86 新施設がオープンします!
ケテルネス城でゆっくりと一泊して、今日から宿屋に戻ることができる。
朝の身支度を済ませてからみんなでケテルネスにあいさつに向かおうと思ったのだがマロンからケテルネスは早々とお仕事に出かけたと話した。ケテルネスの代わりに見送りはマロンを含めたメイド一同がしてくれるそうだ。
そして、俺たちの馬をケテルネスが用意してくれたみたいで城の横の馬小屋から好きなのを持って行くと良いとも言っていたそうだ。
正に神対応ってやつ。
俺たちは一人一人馬を選んだあと、アミュラはガクトの馬に乗せてもらって帰る準備はOKだ。
「じゃあ、私たちは行きますね! 色々お世話になりました」
「いやいや! お礼を言うのは私たちの方です!! あなたたちに出会ってからケテルネス様もかなり性格が丸くなった気がしますし、これでまた民との友好関係も築いていける大きな一歩になっているはずです。こちらこそありがとうございました! またいらしてくださいね!!」
「俺からもお礼を。色々お世話になった」
ガクトが馬の上からぺこりと頭を下げる。
「ガクトさん!! アミュラちゃん連れてまたいらっしゃってくださいね!! 町でアミュラちゃんに似合いそうな服とか見つけておきます!」
「ははは、そうする」
「……じゃ、いこっか!! また来るからーー!!」
馬を走らせ、後ろにいるメイドたちに大きく手を振りお別れしながら俺たちを待つ宿屋の方へと向かって行った。
そして、数時間が経ち……
「ただいまーー!!」
俺たちは1週間ぶりくらいに宿屋バニランテへと帰ってきた。
「あらーー♪ おかえりなさいみんな♪」
早速迎え入れてくれたのはエルマさんだった。まだ朝方なので宿屋はまだ営業前、エルマさんはもう制服に着替え、着替えなどを運んでいた。
「エルマさん! ただいま!! 早速なんだけど少しだけお話があります」
「あら? 何かしら?」
「アミュラをここで働かせても良いですか?」
「大歓迎♪」
「やったあ! 良かったねアミュラ!!」
いつも即決で物事を判断できるエルマさんがすごいと思いつつ、ここでの住み込み働き交渉があっさりと成立した。
「でも……人が増えて、大丈夫なんですか?」
アミュラはどこか心配そうな目でエルマを見る。しかし、そんなアミュラに対して満面の笑みでエルマはアミュラの頭を優しく撫でる。
「そんなこと、あなたが気にすることではないわよ。それに看板娘が増えるとお客様も多くなってくるから私たちも嬉しいのよ。うちのサラも喜ぶと思うし、あなたと同じく住み込み働きしている子だっているのよ? なにも心配することないわよ。ようこそ、宿屋バニランテへ」
「……私! 慣れてないけど、お仕事頑張ります!!」
「うふふ、みんな朝ご飯は食べてきたのかしら? 食べてないならみんなで食べましょ? そろそろサラとカナちゃんが起きてくる頃だから食堂の席に着いてて頂戴ね♪」
はーーいと全員が返事をして、人数が多くなったためにお店の食堂に全員が座る。やはりこの場所にも慣れてきており落ち着きがある。今回もいろいろあったけど当分はゆっくりとサービス業にいそしめるかなぁ……なんてね。
ダンとユシリズがキッチンからカップを人数分出して、水を配り始める。
「ほいよ」
「ありがと」
丁度喉が渇いていたので冷たい水の入ったカップを口につけた……その瞬間……
「ケルトちゅわああああああああああああああん!!!!!!!」
「ごふぅ!!!!」
後ろから猛烈な勢いで肩に抱き着いてきたサラによって遮られた。
「さ……サラ!! 勢いがすごいよ……」
「えへへ~~♪ やっと帰ってきた私の元気成分♪」
俺をサプリメントか何かと勘違いしているのかそれとも猫にマタタビなのか……サラは俺に抱き着いたまま、頬をすりすりとしてくる。
やっぱり、恥ずかしいよ……
「こらサラちゃん!」
後ろからまた声がした。同じく住み込み働き中のカナだ。
「サラちゃんだけずるーーい!! 私もケルトちゃんにすりすりする!!」
そう言ってカナも俺の腕を掴み、サラとは逆側の頬をすりすりしてくる。
「あわわ……ちょ、ちょっと二人とも!」
サラはまだしもカナにもすりすりされては……これではすりすりサンドイッチではないか!!!!!
俺の心に残る男心が羞恥心を隠し切れず、俺の顔は赤面し、精神は撃沈した。
空気が抜けたように俺は動けなくなり、サラとカナはすりすりし続けている。
し……幸せ……
「な……サラたち、ケルトがもう死にそうだから放してやった方が……」
俺の事を気にしたのかユシリズがサラたちを止めに入る。
「ケルトちゃんが悪いんだよ?」
「私たちを寂しくさせるんだから……」
「あーー……じゃあだめだわ」
頑張れよユシリズーーーー!!!! てか、ユシリズとか前々から思ってたけど、俺の中身が男であることを利用して少々楽しんでるところあるぞ!!
もっとこう、羨ましいとかないのかよ。
「百合は尊い」
アマこの野郎!!
