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213.校長に報告する(9月6日)

ひとしきり歓待の声が落ち着いたところで、俺達は席に着いた。校長室の大きな机、お誕生日席というか議長席は当然この部屋の主たるサラ校長であるべきなのだが、何故かルツが自然とそこに座った。結果的にルツの右手側にサラ校長とダナさんが、左手側に俺がポツンと座る。いつもなら俺の隣にはアイダやアリシアがいてくれるのだが、とても心許ない。


俺はアルカンダラを出てからの事を極力写実的に且つ端的に報告した。ルイサの背中と踝に白い翼が生えたこと、その後から彼女が魔法をある程度使えるようになったこと。マルチェナとエシハ、近隣の村々の解放、テハーレスの壊滅、そしてルツとの出会い。

ルツが取り押さえたマグスニージャルと名乗る男達の話を聞いて、これまで黙って眉間に皺を寄せていたサラ校長の表情が一層険しくなった。


「そう。控室に留め置いているのね。ダナ、バルトロメに地下牢へ連行するよう伝えて。その前に入念に身体検査をさせてちょうだい。自害も逃亡も絶対に許さないように」


「わかりました。あの人なら上手くやるでしょう」


「ふむ。あやつは泣き虫だが拷問吏としては優秀じゃったからの」


拷問吏ね。身長は俺より少し高いぐらいだが身体の厚みは優に倍はある偉丈夫は、スキンヘッドの風貌も相まって威圧するという意味で適任かもしれない。ソフィアの禍々しいまでの美しさとはある種の対極に位置している、そんなバルトロメが男達を拷問に掛ける姿をぼんやりと想像しながら、校長室を出て行くダナさんを見送った。


◇◇◇


「さて、カズヤさん」


サラ校長の声で我に返る。


「マグスニージャルなる者達を捕らえた。これで吸血鬼(バンピロー)騒動は終息すると考えていますか?」


「元凶は断てると思います。ただし屍食鬼(ネクロファゴ)が一体でも残っている限り終息は無理です」


「そうですよね……。大賢者様、あの地域の被害状況を把握なさっておいでですか?」


「うむ。マルチェナとエシハ、テハーレスについてはカズヤが言ったとおりじゃ。ロンダとグラウス、それにグラウス近郊の村については、まあ状況は変わらん。生き残りはいることはいるが、もう数は少ないな」


「それでは急ぎ解放せねばなりませんね」


「まあそうじゃの。儂もカズヤと共に行くのだから、カズヤの意思に従う。生きている者が居なくなれば、ネクロファゴはじきに倒れるだろう。奴らは生きた人間から直接魔素を補給しなければ、まあ俗に言う吸血じゃが、そうせねば一月もせずに死に絶えるようじゃ。それまで待つもよし、僅かに残る生き残りを救うために動くもよし。どうするのじゃ?」


どうすると言われても、座して待つという選択肢は初めから無い。俺はもちろん、娘達もそんなことは望まないだろう。

気丈なカミラが泣き縋っていたあの夜を思い出す。誰もが精神的に参っているのは確かだが、ここで立ち止まって後悔するよりも進む事を皆は選ぶはずだ。


「助けられるかぎりは助けたい。ルツ、力を貸してくれ」


「そう言うと思っておったぞ。実は既にゼエヴとアタレフの数を増やして残りの街と村に遣わしておる。今夜には状況がわかるはずじゃ」


ルツの使い魔であるオオカミとコウモリか。数を増やしたと言うことは、神域を守るという百のオオカミと千のコウモリ以外にも使い魔を使役できるのだろう。まさか前に狩った一角オオカミもルツの使い魔だったということはあるまいな。


「それとマグスニージャルの目的ですが、エラム帝国復興を目論むのと魔物の手引きをしたりばら撒いたりする事にどんな関係があるのでしょう。辺りの人々を根絶やしにしても、帝国が復興するとも思えませんが」


「ふむ。サラよ。エラム帝国が、あの強大な魔法帝国が滅んだ理由をお主は知っておるか?」


「魔法が使えなくなったから、というより魔素が大地から尽きたからだと聞いています。だからこそ我が国を含め以降の国家は、こと国防においては魔法に頼り切りにならぬよう、騎士団と国軍、衛兵には魔法師や魔導士は配しておりません」


「そのとおり。もっとも王国魔法師は活動しておるようじゃが、まあそれも当然じゃな。上手くすれば魔法師一人で一軍を殲滅することも可能なのじゃ、使わん手はあるまいて」


「それで、帝国を復興するのに何で人々の犠牲が必要なんだ。まさか……」


言いながら思い当たる節がある。魔物は心臓の位置に魔石を持っている。その魔石が魔力の供給源なのだ。では人間はどうだ。魔法が使える人間、例えば俺や娘達の心臓は魔石などではない。ならば俺達人間はどこに魔力の供給源がある。ルツは先程“生きた人間から直接魔素を補給する”と表現した。まさか人間の血液に魔素が大量に含まれると言うのか。


「血じゃ。人間の血、魔物の血、とにかく血を大地に注いで魔素を満ち溢れさせる。そうすれば強力な魔法が使えるようになる。魔法が使えなくなったから帝国が滅びたのならば、魔素を満たして魔法を使えるようにさえすれば帝国の復興も容易だろう。そう考えておるのじゃ」


「いや、そんな事をしても復興は出来ないだろう。血統はどうする。奴らにとって血筋は関係ないのか」


「そこで古の大魔法の出番じゃ。サラ、サラ アラルコン マルティネス。貴様の王家にも伝わっておるじゃろう。召喚魔法が」


サラ校長が形の良い眉をピクリと跳ねさせる。


「大賢者様、その名は……」


「捨てたか?じゃがカズヤを巡検師に任じたのは、正しく自身が王家に連なる者としての自覚故のことじゃろう。わざわざ徽章を大事に持っておったのもその証拠じゃ」


王家に連なる者か……カミラはサラ校長の事を王妹殿下と言っていた。現国王の妹、場合によっては至尊の冠を戴くやもしれない立場ということだ。

ルツが追い討ちを掛けるかのように続ける。


「奴らは十分に魔素が満ちれば、召喚魔法で帝室に連なる者を探し出すつもりだろう。或いは過去に帝位に着いた者の霊魂を呼び出し復活させるのかもしれぬ。あとは街一つを滅ぼすような大魔法、例えば星降りを使って既存の国家を滅ぼせば終いじゃ。国防に魔法を重視していない今の国々ならば、まあ一年と持つまい」


隕石墜(メテオフォール)。もし実現すれば街一つの被害では済まないかもしれない。


「カズヤはどうするか決めたぞ。貴様はどうする。国家存亡の危機、いや、この王国だけではない、大陸全土の危機やもしれぬ。ここであの奔流(マブール)が起きてみよ。街が幾つも滅びておっては抑えきれぬ。すぐにタルテトスの喉元を食い破られ、近隣諸国にも襲いかかるぞ」


サラ校長はルツの言葉を噛み締めるかのようにじっと机を見つめていた。

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