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108.トローの探索②(6月18日)

イザベルが手にした短剣の柄部分で足跡の輪郭を軽く叩くようになぞり、更に鮮明に浮かび上がらせる。

人間と同じ5本指の足跡だが、親指が内側に大きく突き出している。

そして特筆すべきはその大きさだ。

ブーツを履いた俺の足の倍近くはある。

成長したゴリラの足のサイズはおよそ30cmほどらしいから、体格はその倍という事だろう。

足跡だけ見てもイザベル達が巨人と表現するのも理解できる。


「イザベル。跡を追えるか?」


「たぶん。ビビアナも手伝ってよね」


「わかりました。イトー殿。私とイザベルさんで先頭を行きます」


「わかった。後続はノエさんとアイダ。殿は俺とアリシア。今回はスキャンを使うからそのつもりでいてくれ。総員戦闘準備」


ビビアナはまだ何か言いたげではあるが、それをグッと呑み込んで任務に向かおうとしている。俺も大人として、指揮官として、相応の態度を示さねばならない。

既に日が傾き始めているが、せっかく見つけた手掛かりを失うわけにはいかない。

俺達はイザベルとビビアナを先頭に歩き出した。


◇◇◇


「ねえ。足跡の数が増えてない?それに臭いもする」


「そうですね。巣が近いのかもしれません」


小休止の最中にイザベルとビビアナが話し合っている。

足跡をずっと辿ってはきたが、足跡以上の確実な痕跡は発見できないでいる。

だが、何か大型生物の糞がそこかしこに落ちているようになってきた。

ビビアナの言うとおり奴らの巣が近いのかもしれない。


スキャン上には魔力反応は無い。無さ過ぎて気持ち悪いぐらい、静まり返っている。

そういえば巣とは何だ。

ゴリラを大きく超えるような魔物が団体生活を送れる場所。まさか巨人族の集落のようなものが山奥にあるのだろうか。


「ビビアナ。奴らの巣っていうのは見た事があるのか?」


「いいえ。直接には見た事はありません。ですが文献によると、森の木々を切り開いて平らな場所を作って、草や木の枝を敷いた寝床を作っているようです」


「大規模な群れは洞窟に巣くう事もあるって教わりました」


なるほど。ビビアナとアリシアの話を聞く限りでは、さほど文明水準は高くないと思われる。

少なくとも重武装しているという可能性はなさそうだ。


「わかった。二人ともありがとう。その巣までの距離は見当は付くか?」


イザベルが頭を振って答えた。


「私は正直見当もつかないわね。ビビアナはどう?」


「私にもよくわかりません。気配は強いのですが、逆に強すぎて混乱するというか……」


そうか。足跡を辿ろうにも、その足跡がまっすぐ巣に向かうとは限らない。足跡がいくつも交差するなら尚更難しくなるだろう。


「お兄ちゃんのスキャンの反応は?」


「俺の方にも探知はできていない。小物の魔力反応が無いのが逆に気になるくらいだな」


「レーダーってのは使えないの?」


「危険だと思う。オンダロアへ向かう船上のような事が起きないとは限らないからな」


「確かにね。森の中で四方八方から急襲されたら、こっちが危ない」


イザベルの言葉に、ティボラーンの襲撃を受けた記憶が蘇ったらしいアイダとアリシアが頷く。


「それなら提案だけど、いいかな?」


ノエさんが控えめに手を挙げる。


「トローの手掛かりは掴んだわけだし、今日は安全圏まで引き揚げてはどうだろう。イトー君さえ協力してくれれば、この場所には戻ってこれるわけだよね。このまま日が暮れれば更に危なくなる。そんな危険は冒さなくてもいいと思うんだ」


ノエさんの提案はもっともだ。俺だってゴリラの魔物のテリトリー内で一夜を明かす勇気はないし、イザベルとビビアナも顔には出さないが疲労がピークに達しているはずだ。

疲労や疲労から来る集中力の低下は戦闘時には命取りになる。特にイザベルやアリシア、ビビアナのような魔法師なら尚更だろう。


「わかりました。そうしましょう。皆もそれでいいな?」


「あ!それならドローンを一回飛ばしてみてもいいですか?明日の探索が楽になると思うんです」


アリシアの提案に今度はノエさんが興味を惹かれたらしい。


「ドローンって、あの鳥の目のように空からの景色が見える奴だね。いいんじゃないか?」


トローの気配を追いかけて森を徘徊するよりは、上空から当たりを付けたほうが効率的か。

森の中からでどれほどの範囲を探索できるかは不明だが、真っすぐ真上に飛ばして周囲の地形を確認するだけでも何か分かるかもしれない。万が一発見されて追跡されても、転移魔法で逃げ帰ればいい。


