88 竜人たちのバザー
アミュラの仕事がまぁまぁ慣れてきた頃、とうとう竜人たちによる宿前バザーがオープンした。
宿屋にはもちろんいつも通り、多様なお客が来てくれているのだが想像以上に反響が良く、宿に泊まりに来たお客から通りすがりの旅人まで竜人のバザーを利用している。
4店舗並んだ屋台は右から旅の道具をそろえるための道具屋、竜人たち自家製の食物を売る八百屋、アクセサリーや小物などが売られている雑貨屋、そしてラミーさんによるラミーさんお手製の色んな種類の武器や防具が並ぶ武具屋さんが宿屋バニランテ前、竜人バザーのラインナップである。
さらにこのバザーと宿屋の看板となるアーチも竜人たちの有志で作ってくれたみたいで「バニランテへようこそ!」と大きく書かれたアーチも建てられたのだ。
その看板効果かよくわからないがいつもより明らかに来客者が多い気がする。
いや……多すぎだろ……
バザーだけではなくラミーの酒場もあるので酒場目当てで来てくれる人も多くいる。そのため店の前に樽のテーブルと木の椅子を設置して今日はビアガーデンのようにもなっている。
まさに宿屋バニランテがちょっとしたお祭り状態だった。
サラたちはトレイにお酒をもってあわただしくお客様に注文の品を運んでいる。仲間のみんなも宿の業務や受付の方で手がいっぱいで忙しそうであった。
俺も昼までみっちりと受付の仕事をこなしたのでガクトと受付を変わってもらい、お昼休憩に入った。
仕事の疲れがあったもののバザーがちょっと気になった俺は一店舗ずつ様子を見に行くことにした。
まず最初、道具屋さんへとやってきた。
「どうもーー!!」
「あ! ケルトさんいらっしゃい!」
道具屋では好青年の竜人が出迎えてくれた。品物は箱にそれぞれ分けられていてお祭りでよく見る屋台のような売り方だった。
それなりに種類も多く、簡易的な店ではあるが品ぞろえはモリカの道具屋に負けていない。
「売れ行きはどう?」
「もう、すごいよ! 村ではこんなに売れたことないから売ってる身としてとても楽しいよ!」
「そっか! 良かったね! ところでさ、なんで早くもこんなに人が多いの?」
「ああ、それはね~~モリカの人たちが街に宿屋バニランテの広告のビラを配ってくれたみたいで」
「ビラを!?」
嘘だろ。なにその神の使いの社員制度!? そこまでやってくれるのかよ……あとでお礼言いに行かないと……
「そ、そっかぁ~~……どおりで……」
「自分、皆さんのためにがんばりますから!!」
「うん、頑張ってねーー!!」
俺は道具屋を離れて隣の八百屋へと向かう。
八百屋には前の世界で見る。ジャガイモやニンジンのようなものが売られている。樽の中で投げ売りにされているごぼうのようなものがセール品のようだ。
ここではご婦人の方々に人気があるようでとても楽しそうに買い物をしてる様子が見れてとても良い気分になる。
ただ……一つだけ気になるものがある……
「ねぇ、おばちゃんこの……屋台の屋根にぶら下がったモンスターは何?」
店番をしていたおばちゃんに指さしたのは糸に貼り付けられた顔が無く、口だけ大きく牙が生えた、某狩猟ゲームに出てくる電気を帯びてそうな奴の顔をしたトカゲ?のようなものが何匹もぶら下がっている。
「これはね、イートワームって言う食用のミミズだよ。うちでは干し肉にして売ってるから長持ちするし焼くととっても美味しいよ〜〜」
「へ、へーーそうなんだぁ……」
「ケルトちゃん食べた事ないの?」
「うーーん、この姿では食べた事ないかも……」
「食べてみるかい?」
「……遠慮しておきます!!」
そう言いながら、俺はすぐに八百屋を離れる。
あのグロテスクな顔をそのまま食べるのはまだできないかも……
そして、そのまま隣の雑貨屋へと向かう。
そこにはノイがお店の品を整えていた。
「ヤッホー♪」
「あ、ケルト! いらっしゃい!」
「ノイ1人でお店番してるの?」
「かーちゃんが今席外してるから僕が店番してる」
「そっかーー偉いねーー」
そんな会話をしながら店の商品を見る。
奥の方にはお洒落な木のランタンが飾られており、屋根には家に飾る用の装飾がぶら下がっていた。
手前にはネックレスやブローチ、可愛い装飾の髪留めやイヤリングが飾られている。
「これ全部かーちゃんが作ったんだ」
「え!? カリンさんが!?」
「かーちゃん手先が器用だから素材を集めて色々作ってるんだ! ほら、こっちには服も売ってるよ」
ノイが屋台の後ろに俺の手を引いて連れて行くと雑貨屋台の裏は服のコーナーになっていた。
素朴な男性用の布の服から華やかな柄をした女性用のスカートやワンピースなどが売られている。
