25.エルレエラにて②(5月5日)
扉を開けて入ってきたのは、3人の娘達だった。
アリシアは白いシャツに茶色のゆったりとしたズボン。シャツの上から幅の広い革のベルトを締めているから、細いウエストと豊かなバストが強調されている。
シャツの胸元は革紐でレースアップできるようになっているが、今はゆったりと結んでいるだけだ。
アイダは袖の拡がった白いシャツに焦げ茶色のサロペット。サロペットの裾は太ももの上の方で終わっていて、肌色のゾーンの下には白いオーバーニーソックス。足元は俺が貸している砂色のブーツだ。
「カズヤ殿。あまり見ないで欲しい……その……恥ずかしい……」
思わず見惚れてしまった絶対領域から目を逸らし、イザベルを見る。
イザベルはフロントが膝丈、バックが踝ぐらいまであるカーキ色のワンピースの上から、紺色のチュニックを合わせている。更に胸を持ち上げるような革のベストを着込んでいるから、少々目のやり場に困る。
「お兄ちゃんどう?服屋さんで全部で金貨一枚だったから買っちゃった!」
「ああ、3人とも可愛いぞ」
色合わせやら組み合わせやらは、正直よくわからん。
が、本人達が気に入って着るのなら、それが一番いいのだろう。
「やった!褒められた!」
「悩み抜いた甲斐があったな!」
「次はカズヤさんの服も選ばないとね!」
どうやら今度は俺が着せ替え人形になるらしい。
この世界で生きていくのなら、この世界の文化や風習に合わせていく必要がある。最も手っ取り早いのは服装だろうから、アリシア達に任せるのもいいだろう。
「お兄ちゃん!お腹空いたよ!ご飯食べに行こう?」
イザベルが飛びつきそうな勢いで提案してきた。
ちょうど日暮れ時も少し過ぎた頃合いだ。
一階の食堂では、丸テーブルを囲んだ5、6組が食事を摂っていた。
外はハビエルの予報どおり雨になっているようだ。
買い物が終わるまで降ってこなくてよかった。
「あんた達!夕食なら空いてる所に座って待ってな!すぐ持っていくからね!」
女将に促されるままに、丸テーブルを囲むように4人で椅子に座る。椅子は背もたれがついた、しっかりした木製だった。
「お待たせ!とりあえずこれでも食べてな!食べ終わるくらいに次を出すからね!」
女将が大きな木のトレイを持って登場する。
丸テーブルの中央に置かれたのは、直径30センチほどの湯気の立つパイのようなもの1つと、大きな木のコップが4つ。木皿と木製のナイフ、スプーン、フォークが4つずつだった。
早速アリシアが切り分け、木皿に入れて皆に渡してくれる。
コップの中には少し黄色味がかった豆乳のようなものが満たされていた。
「オルチャータだ!私これ好き!」
イザベルが口を付ける。
オルチャータという飲み物らしい。
恐る恐る口に含む。
味は……やはり豆乳に近い。
「カズヤさんはオルチャータは初めてですか?」
アリシアが尋ねてくる。
「ああ。豆乳に近い味のようだが……」
「トウニュウ??なにそれ?」
今度はイザベルだ。
「えっとな、大豆を水に浸して、すり潰して絞ってから、出てきた液体を煮詰めたものだ」
「カズヤ殿。ダイズ?って何ですか?」
「豆……だな。緑色の未熟な豆を茹でても食べられるし、熟して固くなれば日持ちもする」
「ああ!ソジャのことですね!でもソジャはそんな食べ方はしないですね。でもオルチャータの作り方には似ています。オルチャータは地中にできる膨らんだ根っこを使います」
膨らんだ根っこ。つまり芋のようなものだろうか。
「お兄ちゃん!お話ばっかりしてたらトルタが冷めちゃうよ!」
アリシアが切り分けてくれた料理はトルタというらしい。4当分された断面からは刻まれた玉ねぎやホウレンソウのような葉物野菜、ベーコンのような肉が顔を覗かせている。
「これは刻んだ野菜やお肉を炒めて、溶き卵に入れて焼き上げたものです。家庭料理のようなものですが、焦がさずに均一に焼き上げるのは結構大変なんですよ!」
要するに具入りの卵焼き、あるいはスペイン風オムレツのようだ。
一口食べると、少々強めの塩味の具材を卵が包み、なかなか美味い。
その他にも、鹿肉のステーキ、根菜類とチキンのパエリアが運ばれ、俺達4人は腹一杯になった。
