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128.盗賊殲滅戦②(6月25日)

エギダの黒薔薇。カミラ先生の通り名なのだろうか。

だとすれば、その意味する事は何だろう。

孤高のヒラソルとか純白のローサといった仇名は、娘達の態度と見た目を表したものだ。

黒薔薇とはカミラ先生の見た目か?確かにカミラ先生の髪は真っ黒だが。とすればエギダとは何だ。


◇◇◇


いかんいかん。今は作戦行動中だ。

両替屋の正面に戻った俺達は、宿屋の屋上と僅かに開いた2階の窓に手を振って娘達に無事を知らせてから、両替屋正面入口からの突入を図る。


「こっちも閂が下されているね」


ノエさんが短剣を扉に突き立て、自らの固有魔法を発現させる。

熱したナイフをバターに触れさせるように、易々と重厚な扉が切り開かれる。

直後にスキャンを放って1階部分の賊の位置を特定する。賊は2人。少ないが見張りか。


音もなく切り裂かれた扉からAT弾を撃ち込む。イザベルの“必中”とまではいかないまでも、スキャンで敵の位置が判明しているのだ。角度と距離が分かっていれば、当てるのはそう難しい事ではない。


室内が静かになるのを待って、内部への進入を開始する。

先頭は俺、二番手がカミラ先生、殿がノエさんだ。

カミラ先生が持つ槍の穂先に光魔法の灯りが燈る。

室内は広いホールになっており、奥にカウンターがある。そのカウンターの前に2人の賊が倒れていた。2人とも剣を半ば抜いてはいるが、俺達への脅威とはなり得なかった。

カウンターの手前にはソファーとローテーブルがあり、カウンターの奥には上階へと続く階段がある。地下室への入口はこの位置からでは確認できない。

天井は高く、優に3mはあるだろう。室内で剣を振り回しても支障はなさそうだ。

扉から10歩ほど入った中央部にできた血溜まりの中に、1人の男が倒れている。両替屋の主人にしては若いし、身なりも質素だ。


◇◇◇


「助かりそうかい?」


倒れている男の首筋に指をあてて脈を確認する俺に、ノエさんが尋ねた。


「無理ですね。背中を一突きされています。傷口が水平ですから、心臓が切り裂かれているかと」


脈を当たるまでもなく、男は絶命している。


「こんな深夜にこの男は何をしていたんだろう。ノックされて起きてきた?」


「それにしては外出着というか旅支度を整えているようにも見えますが、武器は持っていないようです」


「武器を持っていない襲撃者ってのも変でしょう。でも抵抗した痕跡はない。賊と顔見知りか、あるいは仲間ね」


カミラ先生の推測が真実に近いだろう。江戸時代の押し込み強盗よろしく、内部に仲間を潜り込ませていたのか。


「仲間がいたとなると、賊には金庫のあり方も主人の寝室も知られていると考えるべきです。寝室は3階でしょう。そして金庫は地下、金庫の鍵は主人が肌身離さず持っているとすれば……」


「主人を襲った賊が、そろそろ降りてくる?」


「そのとおり。気配が近付いてきます。6人です。それ以外の気配は寝室らしき部屋に残っています」


「了解。探す手間が省けるってものさ。片付けよう」


ノエさんがニヤリと笑って、ソファーへと移動した。俺とカミラ先生も釣られて移る。

まあ隠れる場所もないし、中途半端に隠れても次の行動に移しにくくなるだけだ。


◇◇◇


カミラ先生の光魔法を消して、盗賊の登場を待つ。

せっかくなので豪華なソファーの感触を楽しみながらだ。ここで酒飲みならばブランデーの一杯も欲しがるのかもしれないが、生憎と血の臭いの中で嗜む気にはなれない。

思えば魔物の死骸や人間の死体を見ても、さほど動揺しなくなっている。この世界に馴染んだのか、或いは何処かが壊れたのだろうか。


「おらっ!キリキリ歩け!嫁と子供の命が惜しくねえのか!」


典型的な悪役の台詞を口にしながら、盗賊達が下りてきた。光魔法のトーチを掲げた男が2人、その後ろから猿轡をされた小太りの男が両脇を抱えられ、更にその後ろには大柄で髭を生やした男が続く。


