77 張り詰めた朝食
次に目が覚めた時には窓から日の光が差し込まれ、直射日光が顔に当たる。日の眩しさに耐えきれなくなったガクトはすっとベッドから起き上がる。
傷の痛みも頭痛もなくどうやらしっかりと完治できたみたいだった。
「包帯、外していいか……」
ゆっくりと頭に巻かれた包帯を取っていく。最後の一巻きをほどいた時、包帯に何か書いてあることに気づいた。
ガクト様へ
この包帯を解いたということはお怪我が良くなったってことですよね。少し経ちましたら私が朝食会場へご案内します。安心してください。尋問などそう言った類の事ではございませんので気を楽にしてお待ちになってください。
と書いてあった。
それを読み終えたとき、部屋のドアが開かれる。入ってきたのは夜にガクトと一緒に話をしたメイドの子だった。
「おはようございますガクト様。今日は良い天気ですね」
「おはよう……」
メイドはゆっくりとガクトへ駆け寄り包帯を受け取る。
「使用済みの包帯は私がお預かりします。体調の方は良さそうですか?」
「もうどこも悪くない。助かった、ありがとう」
「えへへ~~完治したみたいで良かったです。ケテルネス様やりすぎです、まったく……」
「それと朝食会場って」
「はい、ご案内しますねこちらです」
そう言って廊下に出るとメイドに連れられて長い廊下を歩く。白い壁に絵画がたくさん並ぶその道はリベアムール城と似たところがある。
静かに歩みを進めていくと道の途中にある大きな扉の前で止まる。
「こちらが朝食の会場でございます。それでは中にお入りください」
メイドが扉を開く。扉の向こうを見ると大きなお皿の上には豪勢な料理がたくさん並べられている。まるでホテルの朝食でよく見るビュッフェ形式のような朝食だ。
どれもキラキラと輝いているようなその料理の見栄えと種類に見惚れてしまいそうだった。料理が並んだ道を進んでいくと大人数用の長テーブルがあり、その中心に一人だけ誰かが座っていた。
「来るのが遅いぞ。あーしはもう腹が空いてんだ」
「ケ……ケテルネス!」
そこにいたのは紛れもなくこの国の神ケテルネスの姿だった。ケテルネスは頭を掻いて大きなあくびを見せ、いつもの貫禄がなかった。
「あん? なに? あーしの顔に何かついてるか? あれ? もしかして、あーし化粧できてなかった!?」
ケテルネスは胸元から手鏡を取り出すと顔を覗き込む。
「あ、できてんじゃん」
「ケテルネス様、ガクト様がいらっしゃったので二人でお食事楽しんでくださいね!」
「ちょっと待って」
「はい?」
「今2人でお食事って聞こえたんだけど……」
「はい! ケテルネス様がガクト様と2人でお食事がしたいということですからお部屋をご用意させていただきました!!」
ガクトはこう思った。
(嘘だろ……?)
