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18.河原で野営する(5月3日~5月4日)

ゴブリン達を倒した場所から多少北西に向かった先に、川幅5メートルほどの川が流れていた。

小川かと思っていたが、清流と言ったほうが正しいだろう。

澄んだ水中にはたくさんの魚が泳いでいる姿が見える。


川の対岸には河原が広がり、一段上った先は草地になっている。河原はキャンプ地としては適当ではないが、森で野宿をするよりはいい。


川の水深は中央部でも30センチほどだった。

川を渡り、テントを張る場所を決めたあとで、娘達3人を水浴びに向かわせる。

もちろん着替えとタオルは持たせた。着替えを忘れて恥ずかしそうに呼ばれるイベントなんて期待してない。


テントを張り終えても、3人が戻ってくる気配はない。

ドーム型に張った結界防壁の中で遊んでいるようだ。

探知魔法を周囲に打つが、特に魔物の気配はない。


夕食用に釣りでもするか……


フライフィッシングセットを取り出し、手早くセットする。

時刻は夕方。セオリーどおりならドライフライのタイミングだろう。


瀬からプールに続く流れに向かって、パラシュートフライの#12をキャストする。

白波が立つような流れから、緩やかな流れに変わる瞬間のポイントで、水面が割れた。

反射的にあわせた5番のロッドが大きくしなる。


気持ちいいい引きを見せたのは、20センチを超えるパーマークの美しいヤマメに似た魚だった。


パラコードで作った即席のストリンガーにヤマメを通し、次のキャストに移る。



ほぼ入れ食い状態で、合計8匹のヤマメを釣り上げた。


テントの方では、娘達が焚火の用意をしていた。

3人とも家で着ていた短パンにTシャツを着ている。

軽装だが、寝る時には寝袋に入るし大丈夫だろう。


「うわあ!大きな魚ですね!食べられるんですか??」

駆け寄ってきたアリシアが目を輝かせている。


「毒があるようには見えないが、誰か知ってる人!」

誰も手を挙げないから、多分大丈夫だろう。


「それなら私が調理します」

そう言ってアイダが手を出してきた。

ん??アイダが??


「カズヤさん!アイダは旅先での料理が上手なんです。旅の間の食事はアイダに任せっきりで」

そうなのか?なんだか……


「意外ですか?よく言われるのでお気になさらずに。こう見えても花嫁修業は修めていますので」

アイダが少し膨れている。

いや意外だなんて、そんな失礼なこと考えていなかったからな。


大人しくアイダに釣ってきたヤマメを渡す。


アリシアとイザベルが何やらアイダと打ち合わせしている。


じゃあこの間に米を研いで、ついでに水浴びでもしよう。

米も飯盒もアリシアがリュックに放り込んでいるのは見ていた。



そう言えば魔法で収納された物は誰にでも取り出せるのだろうか?もしそうなら、リュックを盗まれでもしたら大ピンチだ。理想的には収納した人か、許可された人にしか取り出せず、それ以外のヒトには空にしか見えないなんていうのが理想だ。



「え?収納魔法ってそういうものらしいですよ?」


串焼きのヤマメに齧り付きながら、アリシアが教えてくれた。

さっきの打ち合わせは、串に使う竹か太い笹を取ってきてとアイダが頼んでいたらしい。

辺りはすっかり暗くなり、焚火のオレンジ色の光が娘達の顔を照らしている。


「何でも、魔法を掛ける際に取り出せる人を限定できるらしいです。だから、その人以外が袋を覗いても、ただの空の袋にしか見えないって先生が言ってました!」


「ん??じゃあリュックの中身はお前達は取り出せないのか?」

いや、さっき自分達で着替えやらタオルを取り出していたし、洗った洗濯物はパラコードを使って干していた。


「いえ、私達は普通に取り出せました。ちょっと試してみますか?」

アイダが飯盒の蓋によそった白飯をもぐもぐ食べながら、先ほどゴブリンから回収した袋を空にする。

オーガもゴブリンも袋を下げていたから、硬貨と魔石でちょっとした稼ぎになったと娘達は喜んでいた。


「カズヤ殿。この袋に収納魔法をお願いします。私とイザベルを除外してみてください」


「わかった」


アイダから袋を受け取ってはみたものの、そんな細かいことを言われても困る。

要は念じればいいのだろう?


