68 アナンタ村防衛戦 その3
とうとう、条件は揃った。あの時、失敗した経験を生かして今度こそ成功させる。成功させるんだ。
下を向いて深く深呼吸をして、身体の興奮を抑えて集中力を高める。
周りには魔物の泣き声、仲間達の戦う音、逃げる途中で遠ざかっていく村人の足音と焦りの声……その全てを聞き分ける。
突然動かなくなった俺の様子を上空で見ていたファフネリオンがあざ笑っている。
「どうした? まさか、もう為す術が無くて絶望したのか? まぁ頑張った方だ……だが俺の方が一歩うわて……」
「いや、違うわ」
「何?」
俺はファフネリオンの言葉を遮り、目を閉じたままゆっくりと歩みを進める。
そのまま、少しずつゆっくりと目を開くと集中力がいつもよりも増しているのか、視界にはっきりと敵の見分けが付くようになっていた。これは意識しているのでは無い。ケルトの無意識だった。
俺は手は刀の柄へと運ばれ、握りしめる。居合いの構えを取り、空中に見える全ての敵を捕らえたその時、一気に刀を抜いて一払いする。
「行ってこーーい!!!!」
≪発動:破砕の波紋≫
≪詠唱:魔法封鎖術≫
≪処理中……≫
≪発動:合体スキル 【魔封の荒波】≫
刃に触れた風が激しい波となって広がっていく。激しい衝撃波となった風はワイバーンの群れを切り刻み、空にハエのように集るそれらが蚊取り線香にでも当たったかのように地上へ打ち落とされていく。空だけでは無い、陸の村周辺の魔物の場所へ広範囲に広がり地面にバッタバッタと倒れ伏せる。
はなたれた波は仲間の方へも向かっていくが波が生きているかのように寸前でなめらかに波が自ら避けて魔物だけに当たるのだ。
そして、このスキルの力はそれだけでは無い。風に乗って更に広がる波は魔方陣にまで達し、貫通すると魔方陣を打ち砕く。
そう、攻撃しつつ魔法を打ち消す効果を持っているのだ。これで、魔物が無限に増えることは無くなった。
成功した……俺はゆっくりとまた刀を腰に納める。
「ケルト……ぬしの力、真の者か……」
ファンロンもこれには驚いている。
「ケルトって……こんなに強かったんだ」
「そうやで。でも、多分これからもっと強くなるかもしれん」
ファンロンの上に乗っているアミュラとダンは村を見回し、さっきまで村を取り囲んだ魔物の群れの光景が嘘だったかのように死体だけが転がるその様を見つめていた。
一方、村入口メンバーもその様子に笑っていた。
「おいおい……また仕事取っていきやがって……ははは……強すぎだわ」
「でも……全滅させてたらもっと凄かったかも」
アマの言葉で2人は正面を向くと確かに残党はちらほらと残っている。
「あ……ほんとだ。何だよこの残尿感……」
「汚いよユシリズ。残りの掃除……やるよ!!」
「へいへい……」
「りょ」
そして場所は戻ってアナンタ村中心部。
勿論、驚いているのは仲間だけでは無い。負けるはずが無いと思っていた軍勢を召喚の根源までやられた事はさすがのファフネリオンでさえも想定はしていなかったようだ。
「これほどの力……どうしてこれほどの力があるのだ?」
「私にも分からない、生まれ持った力が私に味方してくれてるだけ。さあ、観念しなさいファフネリオン!! おとなしくノイを返しなさい!!」
俺は地上から宙に浮かぶファフネリオンに向けて指を指す。
「グゥ……おのれぇ……調子に乗るな!! 人間の分際で……この私に指を指すな!!」
「ファフネリオンよ、貴様はもう終わりだ」
「おのれファンロン……」
「ぬしも、こやつの力を見ただろう……瞬でこの場を自らのものにした力。すなわちこれは神の諸行なり。正直、我もこの力は予想しなかったのだ。我には分かる……長い間この世界を見てきたのだから」
そう言うとファンロンは俺の方を向いて、近づいてくる。
「ぬしは遅かれ早かれいずれ神となる者だろう。昔、ぬしと瓜二つのおなごを見たことがある。そのものはやがて神となった……ぬしももしかしたらその素質を持ったものかもしれぬ」
「私が……神になる?」
「そうだ。しかし、いろいろ説明もしたいがこやつを片付けてからだ。さあ、どうするファフネリオンよ」
空に浮遊するファフネリオンを見上げる。しかし、ファフネリオンは何かを決心したかのような表情を浮かべている。その表情からはまだ諦めた様子はない。
「……止むを得んか……よかろう、このガキはお前たちに返そう。ただ……」
ノイを持ち上げると自身の足元にたたきつけるように地面へと投げつける。
「こいつの命が救えたらなあぁ!!!!」
「ノイ!?」
投げられたノイの速度は片手で投げられたというのに風を切るほど速い速度だった。投げられるのを予測していなかった俺は急いで助けに向かおうとするがスタートがかなり遅れたせいでぎりぎり届くか届かないかの距離を保つ。
このまま受け止められなければ、ノイの体はひとたまりもない。崩れた家の木片を踏みつけながら走り続ける。ノイの高度もどんどん下がっていく。
頼む、間に合ってくれ!!
しかし、スピードを出したとしても距離はやはり間に合わないもうすぐ墜落してしまう。ここまでか……
そう思った時だった。俺の目の前を何かが横切る。そのスピードは瞬間的には俺をも上回るスピードで音が遅れて生まれるほどの速度だった。それが横切ると目の前に落ちてくるはずのノイの姿がない……
俺は咄嗟に横を向く。そこにはまだ気絶しているノイを両手で優しく抱きかかえた、二足の足で立つ黄色い竜がいたのだ。足先から爪の先、顔まですべてあのファンロンとほぼ同じ顔つきである。背中には体を宙に浮かせることができるほどの翼も生えている。
突然の登場に誰しもが驚いただろう。それはファフネリオンも一緒だった。
「き……貴様は誰だ!?」
「……俺だよ」
その竜は言葉を発した。しかも、俺たちが聞き覚えのある声だ。
「ああ、この顔じゃわかりずらいか」
すると、竜の顔が変化する。髪が生え、人間の形になる。それで初めて正体が分かった。
「よう、3日位ぶり」
「が……ガクト!!」
そう、竜の正体は俺たちを逃がすために分かれたガクト本人だった。