ものの数時間前に叩きつけられた奴と食事を共にするなんて誰でも驚くだろう。ガクトもそのうちの一人に入るはずだ。
それを今、傷が治ってすぐに食事をする相手も相手なのだから躊躇してしまう。
「安心しろ、別に取って食おうなど思ってるわけではない少し話がしたくてな」
「……そうか」
「あーしとの食事は嫌か?」
正直に言うとプレッシャーは凄まじいものではある。美味しく料理を楽しむことができないかもしれない。もしかしたら食事が喉を通ってくれるのかが危うい。
しかし、そんなことよりもガクトはケテルネスの話を聞きたい好奇心があった。
「いや……」
「じゃあ座りな」
俺はゆっくりと手前の椅子を引き、腰を下ろす。
メイドは一言「それでは」っと言うとこの部屋から出て行ってしまった。結局この部屋にはガクトとケテルネスだけの空間となり、目の前にはテーブルに肘をついてガクトのことをジッと見つめるケテルネスがいる。
いつか顔に穴が開くんでは無いかと思ってしまうほど凝視されてもこっちはどうして良いか分からなかった。
そこから数分経ってケテルネスが口を開く。
「確か……ガクト=シグムンドって言ったか。お前の名前」
「ああ……そうだが?」
「ふーん……」
「何かへんか?」
「いーや、良い名前だと思う。だが、1つだけ疑問があるんだ」
「?」
「お前が……何でその家名を持ってんだ」
ケテルネスは急に鋭い口調になる。そして、さっきまでただ人を凝視するだけの目では無く、真実を見定めようとする眼に変わっていた。
ガクトは一瞬でまたケテルネスに恐怖を抱かれたがぐっと堪えて相手に目を合わせる。
「どうしてそんなことを聞く?」
「質問を質問で返すな。あーしが先に質問してんだ。答えろ」
「……」
一瞬答えるかどうか迷った。ここで正直に話すか、それとも適当な事を言ってはぐらかすか考えていた。
正直に話すか……はぐらかすか……
「……お前、今、理由を話すか話さないかで迷ってるな?」
「え?」
「3種類の人間がいる。嘘も真もどちらも息を吐くように言える者。考えに考えてどちらを言うか考える者。そして、嘘も真も言い方を知っている者だ。お前は2番目の人間だと言う事だ。それに、あーしと2人になってから結構思考をやめないだろ? 顔に出ているのでバレバレだ」
もはや嘘をつくのかつかないのかも筒抜けとはあの眼は嘘ではない。ただ睨み付けているわけではなく、俺の挙動、目の動き、全てを見ていたんだ。神の観察眼に緩い嘘は通用しないようだ。
「じゃああーしの意見を言おう。お前が例え、嘘をついても本当の事を言ってもあーしはその答えによってどうこうしようなど思っていない。単にただ話がしたいだけだ」
「……本当か?」
「あーしは嘘はつかない。あ、ちょっとはつくかも? でも今の言葉は……真実だ」
ケテルネスの鋭い視線は俺から1ミリもぶれることはなかった。ただまっすぐにその視線をガクトの瞳と合わせている。
その瞳に嘘の濁りが一つも見えない、ただ情熱に黄色く輝いた光彩がそこにはあるだけである。
「……参った。言うよ」
「はぁ……最初から言えっての」
「俺……いや、俺たちの家名はワンス地方のモリカにいる神、リベアムールから貰ったんだ」
「リベアムール……リベアムール!? あの頭の硬いど真面目なやつにか!?」
リベアムールと聞いた時、ケテルネスは初めて驚いた表情を見せていた。
「ああ、俺たちに家名がないから付けてやるとかなんとかでそれに俺たちと言うかまぁケルトだけかもしれんがリベアムールの代わりに仕事を担う代行人ってのにもなっている」
「あいつがそんな事をねぇ……それで今回の件もリベアムール様の命令って訳かい?」
「いや、今回の件は特例で俺たちが勝手に動いてるだけだ。なんせ、うちのリーダーは困った女の子には弱くて」
「……」
「ケテルネス? どうした?」
「大丈夫だ。それと……呼ぶときはケテルネスさまだ!」
「あ……すいません」
「まぁ良い……でも、そうかリベアムールの奴もこれまた臭いことを……」
ケテルネスはブツブツと何かを言ったり、時々クスクス笑った後、俺の方に向き直る。
「悪い悪い、家名の話だったな。 まぁ続きは腹ごしらえしてからだ!! ほら、飯取りに行くぞ飯♪」
ケテルネスは立ち上がると笑顔で歩きながらルンルンと重ねてある大皿を取り、片っ端から料理を皿に盛り付けていく。
全種類を盛り付けたお皿の上はまるでアニメでよく見る大きな山のようになっていた。
「どうした? お前も盛って食べろ?」
この神……本当に何を考えてるのか分からないな……





