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12.洞窟を再調査する①(5月2日)

ようやく落ち着いたアリシアが、ベランダの床にしゃがみ込んだまま俺の足に縋り付いてきた。


「カズヤさん!改めてお願いです!もう一度あの洞窟に一緒に行ってください!あの洞窟をちゃんと調査しないと、アマドやクレト、レオンやアイダ、イサベルに顔向けできません!遺品も回収したいですし、できることならあの洞窟を封印したいです!お願いします!何でもしますから!」


アリシアはそう言いながら半泣きで俺の股間の辺りに顔を埋めてくる。

たぶんわざとではない。たまたま位置がそうなっただけだろう。とはいえ刺激が強すぎる。

20代前後など、多少の刺激で身体の一部が反応するものなのだ。


「わかったわかった。ちゃんと手伝うから。どうする?今すぐ行くか?」

まだ時間は午後2時ぐらいだ。今から行っても暗くなる前に戻ってこれるだろう。


「え……今からですか?私さっきので魔力使い果たしてしまいました……」

このバカチン。ノーコントロールで魔法をバカスカ撃つからだ。


「あ!確か淫魔って男性から魔力を吸い取ることができるんですよね!男性の魔力って……そこから出るってアイダが言っていました!カズヤさん!私に魔力を飲ませてください!!」


だ!か!ら!!その発想から離れろ!

すがりつくアリシアの額にデコピンをお見舞いする。


が、アリシアの額を弾いて仰け反らすことに成功した俺の手は、アリシアの両手でしっかりと掴まれ、中指がアリシアの口の中に吸い込まれていった。


そのままアリシアの舌が俺の中指に絡まってくる。

目を閉じて一心不乱に俺の指を吸うアリシアが、ちょっと愛らしい。

あれか、母性本能的なやつだろうか。


アリシアの上顎にある口蓋皺襞こうがいすうへきのザラザラが気持ちよくて、つい指先で悪戯する。

アリシアの目がトロンとなって、全身を一度ビクッと振るわせてから満足げに指を離した。

その瞬間、何かが体内から抜けていく感じがした。今のが魔力を吸われる感じか。


「たぶん魔力が戻りました!いつでも行けます!」

やれやれ。調子のいい子だ。


「カズヤさん特異体質なんでしょうか?魔力を人に与えることができる??」

指を吸わせてか?なんか気持ち悪い体質だぞそれ。

とりあえず口元の涎を拭け。そして俺に手を洗わせろ。


結局、装備だけ整えて洞窟に向かうことにした。


アリシアの着ていた服は浴室乾燥機で乾いてはいたのだが、俺が着るBDUと同じものを着たがる。

とりあえずインドアフィールド用の法執行官スタイルを着せてみる。濃紺の上下に同色のヘルメット、黒い編み上げブーツといった具合だ。


さすがに身長150cmそこそこだと、上着の袖もウエストもぶかぶかだが、バストとヒップはジャストサイズらしい。

数年後にはどんな体型になっているか恐ろしい。


上着の袖を折り返し、ウエストのアジャスターを締め上げて、更にベルトを付けさせる。

何でズボンの裾はあまり余ってないんだ?


「アリシア、靴のサイズって何センチだ?」


「25センチですけど」


何気なく聞いた質問の答えに驚く。

ん?今25センチって言ったか?

まさかのセンチメートル法なのか??


DIYセットから巻尺を取り出し、裏返してアリシアに渡す。


「1メートルってわかるか?ちょうど1メートル分引き出してくれ」


「え……これぐらいです」


アリシアが引き出して見せた長さは、正しく1メートルちょうどだった。


これはいい。度量衡の基準が同じなら相当助かる。

いちいち換算しないと理解できないようでは困るのだ。


それはさておき、編み上げブーツは27.5センチだ。

余る2.5センチは詰め物でもしておこう。


あとは…


「アリシア、得意な武器は何だ?訓練学校では一通り修練するんだろ?」


「あ…あははは…何でも使えますよ!」


うん、この反応は何でも使えるけど人並み以下って時の反応だな。

まあいい。アリシア自身が武器を振るうような事態になれば、どのみち俺も無事では済まない。


「とりあえずゴブリンの武器を使うぞ。ナイフと槍でいいな」


アリシアの腰にナイフをぶら下げ、小振りの槍を持たせる。


俺の装備は昨日と同じ、フラッシュライトを取り付けたG36CとUSP、ヘッドライト付きのヘルメット、ミリタリーリュックには予備のバッテリーとBB弾、水糸のリールとペグ、パラコード、折りたたみショベル、水のペットボトルに携行用食料を放り込んだ。