そんなことになってるところにエルマがやってくる。
「ケルトちゃーーん、またあなたにお客様ですよーー」
「……はっ!? え!? はーーい! 今行きます!!」
自然に二人の拘束を剥がすとエサが足りない小動物のように名残惜しそうに二人は俺の方を見ていた。
そして、入り口の前までやってくるとそこに見覚えのある顔があった。
「どうもおはようございます。お久しぶりですねケルト様」
「あ!! アナンタ村のノイのお母さん?」
「僕もいます!!」
「ノイも来てくれたの!?」
そう、お客様とは俺たちが救ったアナンタ村の村人であるノイとノイの母親カリンだった。
「あの件については本当にお世話になりました。おかげで死者は出ずに村も焼かれずに済みました」
「みんなが無事で私たちの方が安心してます。ちなみに……ここから結構遠いはずですけどどうやって来たんですか?」
「実は、村の人たちと何かお礼ができないかと相談してて、私たちと一部村人を連れて、徒歩でモリカの方までやってきました。そうしてモリカの兵士様に話を伺ったらケルト様のお知り合いってだけで馬を出してくれてここまで連れてきてもらったんです」
ええ!? 何それ!? そんな社割みたいなことになってるのか俺……びっくり……
「徒歩でモリカまで来てたなんて……そこまでして私たちに気を使わなくても良いのに」
「私たちは村も命もあなた方に助けていただいたのですよ? それにお礼の一つもしないなんて許されることではありません。ましてや、それに同等な報酬も渡せるわけではありません。ですから少し提案がるのです」
「提案ですか?」
「素晴らしい宿屋さんですね。ここにはお客様がたくさんいらっしゃるのでしょう? もっとお客を増やしたいと思いませんか?」
「と、言いますと?」
「宿屋さんの近くにキャンプを張って、そこでショップを開きたいなって。もちろん売上の8割を宿屋様の方に入れたいと思っています。並ぶ品は私たちが自家製で栽培している食物と
簡単な雑貨やアイテム、武器や防具は扱ってないんですけど……言ってくれたらテントも余っているのでお好きに使っても大丈夫です」
ショップ!? 今度はショップですか!?
ショップができることはかなりメリットがある。俺たちの身支度とか食料品とかわざわざモリカに行かなくてもできるようになるし、宿屋側からしたら、集客力と資金力も上がる。
それにテントを借りればラミーさんの武器とか防具も売れるのでは!?
素晴らしい、もしこれが実現できればかなりここも発展できる……のだが……
「でも、荷物とかどうするんです? 食物とか道具とか持ってくるのに時間がかかりそうですけど?」
「はい、そこなんですけど……モリカの兵士さんがこんなものを……少し外へ出てもらえますか?」
そう言って外に出る。外には何人かの竜人が待機して待っていた。多分一緒に来た村人だろう。その後ろにある物に俺は驚いた。
「え、これって」
「そうです、荷馬車です」
モリカの兵士が置いてったものは馬二頭で引っ張る荷物も人も運べる荷馬車が何と……2台も来ていたのだちゃっかりうちの馬小屋近くに置いていったらしい。
「兵士さんからは丁度渡したかったからこれで乗せていくよって言われて、これは自由に使って構わないとおっしゃってました」
なんだそれ。めっちゃ優遇されてるじゃん。でも、確かにこれがあれば荷物運びも多少時間はかかるけどできそうだ。
「うーーん素晴らしい意見だけど……エルマさんに聞いてみないと……」
「エルマ様には許可をいただきました」
「早ーーい!!」
「あとはケルト様だけと言われました、いかがでしょうか?」
「いや、でも、村の方は大丈夫なの? 復興とか?」
「そちらは、まだ多く住んでる村人と復興係のガラクリオットの兵士様が行ってくれます。私たちは村人すべての思いを持って貴方様に仕えに来た所存でございます」
「……そこまで言うならお願いしちゃおっかな!!」
こんな軽いノリで良いのかな……まぁ大丈夫でしょ!!
その言葉に竜人全員の顔が明るくなり喜んだ様子を見せる
そして、カリンを筆頭に竜人全員が俺に向かって膝をつき、頭を垂れる。まるで、神にでも出会っているかのように。
俺は動揺を隠せない。
「え? え?」
「ケルト様、私たちは竜人の誇りをそして自国の神の存在を忘れず貴方達のために誠意をもって働くことを誓います」
「……よ、よろしくね」
俺はとりあえずニコッと笑ってみせた。
「ケルト! アミュラに会っても良いかな?」
ノイが笑顔で言う。
「うん! 勿論、みんなにも紹介するよ!!」
そうして、今後の事を皆に伝える傍で挨拶を交わすために
竜人達を中に入れた。
こうして、俺たちの宿屋にアミュラとファンロンが迎え入れられ、そして付近にショップがオープンすることになり、数人の竜人も俺たちの元に付くことになった。
問題を解決する度に宿屋の繁栄が反映していく。それはとてもいいことだ。実際エルマもサラもこのことを喜んでるみたいでそれなら大丈夫だろう。
もしこのまま行ったらいつか、宿屋が国になってたりして……なんてね……それなら今度は自衛力が必要だなとか思ってみたり。
まるでシミュレーションゲームのような妄想を抱いて楽しんでいる自分もいる。
何はともあれ、またまた賑やかになるぞ!!
こうして、俺たちの宿屋に新しい要素が加わったのだった。





