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226.アリシアの実家①(10月1日〜3日)

アルカンダラ郊外のログハウスに帰ると、留守番組だった娘達が集まって何やら相談していた。

どうやら王宮に着ていく服について話し合っていたらしい。服飾担当を自負しているビビアナも当然のようにその輪に飛び込んでいく。

皆の前にあるのは二次元美少女達が軍装をしているイラスト集だが、そんなものが参考になるのだろうか。俺はと言えば礼服なんぞは持っていないし、一張羅とも言うべきドイツ連邦軍レプリカで行くしかない。養成所の制服でもいいような気がするのだが、そうなると困るのはカミラか。カミラの分だけ作るよりも、みんな同じデザインの物を作りたいのかもしれない。この辺りは高校生がクラスTシャツを作りたがるのと良く似ているが……幾許かの不安を覚えつつもそっとしておくことにした。


そういえば孤児院でルイサが気にしていたロラとアルという2人であるが、子供達は行方を教えてはくれなかったらしい。機会を見てフィエロに聞いてみよう。何か問題が起きていなければいいのだが。


◇◇◇


さて、王宮ないしは学校に何らかの動きがあるまでは俺達は暇である。娘達はやっぱり服作りに勤しむようだが俺は特にやることもない。仕方ないからAT弾の補充と常設型魔物感知システムの改良、アリシアが使う結界魔法による防壁システムの改良に手を付ける。サラ校長には“王国最強”などと煽られたが、俺達の攻撃力はあくまでも点でしかない。線を繋ぎ面を制するには攻撃力だけでは足りないのだ。


◇◇◇


アリシアの実家には10月3日に訪問することになった。同行するのはイザベルとアイダ、それにルツだ。ビビアナは縫製作業に勤しんでいるし、ソフィアと意外なことにカミラがその才能を発揮しているようだ。ちなみにイザベルとアイダはアリシアの両親とは面識があるらしい。


アルカンダラという街は大きく4つに分かれている。養成所があり防衛機能を中心とした東街区、アンダルクス川と接し港湾地区がある西街区、ビビアナの実家があり貴族が多く住む北街区、住民の多くが住む南街区だ。アリシアの実家は南街区の一角にある石造りのニ階建だった。窓の前やちょっとしたスペースに植物が植えられ花が咲き誇っている。通りに面した玄関の脇に地下へと伸びる階段がある。地下室だとしても表から直接入れるのはどういう意味があるのだろう。


「カズヤさん!ここが私が生まれ育った家です!お父さんは書斎かな……」


アリシアが地下に通じる階段を気にしながら玄関のドアをノックする。

扉が内側に開き、赤毛の女性が顔を覗かせた。


「あらアリシア!それにアイダちゃんとイザベルちゃんも!元気にしてた?」


「お母さんただいま!」


「お久しぶりですラウラさん」


「ちょっとアリシア、そちらの方は?」


「あ、えっと、イトー カズヤさん。養成所の教官で私達の命の恩人なの。それとルツさん!ルツさんは最近東の方で知り合ったの」


「東ってカディスかしら?」


「ううん。エシハとかロンダとかそっちの方」


「エシハって……今大変なところじゃない。そんなところに行ったの!?」


何だか雲行きが怪しい。実家とは手紙で連絡しているとアリシアは言っていたが、動静などはあまり報告していなかったようだ。


「母さんどうした?おや、アリシアじゃないか。それにお友達も、いらっしゃい」


奥から男性が出てきた。眼鏡が似合いそうな感じのいい紳士だが、少々浮世離れした印象を持ってしまうのは“魔物の研究者”という先入観だろうか。


「ちょっとお父さん!貴方からも言ってあげてください!アリシアったらエシハに行っていたらしいの!」


「それは初耳だね。でも立ち話もなんだし入ってもらいなさい。おや?君達は初対面だね」


「はい。イトー カズヤと申します。それと」


「ルツじゃ」


「そうですか。ルイス ガルゼスです。こちらは妻のラウラ。ささ、どうぞこちらに」


アリシアの父に案内されて、1階の応接室らしき部屋へと入った。


◇◇◇


「それで、エシハに行ったんですって?お母さん何も聞いてないんだけど」


テーブルに着くなりアリシアの母が話し始めた。


「ああ、うん、ごめんね。急にだったから……」


「いつ帰ってきたの?」


「えっと……一昨日かな?」


「一昨日ってあなた!あっちではネクロファゴが大暴れしてるって言うじゃない!何しに行ったの!」


余りの剣幕に黙ってしまったアリシアと半ば立ち上がるラウラをルツが興味深そうに見ている。


「ラウラ殿、私達は養成所からの要請でネクロファゴに対処してきたのです。そうアリシアを責めないでやってください」


「要請で対処ですって?あの呪われた不死者と戦ったってこと?アリシア!あなた浄化魔法なんて使えないでしょ?」


「浄化魔法が得意な人も仲間にいるもん!それにカズヤさんの魔道具を使えば私が浄化魔法を使えなくったってネクロファゴは倒せるんだよ!」


「ほう、それは面白い魔道具だね。カズヤ君、君が作ったのかね?」


急に父親が食い付いてきた。


「そうですルイス殿。カズヤ殿がお作りになる魔道具はどれも素晴らしいものです。探知魔法に秀でていなくとも魔物の接近を探知できる魔道具とか、結界魔法を常時展開できる魔道具などには大変助かっています」


「そうか。それは是非一度お目に掛かりたいものだ」


「アリシア、さっき仲間って言ったわね。誰がいるの?」


「えっと、アイダちゃんとイザベルちゃんはいいよね。あと養成所で一緒だったビビアナ オリバレスさんと」


「オリバレス?あの侯爵家の?」


「そうそう、そのビビアナちゃん。それと養成所の魔導師教官だったイネス カミラさんと、ビビアナちゃんが後見人になってるルイサちゃん。あとはアルテミサ神殿からソフィアさんとグロリアちゃんが一緒だったよ」


「じゃじゃ馬グロリア……あんな子まで一緒に行ったの?」


「まあそれが養成所からの要請だったからね。あ、もちろんお兄ちゃんも一緒だったよ」


「全部で9人……少なすぎるわ……」


「んで途中でルツの姐御が合流して、全部で10人になった!」


「姐御って、どう見てもイザベルさんより年下でしょう」


年下と聞いてルツがベールの下でニヤリと笑う。


「ああ、姐御はちょっと普通の人じゃないから」


「えっと……東の森の大賢者って知ってる?」


大賢者。その単語を聞いて両親が顔を見合わせる。


「ああ。もちろん知っている。私のような引退した狩人の間でも有名だし、何でも今回の騒動を収拾できたのも大賢者の協力があったからだと。まさか……」


「あの、それ私達です。あとこちらが大賢者のルツさん。これでも七百……何歳だっけ?」


「七百と飛んで十四歳じゃ。まあ驚くのも無理はないがの。聞いておればキャンキャンと、やはり矮小な人間種じゃな」


「あなたが大賢者!?」


まあそういう反応になるよな。


◇◇◇


ルツが大賢者であること、そしてネクロファゴ騒動を終息させたのが俺達であることを知ったアリシアの母はすっかり黙ってしまった。それどころか額に脂汗を滲ませて俯いている。

それを気にしたのだろう。アリシアの父であるルイスが地下の書斎へと誘ってくれた。

場所を変えたのはルイス ガルゼスとルツ、イザベルと俺だった。アリシアは母を気遣ったのか階上に残り、アイダも同席を申し出てくれた。

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