「そう急かすなよセベロ。こいつが死んじまったら金庫の鍵を誰が開けるんだ」


「しかし普通の鍵じゃなくて魔錠とは洒落てやがる。たっぷり稼いでるに違いありませんぜリカルドの旦那!」


どうやら大柄の男が盗賊のリーダー格のようだ。名前はリカルドか。


「おい。テオとセベが倒れてるぞ!」


1階まであと数段の所で異変に気付いた2人が、一斉に剣を抜く。

暗がりにいる俺達の存在には未だ気付いていないらしい。指向性のないトーチで照らされるのは、頭上まで掲げてもせいぜい直径2mといったところだ。


「ちっ。御同輩がいるのかよ。おい!どうせ近くにいるんだろ!隠れてないで姿を見せろ!」


リカルドと呼ばれた男も剣を抜いて、両替屋の主人らしき男に剣を突き付ける。

このまま隠れていると、人質が危ないか。


◇◇◇


「あらあ?その声はリカルド?独立偵察隊第2中隊にいたリカルド デュランかしら?」


カミラ先生が槍の穂先に光魔法を灯して立ち上がる。


「やっぱりそうね。5年前のバルバストロで同じ部隊にいたイネス カミラよ。覚えてないかしら?」


「イネスだあ?お前みたいな小娘なんぞ、俺が知ってるわけがねえ……イネスだと……その声、まさか……」


両替屋の主人に突き付けられていた剣がカミラ先生に向けられる。


「覚えていたようね。それで、あんたは自分が何をしているのか、わかってるのかしら?」


「何って、見りゃわかるだろ。こいつがしこたま溜め込んだ金をごっそり頂くのさ。お前だって同じだろ。お前さんが御同輩になっているたあ、ついぞ思わなかったけどな」


リカルドはカミラ先生に剣を向けたまま、ジリジリと扉に向かって移動する。


「そんなの見れば分かるわ。そうじゃなくって、あんたが誰に剣を向けているのか分かってんのかって話よ。ねえ、弱虫で裏切り者のリカルド」


どのような因縁があるかは知らないが、カミラ先生に“弱虫で裏切り者”と呼ばれた瞬間に、リカルドの負のオーラが増大した気がする。


「弱くなんかねえ!俺には、俺には力があるんだ!俺はもう昔の俺とは違うんだ!」


「ふーん。じゃあ一戦交えてみる?ノエ、灯りをよろしく。イトー君は奴らが逃げ出さないようにお願いね」


壁沿いに取り付けられたランプをノエさんが点灯させる。昼間のようにとはいかないまでも、お互いの姿はこれではっきりと見える程度には明るくなった。


「お前ら手出すんじゃねえぞ。俺はこいつを倒して、もっと強くなってやる!」


リカルドの言葉に手下達が下がる。相手を打ち倒せば経験値が入ってレベルアップするかのような言い方だが、そんな素敵なシステムではないのは、これまでの経験で確認済みだ。となるとリカルドが言っているのは精神的な意味でだろう。彼にとってカミラ先生はよっぽどの精神障壁なのだろうか。年齢雰囲気も違う2人にいったい何があったのやら。


「御託はいいから掛かってきなさい。あんたにそんな勇気があるならね!」


短槍を左半身に構えて、カミラ先生が挑発する。

その姿は槍使いというよりも杖術使いのように見える。


「うらあああ!」


気合とともにリカルドが上段から打ち込む。

次の瞬間、カミラ先生の半径3mほどの空間が揺らいだ。


◇◇◇


結果だけ記すと、カミラ先生とリカルドの勝負はただの一合も打ち合うことなく勝負がついた。

リカルドの長刀ごと、彼の両腕がただの一閃で切り落とされ、返す柄で吹き飛ばされたのである。

暗闇の中から飛来する矢を撃ち落とす技を持つカミラ先生の相手をするには、いくら首領とはいえ一介の盗賊には荷が重すぎたらしい。


リカルドは石造りの壁に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。

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