7 相手の弱点を突け
Q,この世界の魔物は?
A,この世界の魔物は地方によって生息している魔物が変わります。
自然が豊かならそれに沿った魔物、寒い地域には寒さに強い魔物など多様に広がっている。
ワンス地方はそんな強い魔物はいないとされていますが、最近では生息しないはずの魔物が別地方にうろついているみたいです。それも大軍で……
<登場人物>
古河 経→ケルト
佐野 卯月→ユシリズ
増岡 柳太郎→ユウビス
岡田 学人→ガクト
三ツ矢 弾→ダン
阿野部 慎→アマ
「ケルトよ……聞こえますか?」
ん?誰だ?またあの時と同じ、透き通った女性の声が聞こえてくる。
「よくぞ最初の危機に立ち向かい、乗り越えることができましたね。とても順調です。どうか死なないようにね。私の元に来るまでは」
ああ、また意識が薄れてゆく。あなたは誰なのか?
「……ルト……ケルト!起きろケルト!朝だ!」
ん?あれ?ユウビス?ああそうか、俺たちは確か森を抜けてからもこの広い草原を歩いてたんだっけ。そしてみんなで疲れてしまって野宿をしたんだっけ。森の外に出てから驚いた。
森から出ても辺りは大草原、町や村は何もなくただこの広い大地を突っ走る鹿の群れ、バッファロー、ヘルハウンド……ヘルハウンド?
ともかく今の目標はどこでも良いからこの世界の人に会うことだ。会って話を聞けば何か此処の世界のことについて聞けるかもしれない。そのためにも急いで行かなくては。
俺は立ち上がろうとするときゅるるるーーとおなかの虫がなった。そうか何も食べてなかったなそういえば……。
周りでは未だに寝ているユシリズとガクトを起こそうとアマとユウビスが手こずっていた。
今暇そうにしているには……まあダンだけだよな……
俺はダンと朝食がてら動物の狩猟に誘ってみよう。
「ダンおはよう」
「おおケルトちゃんおはよう!」
「今ダン暇だろう?あいつら2人起こすのに大変そうだから、俺たちで朝ご飯取りに行かない?」
「お!狩りの時間かいな!ええなぁ、最近何も食べてへんかったからな。肉が食べたいな・・・頑張ってな!!ケルトちゃん!」
「いやいや、お前も行くんだよ」
俺はダンを無理矢理引っ張り、連れて行く。
「まじかいなーーー! 自信ないでーー」
「良いよ、大丈夫だから」
俺とダンは少し離れたところまで歩いて行く途中にダンの能力について聞くことにした。
「なあ、ダンの能力ってどんな感じのやつ?」
「ほい」
そう言うと俺のシステムに情報が送られる。
<<ダン様のスペシャルスペックは解析済みです>>
<<解析率60%で表示します>>
Name:ダン
SEX;男
スペシャルスペック(SS):
【観察者 Lv.2】
スペシャルスペックステータス:
破壊性:E 支援性:SSS
応用性:S 成長性:S
自己防衛性:E
初期スキル
特殊スキル:【物体解析】
対象に備わった情報について詳細に知ることができる。それは無機物から生物まで解析可能。
:【非対称の目】
右目で対象の熱感知を行うことができ、左目で対象の距離に応じて望遠鏡的機能を付与させる。
:???
:???