「それでは、小鬼から回収した魔石を入れてみてください」


はいはい……と。赤い魔石を一つでいいだろう。


「イザベル。先ほどカズヤ殿が入れたはずの魔石を取り出してみて」


イザベルが俺から袋を受け取り、袋の中を覗き込む。


「あれ?ただの袋だよ?何もないなあ……お兄ちゃん!魔石ちゃんと入れた?こっそり隠したでしょ!」


アイダがイザベルから袋を受け取り、今度はアリシアに渡す。


「うん。リュックと同じ、中は真っ黒だね。魔石はっと……あったよ!」


アイダが袋から魔石を取り出す。


「とまあ、こんな感じのようです。私も初めてなので、これが普通なのかはわかりませんが」


「なるほどな。とりあえず全員の財布にでも収納魔法を掛けておくか?」


「サイフ??」

アイダとアリシアが顔を見合わせる。


ああ……硬貨は布袋に入れて腰にぶら下げるか背負った荷物に入れるのがセオリーだったか。何でもない。気にするな。


「それはそうと、ようやく魔力が回復した気がします。何だかこのコメ?というものに、魔素が多く含まれている気がするのですが……」

アイダが首を傾げている。


「そうなんだよね!この間のお粥で食べたときは、全然そんな感じなかったのに、今日のコメには魔素がたっぷりな気がするんだよ。カズヤさん何かしたんですか?」


「そういえば!魔力切れになったアリシアに指を吸わせてたんでしょ?これもお兄ちゃんが準備したから??」

イザベルがいらんことを言う。忘れてくれるとありがたいんだがなあ。


この米は自宅にあったものだから、以前のアリシアの話では魔素は含んでいないはず。

米を研いだ水は川の水を使った。流石に川の水で炊くのもどうかと思い、水魔法で生み出した水で濯いで、そのまま水加減をして炊いた……あれ?まさかこれか??


「カズヤさん!それです!!」

手順が口に出ていたようだ。

アリシアが詰め寄ってくる。


「まさか……魔法で生み出した水で魔力が回復するなど、聞いたこともありません。まさかアリシアの言っていた特異体質というのは本当なのですか?」

アイダまで詰め寄ってきた。


「もう!魔力が戻ったんだったらいいじゃん!お兄ちゃんを困らせないの!」

イザベルはいい子だ。お兄ちゃんは泣いちゃいそうだ……


「それよりも私はそろそろ眠たいよ……」

イザベルが食事もそっちのけで舟を漕ぎだした。

本当は数日間は体力の回復に努めたほうがよかったはずなのだ。無理はさせられない。


食事の片付けと夜間の見張りは俺とアリシアで行うことにして、アイダとイザベルには休んでもらう。

2人を早々にテントに追いやり、飯盒を川の水で洗って片付ける。

川まではアリシアが光魔法で作った灯と一緒についてきてくれた。


「なあアリシア。俺が使う武器について、何か分かったか?」

川からテントへ戻る途中、一緒に歩くアリシアに尋ねる。


「さっきの戦いの時にですか?もう怖くて怖くて、それどころじゃなかったです」

それもそうだ。ゴブリン達を前にして、アリシアもアイダもイザベルも怯えきっていた。


「でも雰囲気とか音から察するに、風魔法と火魔法の組み合わせのような気がします。ちょっと私にも触らせてください」

焚火の前に転がした丸太の隣に座ったアリシアが手を出してきた。


今背中に背負っているのはMP5Kだ。いくらコンパクトとはいえ、G36Cを背負って洗い物をするのは嵩張る。

レッグホルスターに装着していたM93Rも、出番がなさそうだからホルスターごと外して収納している。

すぐ渡せるエアガンはUSPぐらいしかない。


ヒップホルスターに差していたUSPを抜いてアリシアに手渡す。

実銃はドイツの名門が開発した軍用自動拳銃。日本人の体格にも握りやすいコンパクトなグリップと、グローブを付けたままでも引きやすい大きめのトリガーガードが気に入っている。

もっとも俺は日本人の中では体格がいい方だから、あまり大きさは気にならないのだが。


「意外と軽いんですね。魔道具かと思っていたのですが、これ自体からは魔力は感じられません。とうことは、発動する瞬間に秘密が……カズヤさん。これって私にも使えますか?」


「どうだろう。発射だけはできると思うけど……」


アリシアが目を輝かせる。

「カズヤさん!明日試してみてもいいですか?アイダちゃんは剣が使えますし、イザベルちゃんは弓の名手です。でも私は武器らしい武器をちゃんと使えません。だから……」


「わかった。じゃあ明日試してみよう。今日はもう寝ろ。疲れただろう?」


「そうですね……たくさん泣きましたから。あの……」

アリシアがアイダとイザベルが寝ているテントと空のテントを交互に見ながら、何やら言いよどんでいる。


「あの!傍にいてもいいですか?二人を起こすのも悪いですし、その……」


心細いか。


空のテントからエアマットと寝袋を持ってくる。

焚火とテントの間に場所を移し、地面にエアマットを敷いて、その上に寝袋を重ねる。

俺の尻の下にもマットを敷いて胡坐をかくと、寝袋に入ったアリシアが俺の膝の上に頭を乗せてきた。


「えへへ……いいでしょ?眠るまで頭を撫でてくれたら喜びます」

やれやれ……イザベルを甘えんぼだと言っていたが、どっちが甘えんぼなのやら。


結局その夜、アリシアの頭が俺の膝から動くことはなかった。

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