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34.アステドーラにて(5月9日)

久しぶりに独り寝の朝を迎えた。

てっきりアイダが潜り込んでくるかと思っていたが、散々冷やかされた後だったから自重したか。


野営地を引き払った俺達は、一路アステドーラに向かう。


アリシア達はBDUではなく、エルレエラで買った服に着替えている。

ちょっとぶかぶかで恥ずかしいらしい。

ただその服装で普通に武装しているものだから、少々不思議な格好になっている。


アステドーラまでおよそ4キロメートルほど。

歩き出して30分もすると森を抜け、畑が広がる平地に出た。

畑の1区画は200〜300メートルぐらいか。麦が実っている場所と雑草が生えている場所、イチジクやブドウの木が植えられた畑が交互に現れる。

雑草が生えている場所も耕作放棄地ではなさそうだ。


「これは土地を休めてるんだよ!」


歩きながらイザベルの解説を聞く。


「何年も同じ場所で作物を作っていると、土が痩せてくるでしょう?だから耕作地を3つに分けて、一つは秋蒔き、一つは春蒔き、もう一つは豚や牛の放牧地にするの。これをクルクル回すんだよ。sistema de tres camposって言うの」


システマデトリカンポス?

コンポスなら包装材をイメージしてしまうが、コンポストなら生ゴミなどで作られた堆肥の意味だったように思う。ベランダで堆肥化することで生ゴミを減らそう的なアレだ。

システマとはそのままシステムだろう。

トリってことは3、あるいは3つの。

3つの堆肥システム?

……意味がわからない。


「なあ、そのコンポスってのは何だ?」


「ん?カンポス。畑だよ?」


これで意味が通じた。3つの畑システム。要は三圃式農業だ。


「なあ。放牧に使うのは、牛糞なんかを肥料にするためだろう?どうして堆肥を使わないんだ?」


「タイヒ?何それ??」


イザベルがキョトンとしている。


ちょっと待て……堆肥が一般的になったのは、日本では平安時代じゃなかったか。西洋ではアリストテレスの時代から、草木灰や緑肥は使用されていたはずだ。


まあいいか。たぶん魔法の力で促成栽培ぐらいしてそうだし、あまり深く考えないようにしよう。



そんなこんなで1時間強も歩き、アステドーラの門に到着した。

エルレエラと同じ木と土を組み合わせた塀だが、エルレエラより作りがしっかりしている。塀というより壁と言ってもいいだろう。


門の横には衛兵の詰所があり、何やら臨検のような事をやっている。


入るのを監視しているのかと思いきや、どうやら出るほうをチェックしているようだ。


「お疲れさまです。何かあったのですか?」


アイダが近くにいたおじさんに尋ねる。


「昨日行方不明になった男の子がいてな。それがちょっと名の知れた旦那の息子さんだから、朝から大騒ぎなのさ」


行方不明?単なる迷子か人攫いか。

まあ一介の旅行者に過ぎない俺達には関係ないな。


「それって昨夜カズヤ殿が感じた反応と関係が……?」

アイダ達を促して先に行こうとした矢先に、アイダが口走った。


あ……やばい。巻き込まれる……


「何か知っているのか!?こっちは手掛かりも無くて困っている。何でもいいから教えてくれ!」


ほらな。聞きつけた衛兵が飛んできた。



衛兵の詰所の奥の部屋に案内された俺達は、事件の詳細を知らされた。


行方不明になったのはアベル君7歳。アステドーラで生産された葡萄酒をアルカンダラまで運び販売する運送業兼商人代々をやっている、ベルティ家現当主の長男らしい。

代々やっていると言っても、大店というほどでもないようだ。ただ困窮しているわけでもなく、堅実な商いをやっているらしい。


事件の発覚は昨日の夕方。

庭先で遊んでいたはずのアベル君の姿が見えないのに気付いた母親が、仕入れから帰ってきたご当主に訴えた所から始まった。


両親と使用人、ご近所の人達も一緒になって方々を探すも発見できず。日が暮れてから子供が立ち入ることができるような場所も限られているし、診療所にもいない。

これは単なる迷子ではないとなって、衛兵の詰所に駆け込んだのが夜半過ぎの事だった。



事件のあらましを聞いている間に、カサドールの連絡所から狩人達がやってきた。

アリシア達3人がカサドール養成学校の生徒だと聞いて気を利かせてくれたのだ。


「レナト カレラスだ。レナトでいい。この街のカサドールのまとめ役をやっている。こっちは連絡所で事務をやっているエレナだ。まあ俺の嫁さんだ。お前達が何か知っているという学生か?」


レナトと名乗ったのは、40代手前ぐらいのガタイのいい偉丈夫だった。

身長170センチほど。日焼けした頬と腕には大きな切り傷がある。

エレナさんは優しそうなおばさんといった雰囲気だ。


「はい。昨夜、近くで野営していたのですが、その時にこちらのカズヤ殿が怪しい魔力を検知したと」


「ほう?魔力検知でか。人と魔物の区別が付くのか……それで場所は?」


レナトさんが訝しげにこちらを見ている。


「それはカズヤ殿が……」


はいはい。もうこうなったら乗りかかった船というやつだ。


「地図はありますか?」


そう尋ねるとエレナさんがスッと羊皮紙に描かれた地図を出してくれた。

ん?このお姉さん今どっから地図を出した?


まあいいか。


「野営していたのは、アステドーラの東およそ4キロメートルの地点。魔力を検知したのは野営地点から北東におよそ3キロメートルの場所。とすると……」


「アステドーラの北東東、約7キロメートル先か。この辺りは森の筈だが、放棄された猟師小屋は点在している。そのどれかに潜んでいるか……」


「仮に魔物だったとしても、農地までは目と鼻の先。見過ごすことはできませんよね、あなた」


あなたかあ……言われてみたい。


「確かに。捜索も街の中ばかりで、そんな所までは手を広げていなかった。衛兵隊長!捜索隊を組織する。人員確保できるか?指揮は俺が執る」


「承知いたしました。人数はいかほど?」


「あまり数を揃えても仕方ない。衛兵隊から10人出してくれ。分かっているとは思うが、任務は子供の捜索と賊の捕縛だ。適任者を選べよ?」


「了解です。30分時間をください」


「わかった。では30分後に門の外で集合だ。お前達も付いてきてくれるな?」


「当然依頼料は連絡所が払います。1人銀貨5枚。救出できればそれぞれ金貨1枚上乗せで」


エレナさんの言葉を聞いた衛兵達が色めき立つ。


「ああ、もちろん衛兵さん達はお仕事ですから、依頼料はありませんよ?成功報酬ぐらいは隊長さんが気前よく用意してくれるでしょう?」


「えええ……酒場で一杯ぐらいなら……」


隊長さんが困った顔をしている。


やはり軍と狩人は別組織らしい。

とすると、先程レナトさんが衛兵隊長に指示していたように見えたのは……?


「ごめんなさいねえ。あの人ああいう性格だし、10年前までは軍人だったものだから。軍歴だけで言えば隊長さんより長いんじゃないかしら」


エレナさんが笑いながら謝っている。

軍人から狩人への転向は普通にあるらしい。


「じゃあ、私達も準備しちゃおう?着替えたい!」


やっぱりイザベルさん達も着替えるんですね。せっかく買った一張羅だし、汚したくはないか。

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