そういえば昨日回収した真っ黒な杭状の魔石らしきものは、さっき見ると無色透明な水晶のようになっていた。帰ってきたらアリシアに見せよう。


「よし、じゃあ行くぞ」


アリシアに声をかけ、玄関から外に出る。


玄関の鍵を閉め、慎重にトラップを乗り越える。

ついでにトラップの事をアリシアに教えた。


「この透明な糸に触れると、こっちの道具のフタがカパッと開いて、中から何かが飛び散って魔物を倒すんですね!すごい魔道具です!」


魔道具ねえ……まあいいか。

そういえば何故ただのBB弾が魔物に当たると炸裂するのか、まだ解明できていない。

アリシアが探知魔法を使えるなら、発射した瞬間からトレースすれば何かが分かるだろうか。


自宅の門を出た所で転移魔法の扉を開く。

雨足は弱まっているが、サクッと行ってサクッと帰ろう。


アリシアはと見ると、何やら家に向かってブツブツ言っている。アリシアがパッと両手を広げると、一瞬家の周囲を白い壁が取り囲んだ。


「一応結界防壁を張りました!これでこの家は魔物には見えませんし、近寄ってきても小鬼程度なら跳ね返します!」


「そうか。それは安心だ。ありがとう」


「えへへ〜お安い御用です!」


自宅に結界を張るか。全く考えつかなかった。



転移魔法の扉の向こうは、昨日入った洞窟の入り口。

転移魔法を閉じて、洞窟に入る。

もちろん入り口にペグを埋め、水糸を伸ばしながら進む。アリシアにも万が一の時にはピンクの水糸を辿って地上に戻るよう言い聞かせてある。


しばらく進むと、アリシアを助け出した部屋にたどり着いた。天井部の空気穴からの光は今日は薄暗い。


アリシアが光魔法を行使する。

直径30センチほどの光球が現れ、ちょうど白熱球のように辺りを照らす。


部屋の中心部には……ゴブリン達の亡骸は無かった。

5メートル四方の部屋の壁には、ゴブリン達に襲われ連れ去られたと思われる女性達の遺体がぶら下がっている。

とりあえず遺体を全て下ろし、床に寝かせていく。

だがこの遺体の中には、アリシアの仲間はいないようだ。

どういうことだ。この洞窟以外にもゴブリンの巣のような場所があるのだろうか。


「カズヤさん!あちらの隅に細い通路があります!その奥に小鬼達が集めた武器や宝石があるはずです」


アリシアが何かを見つけた。そういえば前回この洞窟からアリシアを連れ出す直前にも、同じことを言っていた。この場所が洞窟の最深部ではなく、更に奥にヤツらは潜んでいるということか。


幅1メートルほどの細い通路を抜けると、両側に部屋が並んだ幅2メートルほどの通路に出た。

部屋といっても各部屋の横幅は2メートル弱。通路に面した側には荒い鉄格子が嵌っている。

これは部屋というより独房だ。


地下の独房か……いよいよダンジョンっぽくなってきた。


先ほどの部屋への入り口脇の壁に、大きな鍵束が架かっていた。

鍵の数は10個。一個が手の平サイズで、直径1センチほどの鉄の棒の先端に突起がある古典的な鍵だ。


アリシアに鍵を持たせ、ジャラジャラ音がしないようにしっかりと握らせる。


光魔法の光度を薄明かり程度まで落とし、G36Cに取り付けたフラッシュライトで独房内を照らしながら、一部屋づつクリアリングしていく。


手前の独房は空だった。

奥にも空の独房が続いたが、9室目と10室目に何かがある。


ボロ布が巻かれたような人間サイズの……いや人間か。


アリシアが独房の鉄格子に飛びつき、もどかしい手付きで鍵を探す。


5本目か6本目で正解を引き当て、鍵を開けて独房内へ飛び込む。


「イザベルちゃん!しっかりして!」


イザベルと呼ばれた少女は、うつ伏せのまま動かない。

独房の扉に折り畳みショベルを引っ掛けて固定し、独房内に入る。


倒れている少女の首筋に触れると、微かに脈がある。


「アリシア、とりあえず通路に運ぶ。介抱するのはそれからだ」


「はい!」


少女を通路まで運び、仰向けに寝かせて治癒魔法を掛ける。

怪我の詳細が不明だが、とりあえずの生命の危機は脱しなければならない。


アリシアが反対の独房の鍵を開け、中に入った。


「アイダちゃん…アイダちゃん!」


こちらもアリシアの仲間だったようだ。

アイダと呼ばれた少女は頭から血を流し、ピクリとも動かない。

こちらもまだ脈がある。

イザベルと同じように通路に寝かせ、治癒魔法を掛ける。


二人の意識が回復するまで時間がかかりそうだ。


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