとかMP切れとかいうやつか。


残った気力を振り絞って、勝手口と玄関先にトラップを仕掛ける。


指向性対人地雷、通称クレイモア。

実物は700個もの鉄球を前方60°の範囲で50メートルもばら撒く、まさに殺傷兵器だ。

これがバネ式になると、有効距離1メートルに200発ほどのBB弾をばら撒くおもちゃになる。

サバイバルゲームではネタの小道具でしかなかったこいつらも、ここでなら活躍するかもしれない。


トラップを仕掛け終わる頃には、もう日が暮れていた。


今日は酷く疲れた……風呂に入って寝よう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