89 新たな依頼~神と契約を結べ!~
時は更に3日程流れ、俺たちはリベアムール城にやってきた。
来た目的は他でもなく竜人族に対しての手厚い対応と宿屋バニランテの広告をしてくれたことに対してのお礼としてだった。リベアムール城に行くのに少し間があったのは宿屋の仕事が忙しかったからだ。バザーが初めてオープンしてから結構なお客様が来てしまったためそちらの仕事をしていたのだ。
今になってやっと仕事が落ち着いたのでモリカに行くタイミングを掴むことが出来た。
仲間のみんなはあまりの忙しさに宿屋で倒れていたため、俺単独で行くことにしたのだ。
結構久しぶりだから何か緊張する……
1人で少しびくつきながら城の門へと向かうと門兵が俺の顔を見るだけで声の張った挨拶をしてくれる。
「ケルト様!! お久しぶりでございます。今日はどう言ったご用件で?」
「お、お久しぶりです! あの、リベアムール様とお話がしたいなって思うんだけど大丈夫?」
「了解しました! こちらからお入りください!」
そう言って、大きな門の隅にある簡易的な入り口の扉を開けてくれた。
俺はお礼を言いながら、エントランスへと向かう。
すると、来客を対応するメイド達が俺に気づき声をかけてくる。
「ようこそケルト様、リベアムール様にご用がおありで?」
「はい、色々お礼を言いたくて」
「はい、でしたらご案内いたしますね」
そう言って、いつも通っている道ではあるのだが丁寧にメイドが案内してくれる。
いつも思うがリベアムールのメイドは綺麗な人が多いよなぁ……
「そういえば、ケルト様」
「は、はい!!」
ぼけっとしてた俺は話しかけられて変な声を出しそうになる。
「ちょうど良い頃合いにここへいらっしゃってくれましたね。そろそろリベアムール様がケルト様達にまた仕事の依頼を考えていると仰ってましたから」
「そうだったんですか、じゃあ今日伝えてくれるのかな?」
「そうかもしれませんね」
とうとう仕事が入る時期がやってきたか。今度はどんな仕事だろうか? ダンジョンの調査? 新しい生物の監視?
それとも新人育成の教官役とか? そんな思いを寄せてみるが多分だけど今回もハードな内容になるかも……
神から言われる仕事でろくなもなんてない気がする……
そうしている間にメイドが歩みを止める。ここは確かリベアムールの仕事部屋の前だ。今日は玉座の間じゃないんだな……
「つきました、少々お待ちを」
そう言ってメイドが扉の中に入っていく。扉の前で数秒ほど待つとメイドが部屋から出てきた。
「よろしいみたいです。お入りなってください」
「ありがとうございます、失礼します!」
そう言って俺が部屋の中へ入るとそこに居たのは束になった資料とにらめっこしているこの地方の神リベアムールがそこにいた。眉間にしわを寄せながらうーーんとうなっている様子を見ると相変わらず忙しそうである。
「こんにちは!」
「ああ、ケルトか。久しいな」
俺の方を見たリベアムールの顔が少し明るくなった気がした。
「ほんとですね! お久しぶりです!」
「ち、散らかってて済まんが勝手に座れ」
俺は言われたとおり近くの長椅子へと座った。リベアムールは自分の机の上に散らばった資料の紙を整理してから俺の目の前へと座る。
「済まない。妾の恥ずかしいところみせてしまった。ところで、そなたは今日は妾になにようだ?」
「最近、竜人族がこちらに訪れたときに荷馬車とか貰ったとか、うちの宿屋の広告支援とか色々してくれたことにお礼が言いたくてきました。ありがとうございます!」
俺はリベアムールに対してペコッとお辞儀をする。
「いや、妾はその、神として、民に当然のことをしてるまでだ」
俺のお礼を言われてどこか嬉しそうなリベアムール。まるで時々可愛いところを後輩に見せる女上司のようだ。
「だがケルト、どうしてお前とその竜人族が知り合いなのだ?」
「ああ、ええっと……それは」
ここで隠すと後で何言われるか怖かったので取りあえず本当のことを言う。
黒龍事件の事、アミュラの事、そしてケテルネスのことを手短に説明した。
「……と言うことなんです」
「ふむ……つまり、妾の知らない間にケテルネスと知り合い、1つの事件を解決していたと……」
俺の話を聞いて結構神妙な顔をしているリベアムール。
あれ? もしかして、勝手な行動したから怒られる流れ?
そう考えれば考えるほどリベアムールの顔が深刻な顔のように見えてきた。
やばい、やばい……
「ケルト……」
「は、はい!!」
リベアムールの少し低いケルトへの呼びかけに思わず肩がびくつく。
そして、リベアムールはそのまま俺の肩に手をおいた。
ああ、終わった……
そう思ったときだった、
「見事だ」
「……へ?」
「妾が指示をせずとも自ら出向いて問題を解決するその心意気、実に良いぞ。妾は主らを雇って鼻が高いぞ」
「あ、ありがとうございます」
あれ? べた褒め?