「ノイのお母さんって何でもできるんだね」
ノイのお母さんは服も作ることができるのか。もしかしたら俺たちもカリンさんに頼めば新しい服とか作ってもらえるかも。
「ノイ、今度カリンさんにお洋服を頼んでもいいかな?」
「多分大丈夫だよ!!」
よし、アポは確保しといたことにしよう。丁度仲間たちに似合いそうな服を探していたので今度、俺を含めて服を作ってもらおう。
という感じでノイに別れを告げてから隣のお店へ行く。次はラミーの武器屋なのだがラミーさんは酒場の仕事で忙しいので店番は代わりに屈強な竜人が2体店番をしている。
「こんにちはーー!」
「おっすケルトちゃん!!」
「……」
もう一体の竜人は無口なのかうなずくだけである。なんだか職人って感じだ……
店の前の箱には鉄で作られた安物の剣や槍が置かれ、樽の中には矢がばら売りされている。ただほかの店とは違う点があり店の横にも拡張してテントを張っており、そこには壁に武器がつけられている。
お客さんがじっくり武器を見れるよう工夫しているのだろう。中には俺たちじゃ到底買えない高級な武器も売られている。
「ケルトちゃんは武器は必要かい?」
「うーーん、私には神器があるから今はそこまで必要じゃないかも」
「……弓」
無口の竜人がそう呟くと樽から一本の弓を取り、俺に渡す。
「弓かぁーーでも、能力で作れちゃうんだよね」
「そうなのか。じゃあ、この武器屋の質が良いことをその弓でみんなに見せようじゃねぇか? ほらそこの壁に試し撃ち用の的がある。あそこの的のど真ん中に当てる遊びを俺としようぜ」
「良いよーー任せなさい!!」
そう言って俺と話せる方の竜人が弓を持って隣の試し撃ちの場所へと向かう。
「さぁさぁ見てってくれ!! この武器屋の武器の性能を実演してくからな!! ここだけしか手に入らない上質の武器だ!! さぁみていきなぁ!!」
竜人が大声を上げて周りにいる客を呼び寄せるとゾロゾロとギャラリーが増えてくる。
うわぁ……マジかよ、ちょっと緊張するじゃんか……
「今から私がこの子と勝負をします! ルールは遠くにある的にどれだけ中心に撃ち込むことができるかを競うぜ!
対戦相手はこの宿屋で働くリーダーであり俺たちの命の恩人、ケルトだーー!!」
「あの、よろしくです……」
俺は緊張のあまり顔が赤くなり、もじもじと縮こまってしまっていた。
しかし、そんな様子を見たギャラリーから暖かな声援が飛んでくる。
「頑張れーー!!」
「可愛いーー!!」
「今日惚れましたーー!!」
時々変なのが混ざってるけど、引きつった作り笑いを見せて的の方へと向く。
的はざっと20メートルぐらいあり、立って眺めてみると意外と的が小さく感じた。
「じゃ、俺からいくぜ」
竜人が弓を引き、的へ打ち込んだ。矢はまっすぐ飛んでいき、真ん中よりやや右に刺さる。
え、うま……
今日は無風だったといえ、想像よりも上手く飛んでいる。
周りで見ていたギャラリーたちも首を縦に振りながらその様子を見守っている。
「ふぅ……」
「上手だね!」
「ああ、暇なときはよく弓を撃って遊んでたからな。さて、次はケルトちゃんの番だ!」
そう言って順番が交代され、今度は俺の番になる。
さて、これはお店のイメージUPのための勝負なので勿論良いイメージにできれば良いんだからずるしても良いよね?……と言うことで……
俺は弓をゆっくり引いて、直ぐに打ち込んだ。撃ち込まれた矢は的に吸い込まれるように真ん中へと直撃する。
ギャラリーからは「おぉーー!」と言った声が上がる。
俺はさらに畳み掛けるように弓を撃ち込む。その弓は同じように真ん中に刺さり、的の真ん中全てが矢で覆われた。
勿論の如く、スキル【自動追尾】と【絶対必中】によってできる技だった。
ポカーンとした顔で見ている竜人が我に帰るとギャラリーに向かって話始める。
「こ、このように!! ここの武器は命中率にも優れてるんだ!! よ、よかったら買ってってくれ!!」
そう話をすると、すぐにギャラリーが金貨を持って武器屋へと並ぶ。
「弓を3つくれ!!」
「俺も俺も!!」
「セットで剣も買うよ!!」
「毎度ありがとうございます♪」
俺はお客達に笑顔でお礼を言いながら見送り係を務める。
俺の実演販売によって今日の儲けが3倍になったとか……
たまにはこう言う能力の使い方も悪くないかも。
そろそろ、時間か……戻って受付の仕事に復帰しなきゃな。
俺はお昼の間ではあったがバザーを一通り楽しむことができた。いつかもっとこのバザーが大きくなれば良いなと願うケルトであった。