「まだ何か食べるかい?これ以上は別料金だけどね!」
そう言う女将の誘いを丁寧に断って、部屋へと引き上げた俺達は、そのままベッドに倒れ込んだ。
ベッドは3つぴったりと隙間なく並べられていて、4人がダイブするには十分な広さになっていた。
あれ、何故か俺まで1番の部屋に連れてこられてしまった。2番の部屋に戻らなければ……
「お兄ちゃんどこ行くの?」
ベッドから降りようとした俺の袖を、ムクリと起き上がったイザベルが掴む。
「どこって、隣の部屋だけど」
「ダメ。一緒に寝て」
ダメと言われてもなあ。
一緒に寝てと言われても、これがスー村で会ったカリナのような金髪ナイスバディな美人のお姉さんなら、手を合わせてこちらからお願いするところなのだが、イザベルはどう見ても10代半ばの少女だ。
抱き枕にされるのがオチのような……
「アリシアちゃんにもアイダちゃんにも魔力を補充してくれたのに、私にだけしてくれないのはズルいよ!」
イザベルが長い銀色の髪を振って抗議してくる。
やっぱり抱き枕コースか。
まあ夜這いされるのも夜泣きされるのもゴメンだが、分かっていて一緒に寝るのも気が引けるものだ。
「あの!カズヤ殿さえ良ければ、この部屋で一緒に寝てもらえませんか?その……暗いのはやっぱり怖くて……」
アイダが訴えてくる。
その割には昨夜は見張りを買って出てくれたような……怖くて眠れなかったという事だろうか。
「カズヤさん。私からもお願いします!昨夜の見張りもイザベルちゃんは眠れなかったみたいで、すぐ起きてきちゃって……カズヤさんの側だと安心して眠れるよって教えちゃったんです。だから……」
アイダとアリシアまで、ベッドの上で膝立ちしてにじり寄ってくる。
美少女3人に迫られるのは悪い気はしない。
むしろ身体の一部は反応している。
だからこそマズいのだ。
彼女らは15歳らしい。この世界の法律がどうかは知らないが、法がどうあれ、心の声には従わねばならないだろう。
「お兄ちゃん。アイダちゃんが言ってた“ご奉仕”ってのもちゃんとするから!」
「カズヤ殿。私達3人では不満か??」
やれやれ……そういう事を言うからダメなんだが。
「わかった。ただ条件がある」
そう言うと、3人の表情が期待と不安が織り混ざった複雑なものになる。
「条件その1.寝るだけだからな。イザベルが言う“ご奉仕”ってのは無しな。条件その2.一緒に寝るからには、独占しようとしたりしない事。この2つが守れるか?」
俺が条件を出すのも変な話だ。“何もしないから部屋に上げて!”という下心丸出しの男を牽制しているような、変な気分だ。
「わかりました。アイダちゃんもイザベルちゃんも、それでいいよね?」
アリシアが他の2人を纏めてくれた。
「わかった!じゃあとりあえず服脱いじゃう!せっかく買ったのにシワシワにしちゃったらもったいないからね!!」
イザベルがスッと立ち上がって、服を脱ぎ始めた。
あっという間にTシャツ一枚に着替える。
アリシアとアイダも同じようにTシャツに着替えてしまう。
「ほら!カズヤさんも脱いでください!このままじゃゴワゴワしてて痛いです!」
いや、別に俺は痛くないのだが、アリシア達の柔肌に当たって痛いのだろう。
とりあえずBDUのパンツを脱ぎ、俺もTシャツ一枚になる。もちろん下着は履いてるからな。
「よし!じゃあ寝よう!お兄ちゃん真ん中に寝て!アリシアちゃんは右、アイダちゃんは左でいいよね!」
さも当然のようにイザベルが仕切り始める。
3つ並ぶベッドの中央に寝転がると、アリシアとアイダがいそいそと俺の両脇に寄り添ってきた。
「イザベルちゃんはどうするの??」
アリシアが寝転んだままイザベルを見上げる。
「私はねえ……ここ!」
そう言ってイザベルが俺の上に倒れ込んできた。
ぐへっ!!
思わず変な声が出る。
「えへへ。いいでしょお兄ちゃん!」
「ちょっとイザベルちゃん!それはズルい!」
「ズルくないもん!私が最後まで待ったんだから当然だもん!」
「まあまあアリシアもイザベルも。ここは毎晩交代でって事でどうだ?次はアリシア、その次は私。やっぱりみんな平等でなくてはな」
俺の意思は何処に行った……