褒めてくれるような顔じゃなかったじゃん! でも、良かった……
「それにしてもケテルネスの奴もせっかちにも程がある。あれ程民の話には耳を傾けろと言っているのだが……まぁ良い。お主らが無事で帰ってきているならそれで良い」
そう言って、リベアムールは俺の頭を優しく撫でる。
俺もまんざらでもなくえへへっと照れくさく笑ってしまった。
「そう言えばリベアムール様、ここまで来るときに案内をしてくれたメイドが何かそろそろ私たちに仕事があるとか言ってたんですけど」
「ああ、そうだ。もう耳にしているのなら話が早い。次の仕事について何だが……とうとう我々も邪神エスデス討伐のために動きを見せようと思う。それに基づき、我々良神達も共同契約……言わば、邪神を完膚なきまでに打ちのめすための同盟を結ぼうとしている」
「つまりエスデスを倒すためにリベアムール様以外の5柱の神々と協力するって事?」
「うむ、こちらでは2人は承諾してくれたのだが、残り3人……そのうち1人は置いておくがケテルネスは私が出向こう。
そこで、もう1人の神との契約をお主らが結んできてくれぬか?」
「え!? そんな大役を私たちに任せるんですか!?」
「確かに、常人では神と話をする事すら難しいことではあろうが妾はお主達に信頼を持っている」
「でも! もし失敗とかしたら!?」
「心配するな、妾には分かる。お前は必ずこの仕事に成功する」
その言葉をかけるリベアムールの目はまっすぐだった。
こんな大役が務まるわけがないと思っていた気持ちがいつの間にかできるかも知れないという自信へ自然と変わっていく。
期待に応えなくてはならない。
そんな思いもよぎり、俺は縦に首を振っていた。
「うむ、承諾感謝だ。今回、契約を結んできて欲しい神の名はマキナ=グラウコービスだ。場所はこのワンス地方から北東にあるセカン地方の魔導国家ハイエロストンという場所にいる。中々のくせ者なんだが、お主らの力なら必ず心を開いてくれるはずだ。後、マキナについて何だが、少々大人数を好まない性格なのだ。そのため、今回は3人の少数部隊で向かってほしい。私から言えることはそれだけだ」
今回の仕事は初めてのパーティ選抜があるのか。そういうことなら帰ったら誰が行きたいのか募らなきゃいけないな。
きっと魔導と言うくらいだからアマ当りが反応を示すかも知れない。
なんならみんな行きたくて枠の取り合いになるかも知れない。
「ああ、忘れるところだった。これを持っていけ」
そう言うとリベアムールは青い羽根のついた首飾りを俺に渡してくる。
「これは何ですか?」
「これはハイエロストン限定の神である証拠さ。こいつをマキナのペットに見せればお主達を信用してくれるだろう」
マキナのペット? 門番みたいな物か? まあ何にせよこれを忘れると容赦なく襲いかかってくる物言いだって事は分かった。俺はその首飾りをバックの中へとしまう。
「まぁ、行ってみれば分かるさ。あそこに行けばお前達は面白い物が見れるかもしれんな。あの国家は本当に摩訶不思議だ。魔法でありとあらゆる物が動いている。技術レベルならあっちの方が上だ。社会見学にはちょうど良いかもしれぬぞ?」
「ほんとに社会見学だけで行きたかったかも知れないです」
「はははっ、期待しているぞ。それとあと一つお主に聞きたいことがある」
「何ですか?」
「……メフユと言う名を知っているか?」
メフユ……その名を聞いた時、すっかりそいつの事を忘れていたことを思い出す。
はいっと言いかけたが次の言葉で俺はその口を紡いだ。
「何やら自身を『異世界人』と名乗って地方をさまよっているらしい。少々怪しい気がするからぬしも注意するのだ」
『異世界人』だと!? なんでそうやってあいつは馬鹿正直に言ってしまうんだ……そりゃ怪しいよ……もしここで知り合いと言ってしまうと色々めんどうだと思った俺は敢えてスルーすることにした。
「わ……分かりました。変な人もいるんですね」
「ああ、もしそいつに出会ったら警戒しておくようにな」
「……はい」
メフユ今何やってんだあいつ? まぁ変なことしてなきゃそれでいいんだけど次会ったら一緒に行動するように言わないと……
さて、そんなことよりもマキナ=グラウコービス……一体どんな神なのだろうか。
色々情報は不十分だがそれはいつものこと。
メフユの事もあるが今からは新しい仕事に集中だ。
今回もお仕事頑張るぞい♪