なるほど、ダンの能力は索敵や分析系の能力なのだろうか。俺たち側からでも分かってしまうとはこれは頼もしい能力だ。これからに期待かもしれない。でもこれがかなり強いのか?そうとは思えないが。そんなことを考えているとダンに袖をつかまれ茂みに入る。
「ケルトちゃん見てみ!あれ!」
見ると群れにはぐれた一匹の鹿が池の畔で水を飲んでいるのを見つけた。
「ケルトちゃんゆっくりやで」
「うん……」
俺はスキルの準備をしようとしたとき、俺は小枝を踏んでしまい、その音で逃げられてしまった。
「あ~惜しかったなぁ」
「ごめん……」
「大丈夫やで!!今度は俺がやったる」
ダンは半泣きの俺の肩を叩くと自分の胸を叩いた。
俺たちはさらに歩くと逃げられた鹿をまた見つけた。
「ダン……どうするの?」
「これを使うで」
ダンは懐から手で持てるサイズの小石を出した。
俺はきょとんとして聞いた。
「ただの石?」
「ただの石も俺にかかれば強力な武器になるで」
そう言うとダンの目が光る。
「俺に……任しとき」
<<発動:非対称の目>>
ダンの目が右は赤色に左は青色になる。
「距離は10メートル、体全体は青いから冷えてる。でも頭だけ火照りがある。てことは、そこが弱点やで!そりゃあ!!」
ダンの投げた石は一直線に鹿の頭部に命中し、鹿は脳しんとうを起こして倒れた。
「すごい、小石だけで……」
「攻撃力だけがすべてやないで!標的についてじっくりと観察することも大きな作戦であり、強力な武器にもなるで」
最小限の攻撃力を強力にさせる。やはりダンの力も強力なのかもしれない。
「ほな、これもって帰ろか」
俺とダンは2人がかりでこの鹿を担いでみんなのところへ向かった。
帰ってみると全員しっかり起きてた。ユウビスが出迎えてくれた。
「お、飯とってこれたんだな、じゃあ早速飯にしよう」
「こんなこともあろうかと焚き火の薪を用意しておいた」
ガクトは大量の薪を担いで持ってきていた。
さすが、仕事だけは早いな。
俺たちは調理の準備をするためガクトが持ってきた薪を集めた。
「ユシリズ、お前の炎の力で火をつけて」
アマはユシリズにそう言うと苦い顔をしていた。
「俺の能力そんな風に使うのかよ……」
「楽だからね」
ユシリズは渋々と手を伸ばす。
「しょうがねぇな……『大発火』弱火!!」
<<発動:大発火>>
そう言うと、小さな火が薪に移る。めっちゃ便利だ。
「さて、じゃあその鹿これで捌いて」
そう言ってユシリズが俺に渡したのは細めだがかなり尖った硬い石である。
「え? 私?やったこと無いんだけど……」
「いやいや、俺もやったこと無いから」
「この中で鹿捌けるよーって人いるー?」
俺がみんなにそう声を掛けると誰も手を上げず、顔を背ける。
「ええ……どうしよう……こんな時に素材剥ぎ取りができたら……」
そう心から思った時、システムが目の前で反応を見せる。
≪【能力制作】の能力により、以下の能力を生み出し取得しました≫
スキル名:【剥ぎ取り:極】
種別:一般スキル
詳細:動物や魔物の素材や肉を手に入れる技術
極効果により、剥ぎ取りに不十分な道具でも魔物や動物でも剥ぎ取りが可能になる。
「うわ! 出た!?」
「ん? 何が?」
「新しい能力が出来たよ……」
「どんな?」
俺は運んできた鹿の方を見る。すると、システムが解析を始め、切り取るべき箇所が丁寧に切り取り線のように表示される。俺は鹿に近づき、貰った石を使って鹿を切り取り線に従って切っていく。尖った石の先端が肉に突き刺さるとカッターナイフのようにスパッと切れる。俺は黙々と鹿の食べられる箇所の肉を切り出していく。 後ろで見ていたユシリズを含めた仲間達は素っ頓狂な顔をしながら黙って見ていた。
そして、解体作業はかれこれ10分程で終わってしまった。
「ふう……出来た……うへぇ、血で手がベトベトだよ」
鹿から取り出された肉は赤黒く、生で見るとグロテスクなものだ。それを右手で持っている少女とは凄い光景である。
「成る程な……大体理解したよ……便利な能力だなおい」
「本当だよね、はいこれ」
そう言って俺はユシリズに肉を差し出す。
「触りたくねぇ……」
ユシリズは嫌々肉を受け取ると鉄棒で肉を串刺し、鹿を丸焼きとして調理し始める。
こうして、俺たちは束の間の食事を楽しんだ。ただただ丸焼きにした鹿の肉を食べる。もちろん味付けはしていないから味がないのはしょうがないのだが、獣の肉は非常に臭かった。これは食べられるものではなかったが、そんな臭みよりも空腹が勝り、文句を言いながらも鹿肉を食した。
「やっと食べ終わった……今度はましな食べ物が食べたい……」
ユウビスがぐったりとうなだれる。
「なあ、聞いてくれ、あっちの方角から人というかそんな感じの気配が少しするんや」
ダンが指を指す先はまだ何も見えない。生物の反応が分かるというダンの能力なのだろうか? まあでも此処で長居する訳にも行かない。俺は足で焚き火の残り火を消した。
俺は声をかける。
「よし!みんな、次こそは人に会うぞ!」
「やったるで!」
「うっ……ダン……お前獣臭い……」
「やかまし!」
俺たちは鹿の骨だけを残し、歩み出した。
2020年3月5日 文章を大幅に追加しました。