「わかった。ドローンを飛ばそう。アリシアは操作を頼む」


◇◇◇


生い茂った木々の樹冠の隙間を見つけたアリシアが、真上にドローンを上昇させる。

高度10メートルほどで木々を抜け、一気に視界が広がった。

その先に見えたのは小高い山沿いにある崖だ。


「イザベルちゃん。方角は北東のままでいいんだよね」


「ええ。崖のほう。そのまま真っすぐ飛んで」


送信機の正面にアリシアが座り、その両脇をイザベルとビビアナが固め、アイダが後ろから覗き込む。

ノエさんと俺は更に後ろからしか画面が見えないが、ぐんぐんと崖が近づいてくる。


「アリシアさん!右のほう見せてください!そう、この辺り、木の密度が少なそうです」


「ほんとだ。アリシアちゃん。そっちに飛んで」


「わかった。高度を上げて近づくね」


俺の位置からでは送信機の画面に表示された距離は読み取れないが、そう離れているわけではなさそうだ。

すぐにドローンのカメラが薙ぎ払われた木々と黒い影を捉えた。


「見つけた。ここが奴らの巣ね」


「えっと……北北東の方角、距離はおよそ1㎞です。崖の真ん中より少し右の……ああ、そうか。こっちに川が流れてますね。だからここに巣を作ったんだ」


高度50メートルほどを維持させながら、アリシアがドローンをゆっくりと周回させる。

カメラに映る動く影は10頭ほどだろうか。

崖の裏手から流れる川沿いにゴロゴロとした石が転がる河原があり、そこから崖までの薙ぎ倒された木々の地盤には緩やかな傾斜がついているようだ。そしてその先には……


「崖に洞窟があるわ。雨風を凌ぐ場所に広い河原、流れる水。まったく、野宿をするには理想的な場所ね」


高さ20メートルほどの崖の下には洞窟の入口がぽっかりと口を開けていた。

確かに俺達がキャンプ地を選ぶとしたら、似たような地形を選ぶかもしれない。


さて、この場所をどう攻略するか。

河原から攻撃するとすれば、身を隠す場所はほとんどない。倒れた木々もしゃがんで身を隠すには小さ過ぎるようだ。

河原をぐるりと取り囲む森の中から……いや、河原と言っても小学校のグラウンドの半分ぐらいの広さはある。とてもではないが6人での包囲は無理だ。

崖の上はどうだ。ここに狙撃手を配置して、上下から洞窟の外のトローを排除。その後に洞窟に突入すれば、あるいは……


「アリシア。崖の上の状況が知りたい。飛ばしてくれ」


「わかりました。ちょっと待ってください」


ドローンのカメラが崖の上を捉えた。崖の端から3メートルほどは背の低い草が茂り、その先はまた森だ。

危なそうな亀裂や窪みはなさそうだ。


「よし。アリシアはドローンを帰投させてくれ。イザベル、崖の上から狙撃できると思うか?」


「う~ん。角度によっては狙えない奴がいるかも。ヘカートって2つないの?あったらアリシアちゃんに装備させれば、死角は半分ぐらいには減ると思う」


「あ~カズヤさん。多分私はPSG-1で大丈夫です。矢が通らないっていっても、顔面は別ですから」


真剣にドローンを操作していると思いきや、アリシアはこっちの話に受け答えしながら操縦するぐらい余裕があるらしい。


「いや、一応装備は揃えておこう。アリシア。そろそろ戻せるか?」


グサーノ戦のような手持ちの武器が全く歯が立たない恐怖を二度と味わいたくはない。

一旦アルカンダラの家まで引き揚げて、ヘカートⅡとM870を揃えよう。接近戦となればスラッグ弾を撃てるM870のほうが有効だろう。


「ドローン、戻りました!」


木々の枝をすり抜けるように、ドローンが降りてくる。

こいつが無ければ、奴らの巣を見つけるまでにあと数日は掛かったかもしれない。


「よし。全員、一時撤収。今夜はゆっくり寝ろ。明日は朝から忙しくなるぞ」


こうして2週間強を掛けたトローの探索は終わり、いよいよ挑むことになったのである。

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